【アナリスト水田雅展の銘柄分析】イードは下値固め完了、16年6月期も増収増益基調

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 イード<6038>(東マ)は、Webメディア運営とコンテンツ提供を主力としている。株価はIPO人気一巡して調整局面だったが、7月上旬の地合い悪化局面でも6月19日の上場来安値1497円を割り込むことなく、足元では1600円台に戻している。下値固めが完了したようだ。16年6月期も増収増益基調が予想される。中期成長力を評価して切り返し局面だろう。なお8月13日に15年6月期の決算発表を予定している。

■Webメディア運営とコンテンツ提供が主力のメディアコングロマリット

 00年4月設立で、15年3月東証マザーズに新規上場した。M&Aや新規事業開発などで獲得した多数のバーティカルメディア(専門分野に特化した情報を扱うWebメディア)を運営するとともに、顧客にマーケティングサービスやコンテンツを提供するメディアコングロマリットである。

 コンテンツマーケティング企業として、Webメディア運営ノウハウの集合体である自社プラットフォーム「iid-CMP(イード・コンテンツ・マーケティング・プラットフォーム)」をビジネス基盤と位置付けている。

 セグメント区分としては、Webメディアを運営するコンテンツ・マーケティング・プラットフォーム(CMP)事業、およびアンケートなどのリサーチ結果を企業に提供するコンテンツ・マーケティング・ソリューション(CMS)事業を展開している。

 CMP事業では15年6月現在19ジャンル・39サイトのWebメディアを運営し、紙媒体のパズル(クロスワード)雑誌8誌も発行している。M&Aや新規事業開発で専門Webサイトを増加させるとともに、各種専門サイトに対するコンテンツ(ニュース記事)提供や、三越伊勢丹のオウンド・メディア「FASHION HEADLINE」などオウンド・メディアを運営する企業に対してWebメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」を提供するオウンド・メディア支援も展開している。

 オウンド・メディアとは、企業が自社で所有するメディアのことで、自社のプレスリリースだけでなく、対象となる業界の情報を幅広く扱い、その業界全体に興味のあるユーザーを集めることを目的としている。

 またCMS事業では、リサーチソリューション(開発支援調査)や、ECソリューション(ECシステムの開発・運用受託)を提供している。

 各Webメディアによる取材活動から始まり、顧客企業に対して、CMP事業における広告などのマーケティング支援、ビッグデータなどのコンテンツ提供、CMS事業におけるリサーチソリューション、ECソリューションを提供するビジネスモデルだ。収益は、CMP事業ではインターネット広告掲載料・手数料、データ・コンテンツ料金、各種専門サイトへの記事提供料、CMS事業ではソリューション費用となる。

 なお15年6月期第3四半期累計(7月~3月)の売上高は、CMP事業が21億18百万円(内訳は、各Webメディアの対象業界関連企業からの広告収入が約5割、デジタルコンテンツ提供が約3割、紙出版が約2割)、CMS事業が6億39百万円(内訳はリサーチソリューションが約7割、ECソリューションが約3割)だった。

■Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」に強み

 Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の特徴としては、SEO対策やSNS対応などで売上増加に繋げる集客機能、システムの共同利用やフォーマットの共有化によって各Webサイトのローコストオペレーションが可能になるコスト最適化機能、ユーザーから取得したデータを蓄積してビッグデータとして活用できるデータ管理機能、ニュース記事の文章校正システムなど編集を効率化するコンテンツマネジメント機能がある。

 こうした強みを活かして、Webサイトのページビュー(PV)数の大幅増加や早期収益化を実現している。Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」への移行に伴い、M&Aによる取得後概ね24ヶ月以内に単月黒字化を達成しているようだ。

■専門Webサイト数増加戦略を加速

 中期成長戦略としては、既存事業におけるM&Aや新規事業開発の加速、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」提供によるオウンド・メディア支援の強化などで専門Webサイト数を増加させ、PV数増加によって売上拡大に繋げる戦略を推進する方針だ。

 15年5月にはインプレスが運営する「東京IT新聞」事業を譲り受けた。新聞の発行を継続するともに、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」上に「東京IT新聞」のコンテンツを搭載する。また15年5月にはパズル雑誌8誌の発売および広告営業を委託しているマイナビの一部株式を取得(出資比率1%未満)した。

 今後はM&Aの対象範囲を出版社が発行している雑誌・書籍にも広げる方針であり、有用だがデータベース化されていない出版コンテンツを、当社のWebメディア運営ノウハウを活用してインターネット上のコンテンツとして再生する。

 15年5月には絵本・児童書のメディアサイト「絵本ナビ」を運営する絵本ナビを子会社化した。今回の株式取得で、当社の保護者・教育関係者向けニュースサイト「リセマム」と「絵本ナビ」を保有することになり、幅広い年齢層に対応した子育てメディアとしてのポジションを確保し、約13兆円の子育て関連市場に事業展開する。

 15年6月には、オウンド・メディアを運営する企業に対するWebメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の提供について、文具・雑貨・家具のニュース情報サイト「inspi」を運営するコクヨS&T、および国際ニュース・海外旅行・世界のグルメ・世界を旅する情報サイト「タビル」を運営するグルヤクに対して提供を開始した。

 15年6月にはゲームアプリ雑誌「月間アプリスタイル」を発行しているアプリスタイルと業務提携し、スマートフォン向けゲームに特化したアプリメディア「Appフェス」を立ち上げた。スマートフォン時代に最適なゲーム情報発信を行う。

 7月1日には電通<4324>と、中小企業ビジネスの領域拡大と生産性の向上を通じて日本経済と各地域の活性化に貢献するため、ビジネス情報プラットフォーム「HANJO HANJO(ハンジョー ハンジョー)」を立ち上げて本格始動したと発表している。Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」を提供する。

 また7月7日にはAOI Pro.<9607>グループのビジネス・アーキテクツと、マネー関連Webメディア「マネーゴーランド」を共同で立ち上げて本格始動したと発表している。Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」を提供する。

■16年6月期も増収増益基調

 前期(15年6月期)の連結業績予想(3月24日公表)は、売上高が前々期比15.1%増の36億92百万円、営業利益が同12.7%増の5億03百万円、経常利益が同12.6%増の5億04百万円、純利益が同22.4%増の3億20百万円としている。配当予想は無配継続としている。

 第3四半期累計(14年7月~15年3月)は売上高が27億58百万円、営業利益が4億22百万円、経常利益が4億04百万円、純利益が2億44百万円だった。

 セグメント別に見るとCMP事業は売上高が21億18百万円、営業利益が3億83百万円だった。Webメディア全体の月間平均ページビュー(PV)数は前年同期比20.5%増の1億09百万PVとなり、運用型広告を中心に好調に推移した。Webメディアを4サイト追加した効果に加えて、既存事業も自動車ニュースサイト「レスポンス」や教育・受験情報サイト「リセマム」のPVが1月に過去最高を記録するなど好調のようだ。

 CMS事業は売上高が6億39百万円、営業利益が39百万円だった。リサーチソリューションでは、顧客企業が調査費用削減傾向を強めているため受注件数が同18.3%減少した。またECソリューションは、受託開発業務が顧客ECサイトの追加機能開発などで増加したが、運用更新業務は減少したようだ。

 通期ベースの前提は、CMP事業においてはグループ運営サイト数に増減なしとして、月間平均PV数は前期比29.6%増の1億18百万PVとしている。CMS事業においては、リサーチソリューション、ECソリューションとも既存顧客からの増減を見込んで算出している。

 通期予想に対する第3四半期累計の進捗率は売上高が74.7%、営業利益が83.9%、経常利益が80.2%、純利益が76.3%と高水準であり、好業績が期待される。さらに今期(16年6月期)も増収増益基調だろう。

 なお6月11日に、島根県松江市に開発拠点「松江ブランチ」を開設するため、島根県および松江市の三者で事業所等の立地に関する覚書を締結した。島根県および松江市の協力を得て、島根県へのUターン・Iターンを希望するエンジニアを積極採用し、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の機能強化を図る方針だ。

■中期的に収益拡大基調

 中長期ビジョンとしては、既存事業におけるM&Aや新規事業開発の加速、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」提供によるオウンド・メディア支援の強化で、20年に各種専門Webサイト100の運営、売上高200億円程度をイメージしているようだ。

 CMP事業においてはインターネット広告市場の拡大、CMS事業においてはインターネット調査市場の拡大も追い風であり、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の強みを活かして中期的に収益拡大基調が期待される。

■株価は下値固め完了して切り返し局面

 主要株主のうち、三越伊勢丹ホールディングス<3099>、エキサイト<3754>、マイナビ、博報堂DYメディアパートナーズなど、シナジー効果が見込める事業パートナーが安定株主となっている。

 なお7月24日に博報堂DYメディアパートナーズが、Globis Fund ⅢおよびGlobis Fund Ⅲ(B)が保有する当社株式の合計27万6700株を取得したと発表している。これに伴って博報堂DYメディアパートナーズの議決権数に対する所有割合が4.94%から10.62%に増加し、当社の第3位株主となった。

 株価の動き(6月26日付で貸借銘柄)を見ると、IPO人気が一巡して調整局面だったが、7月上旬の全般地合い悪化局面でも6月19日の上場来安値1497円を割り込むことなく、足元では1600円台に戻している。下値固めが完了したようだ。

 7月24日の終値1630円を指標面で見ると、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS71円05銭で算出)は23倍近辺、実績PBR(前期第3四半期末実績のBPS574円11銭で算出)は2.8倍近辺である。

 1500円近辺で下値固めが完了し、日足チャートで見ると25日移動平均線、週足チャートで見ると13週移動平均線突破の動きを強めている。16年6月期も増収増益基調が予想される。中期成長力を評価して切り返し局面だろう。

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