トーセはメタバース関連を材料視して急伸、22年8月期2Q累計大幅増収・黒字転換

 トーセ<4728>(東証スタンダード)は家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手である。成長戦略として開発体制の充実・強化、成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みなどを推進している。4月26日にはメタバース事業等に係る連携協定を締結した。22年8月期第2四半期累計は顧客都合による開発中止案件の発生、不具合改修による開発コスト増加などで期初計画を下回ったものの、全体としては家庭用ゲームソフト開発需要が高水準に推移して大幅増収となり、各利益は黒字転換した。そして通期の大幅増益予想を据え置いた。下期は利益率改善や当初想定していなかった開発案件も見込まれるとしている。収益拡大基調だろう。株価はメタバース関連を材料視して急伸している。目先的には乱高下の可能性もあるが、利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。

■家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手

 家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手で、デジタルエンタテインメント事業(ゲームソフト関連、モバイルコンテンツ関連、パチンコ・パチスロ関連などデジタルコンテンツの企画・開発・運営の受託)、その他事業(SI事業、家庭用カラオケ楽曲配信事業、新規事業の創出)を展開している。

 21年8月期の売上高構成比はデジタルエンタテインメント事業が92%、その他事業が8%、営業利益構成比はデジタルエンタテインメント事業が84%、その他事業が16%だった。

 収益は、開発業務の進行に合わせて受け取る開発売上、コンテンツ配信後の運営に伴う運営売上、コンテンツ販売数量に基づくロイヤリティ売上である。複雑化・多様化するゲーム市場において、豊富なパイプライン展開を可能とする多彩な技術ポートフォリオ、長年の実績とノウハウに基づく信用力、開発売上とストック型の運営売上を持つ安定的なビジネスモデルを特徴としている。

 21年11月には、バンダイナムコスタジオと共同開発した家庭用ゲームソフトの「SCARLET NEXUS」(21年6月発売)が、The Game Awards 2021のBest Role Playing部門にノミネートされた。また22年4月には「SCARLET NEXUS」の世界累計出荷・ダウンロード販売本数が100万本、累計プレイヤー人数が200万人を突破したと発表している。

 22年3月には、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター シリーズ」の開発、ブシロードのスマホアプリ「虹ケ咲学園スクールアイドル同好会 TOKIMEKI RunRuns」の開発を発表している。

■開発体制強化や成長性の高い事業への取り組み強化

 成長戦略として大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化、成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みを推進し、人事・教育・採用の改革も継続している。

 大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化では、各スタジオが獲得した開発技術やノウハウの全社展開、プロジェクト運営の品質向上、データ分析チームの強化を推進する。

 成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みでは、ゲーム開発とビジネス系SIの技術の連携を強化して、デジタル社会に対応した新規事業やゲームに限らないエンタテインメント事業に挑戦する。

 4月26日には、京都市、ANA NEO、およびANAホールディングス<9202>と、メタバース事業等に係る連携協定を締結した。4者で公民連携して京都市のメタバース関連の事業開発を推進する。

 人事・教育・採用の改革では、職場環境整備や人材教育など積極的な人材投資を継続して実行する。

 なお、こどもたちの命を守りたいと願う企業・団体が一体となり、京都のこどもの交通事故防止を目的に生まれた「京のこどもを守るプロジェクト」に協賛している。21年度も、交通安全グッズとしてスウェーデン生まれのリフレクター(反射板)「グリミス」を京都市交通対策協議会に寄付した上で、9月1日「こどもの交通事故防止推進日」を皮切りに、京都府内のさまざまな場所で配布した。21年1月には令和2年度京都市輝く地域企業表彰「地域企業輝き賞」および「地域企業輝き特別賞」を受賞している。

■22年8月期2Q累計大幅増収・黒字転換、通期大幅増益予想据え置き

 22年8月期の連結業績予想(収益認識会計基準を適用だが、21年3月以降に進行していた大型案件については工事進行基準にて進捗に応じて収益を認識していたため、収益認識基準変更による22年8月期業績への影響なし)は、売上高が21年8月期比4.7%増の62億42百万円、営業利益が80.3%増の4億80百万円、経常利益が71.7%増の4億88百万円、親会社株主帰属当期純利益が93.0%増の2億86百万円としている。配当予想は21年8月期と同額の25円(第2四半期末12円50銭、期末12円50銭)としている。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比43.5%増の26億38百万円、営業利益が1億44百万円の黒字(前年同期は85百万円の赤字)、経常利益が1億32百万円の黒字(同83百万円の赤字)、そして親会社株主帰属四半期純利益が66百万円の黒字(同1億03百万円の赤字)だった。

 期初計画に対して売上高は79百万円、営業利益は1億07百万円、経常利益は1億25百万円、親会社株主帰属四半期純利益は79百万円それぞれ下回った。顧客都合による開発中止案件(スマートフォン向けゲーム案件)の発生に加えて、開発コストの増加(前期に不具合改修によるコスト超過があったスマートフォン向けゲーム案件において今期も改修コストが想定以上に発生)が影響した。しかし全体としては家庭用ゲームソフト開発需要が高水準に推移して大幅増収となり、各利益は取引価格改善や原価抑制による売上総利益率好転、新型コロナ感染予防対策費用一巡による販管費抑制も寄与して黒字転換した。なお顧客都合で開発中止となった案件については、開発中止に至るまでの成果物の対価を回収しているため損失は発生していない。

 デジタルエンタテインメント事業は売上高が52.7%増の24億53百万円で、営業利益が1億02百万円の黒字(同86百万円の赤字)だった。売上高の内訳はゲームソフト関連が家庭用ゲームソフトの複数の大型案件の進行などで3.6倍の14億99百万円、モバイルコンテンツ関連が運営案件の減少などで16.1%減の9億41百万円、パチンコ・パチスロ関連がゲームソフト関連への開発人員シフトも影響して83.0%減の12百万円だった。

 その他事業は売上高が20.1%減の1億84百万円で営業利益が42百万円(同1百万円)だった。SI事業が自社の業務システム開発にシフトしているため減収だが、家庭用カラオケ楽曲配信事業のロイヤリティ売上は高水準に推移した。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高が13億70百万円で営業利益が1億20百万円、第2四半期は売上高が12億68百万円で営業利益が24百万円だった。

 通期予想は据え置いた。セグメント別売上高の計画は、デジタルエンタテインメント事業が7.2%増の58億70百万円(ゲームソフト関連が28.7%増の41億11百万円、モバイルコンテンツ関連が19.1%減の17億46百万円、パチンコ・パチスロ関連が89.7%減の12百万円)、その他事業が22.6%減の3億72百万円としている。その他事業は、家庭用カラオケ楽曲配信事業のロイヤリティ売上が堅調だが、新規事業模索の活動を進めるため減収見込みとしている。

 第2四半期累計の進捗率は売上高が42.3%、営業利益が30.2%、経常利益が27.1%、親会社株主帰属当期純利益が23.2%だった。第2四半期累計は計画に対して下振れたが、下期にリカバリを見込んでいる。不具合改修コストが想定以上に発生した案件については改修作業が収束して納品を完了しており、下期以降は取引価格改善で利益率の高い案件も寄与するため利益率改善を見込んでいる。さらに当初想定していなかった開発案件も見込まれるとしている。ゲーム市場の拡大も背景として、先行投資の成果で収益拡大基調だろう。

■株価はメタバース関連を材料視して急伸

 株価はメタバース関連を材料視して急伸している。目先的には乱高下の可能性もあるが、利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。4月27日の終値は787円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS37円74銭で算出)は約21倍、今期予想配当利回り(会社予想の25円で算出)は約3.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS790円51銭で算出)は約1.0倍、時価総額は約61億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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