シナネンホールディングスは調整一巡、脱炭素社会を見据える総合エネルギーサービス企業

 シナネンホールディングス<8132>(東証プライム)は脱炭素社会を見据えるグローバル総合エネルギーサービス企業グループである。成長戦略としてシェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資を推進している。22年3月期は新規事業に係る先行投資やIT投資などで減益予想としているが、再生可能エネルギー分野を強化して中長期的に収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化の影響で3月の戻り高値圏から反落したが調整一巡感を強めている。出直りを期待したい。なお5月13日に22年3月期決算発表を予定している。

■グローバル総合エネルギーサービス企業グループ

 脱炭素社会を見据えるグローバル総合エネルギーサービス企業グループである。事業区分は、エネルギー関連のエネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)、非エネルギー・海外事業としている。国内LPガス流通事業者として国内3位規模である。

 21年3月期セグメント別構成比(調整前)は、売上高がBtoC事業28%、BtoB事業64%、非エネルギー・海外事業8%、営業利益がBtoC事業46%、BtoB事業43%、非エネルギー・海外事業12%だった。

■BtoC事業

 BtoC事業(エネルギー卸・小売周辺事業)は、家庭向け・小売事業者向けLPガスなど各種燃料販売事業、リフォーム・ガス器具販売などの家庭向けエネルギー周辺事業、家庭向け電力販売事業、都市ガス供給事業、LPガス保安および配送事業を行っている。

■BtoB事業

 BtoB事業(エネルギーソリューション事業)は、大口需要家向け石油製品など各種燃料販売事業、ガソリンスタンド運営事業、電源開発および法人向け電力販売事業、太陽光発電システム販売および周辺サービス事業、省エネソリューション事業、住宅関連設備事業、国内外での再生可能エネルギー事業を行っている。マイクロ風車関連事業は21年3月末にさいたま市で実証実験を開始し、22年3月期下期には積雪地帯の北海道札幌市など多様な環境での実証実験を開始している。

 21年4月には再生可能エネルギー導入・調達ソリューションのクリーンエナジーコネクトと提携し、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)に依存しない非FITの太陽光発電所を活用したバーチャルコーポレートPPA(電力購入契約)による新たなビジネスモデル展開を共同構築すると発表した。PPAは企業が太陽光や風力などの電力を発電事業者から直接、長期に購入する契約で、次の再生可能エネルギー調達手段として注目されている。

 21年8月には非FITによる電力供給が環境省の「令和3年度オフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電供給モデル創出事業」に採択された。22年2月からロールモデル確立に向けて事業開始予定である。

■非エネルギーおよび海外事業

 非エネルギー・海外事業は、抗菌事業(抗菌性ゼオライトなど)、環境・廃棄物処理リサイクル事業(木質系チップなど)、自転車の小売店舗「ダイシャリン」および卸売事業、シェアサイクル「ダイチャリ」事業、ITシステム事業、建物維持管理事業、バイオマス事業などを行っている。

 韓国での大型風力発電事業は21年度下期中の商業運転開始を目指していたが、許認可取得が当初予定から遅れているため、計画を見直して商業運転開始時期を未定に変更(21年10月8日付リリース)した。また、ブラジルにおけるバイオマス事業は撤退を決定したが、新たなバイオマス事業への展開を検討している。

 シェアサイクル「ダイチャリ」事業は、OpenStreetが提供するシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」を活用して、首都圏1都3県および大阪府を中心に展開している。21年8月末時点で、ステーション数が全国約2000ヶ所、設置自転車数が8200台を超えて国内有数の規模となっている。なお22年3月期第1四半期には、利用ユーザー数が前年同期比16.5万人増加の31.5万人、利用回数が71.5万回増加の130.7万回と大幅伸長した。第3の交通インフラとして定着傾向を強めている。

 22年1月には千葉県千葉市と神奈川県川崎市の2ヶ所に「ダイチャリ」のメンテナンス拠点エコベースを設立し、使用する電力には「環境配慮型シナネンでんき」の実質再生エネルギー100%メニューを採用すると発表した。環境保全プロジェクト「シナネンあかりの森プロジェクト」にも参画する。

 22年2月には「ダイチャリ」の累計利用回数が1000万回を突破した。またシナネンサイクル、マルナカ、サイクルショップカナガキ、DAIWA CYCLEの4社が、各社がインターネットで販売する自転車を相互の店舗で受け取れる自転車業界初のサービスを開始した。受け取り可能店舗は順次拡大して、全国150店舗以上を目指すとしている。

 環境・廃棄物処理リサイクル事業ではシナネンエコワークが22年3月、千葉県におけるSDGs達成推進に向けた「ちばSDGsパートナー」として登録された。

■資本効率改善を推進

 第2次中期経営計画(20年度~22年度)は、第3次中期経営計画(23年度~25年度)の躍進に向けた基盤整備と位置付けて、定性目標に資本効率の改善、持続的成長を実現する投資の実行、社員の考え方・慣習・行動様式の変革を掲げている。

 資本効率・財務体質の改善では、既存事業の効率化と利益率向上、遊休・低稼働資産の有効活用または売却、資本効率の低い事業の撤退・売却と資本効率の高い事業への集中を推進する。

 持続的成長を実現する投資の実行では、既存事業の収益基盤強化のためのM&Aおよび建物維持管理事業におけるM&Aの実行、シェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資の実行、事業多様化や環境変化に値旺した基幹システムの整備・高度化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)のためのIT投資を推進する。

 20年10月にはDX推進に向けて、インターネットイニシアティブ(IIJ)のデジタルワークプレース(DWP)を実現する各種サービスを採用して次世代IT基盤を構築した。21年12月には経済産業省が定めるDX認定制度に基づいて「DX認定事業者」の認定を取得した。

 定量目標「持続的にROE6.0%以上」を生み出す事業構造確立を目指し、エネルギー関連事業ではM&Aによる顧客基盤とシェアの拡大、新規商材による顧客層の拡大と深耕などで経営基盤を強化し、非エネルギーおよび海外事業では個々の事業環境や特性に対応した成長戦略を推進する。そして既存事業の安定的成長と新規事業開発による高収益化を図る方針だ。なお株主還元は配当を基本として、配当性向30%以上を目安に安定的に配当する方針としている。

■22年3月期は先行投資で減益予想

 22年3月期連結業績予想(収益認識会計基準適用だが損益への影響軽微)は、売上高が21年3月期比12.4%増の2440億円、営業利益が28.5%減の21億円、経常利益が43.8%減の17億円、親会社株主帰属当期純利益が44.8%減の15億円としている。なお収益認識会計基準適用の影響は、検針日と月末のズレによって四半期ごとにプラスマイナスの影響が出るものの、通期ベースでの影響は軽微の見込みとしている。配当予想は21年3月期と同額の75円(期末一括)としている。

 第3四半期累計は売上高が1827億19百万円、営業利益が6億02百万円、経常利益が10億87百万円、親会社株主帰属四半期純利益が4億90百万円だった。収益認識会計基準適用の影響額としては、従来方法に比べて売上高が78億12百万円減少、売上原価が77億18百万円減少、営業利益、経常利益、税金等調整前四半期純利益がそれぞれ94百万円減少した。

 従来方法(収益認識会計基準適用前)に換算して前年同期と比較すると、売上高は37.1%増の1905億32百万円、営業利益は56.9%減の6億96百万円、経常利益は29.9%減の11億81百万円だった。原油価格高騰に伴う販売単価上昇などで増収だが、電力調達コストの上昇、自転車販売事業や抗菌事業における特需の反動減、先行投資に伴う販管費の増加などの影響で減益だった。

 従来方法ベースでの事業別売上高(その他・調整額を除く)は、エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)が16.3%増の476億27百万円、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)が52.4%増の1292億31百万円、非エネルギー事業・海外事業が3.2%増の133億82百万円だった。

 エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)は、春先と晩秋を中心に平均気温が前年と比べて高かったためLPガス・灯油の販売数量が低調だったが、原油価格高騰に伴って販売単価が上昇した。利益面では仕入価格上昇に伴う販売価格への転嫁や棚卸資産の在庫影響などで好調だった。

 エネルギーソリューション事業(BtoB事業)は、石油事業で前年を上回る販売数量を確保し、原油価格高騰に伴って販売単価が上昇したが、利益面は電力調達コストの上昇や販管費の増加などで低調だった。

 非エネルギー事業・海外事業では、シナネンサイクルの自転車販売が前年の特需の反動減、部品メーカーの供給不足、海外輸送費や原材料価格の高騰、為替の円安などで低調だった。シナネンモビリティPLUSはシェアサイクル「ダイチャリ」の拠点開発を推進して順調だった。期末ステーション数は2100ヶ所超、設置自転車台数は8200台超となった。シナネンエコワークの環境・リサイクル事業は取引高が好調に推移した。シナネンゼオミックの抗菌事業は感染症拡大による抗菌需要が一段落し、売上原価も上昇した。ミノスのシステム事業は電力自由化に対応した顧客情報システム(電力CIS)が大幅に伸長した。建物維持管理事業(タカラビルメンなど)は、マンション等の定期管理業務が安定的に推移し、医療施設の感染消毒清掃の新規受注も増加した。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高493億59百万円、営業利益4億17百万円、経常利益5億78百万円、第2四半期は売上高511億59百万円、営業利益4億59百万円の赤字、経常利益2億55百万円の赤字、第3四半期は売上高822億01百万円、営業利益6億44百万円、経常利益7億64百万円だった。なおLPガス・灯油販売は冬場が需要期となる。

 通期予想は据え置いている。売上面は原油価格高騰に伴う販売価格上昇などを考慮して増収予想だが、新規事業に係る先行投資や経営基盤整備に向けたIT関連投資を積極推進し、韓国大型風力発電事業に係る支払利息増加なども考慮して減益予想としている。収益認識会計基準適用の影響は通期ベースでは軽微としている。なお第3四半期累計の進捗率は低水準の形だが、下期はLPガス・灯油の需要期となり、特に第4四半期に利益が偏重する季節要因がある。

 先行投資に伴う営業利益へのマイナス影響額は、BtoB事業の新規事業投資(人件費を含む)で6.1億円、非エネルギー事業のシェアサイクル事業投資で1.0億円、調整額のDX投資(人件費含む)で3.0億円としている。

 セグメント別営業利益計画は、BtoC事業が3.5億円増益の13.1億円(売上総利益の増加で7.0億円増益、住設機器の増販で4.0億円増益、不動産事業の開始で0.4億円増益、物流関係費の増加で2.0億円減益、人件費・営業関係費の増加で6.0億円減益)、BtoB事業が7.5億円減益の1.4億円(売上総利益の増加で1.1億円増益、環境ソリューションの増販で1.8億円増益、物流関係費の増加で3.0億円減益、マイクロ風車および韓国大型風力の新規事業投資で3.1億円減益、環境配慮型電力事業に関する費用等で3.0億円減益、その他費用の増加で1.3億円減益)、非エネルギー事業が0.7億円増益の3.1億円(シェアサイクル事業投資で1.0億円減益、シェアサイクル事業収益改善で2.8億円増益、自転車事業収益改善で0.7億円増益、システム事業インフラ更新で1.6億円減益、その他費用の増加で0.2億円減益)としている。

 なお固定資産譲渡に関して、22年2月に埼玉県川口市の土地・建物を譲渡した。22年3月期の特別利益に9億円を計上する。また東京都品川区のB土地(引渡期日22年4月30日)の譲渡益21億円を23年3月期第1四半期の特別利益に計上予定である。東京都品川区のA土地に関する譲渡益21億円については21年3月期に計上済である。

 22年3月期は新規事業に係る先行投資やIT投資などで減益予想としているが、再生可能エネルギー分野を強化して中長期的に収益拡大基調だろう。

■株価は調整一巡

 株価は地合い悪化の影響で3月の戻り高値圏から反落したが調整一巡感を強めている。出直りを期待したい。4月28日の終値は3235円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS137円73銭で算出)は約23倍、前期推定配当利回り(会社予想の75円で算出)は約2.3%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS4707円96銭で算出)は約0.7倍、時価総額は約432億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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