【小倉正男の経済コラム】設備投資:半導体、EV関連で活発化

小倉正男の経済コラム

■設備投資は自己資金、あるいは借入金で?

 配管工事のある有力企業なのだが、用地を取得し資材加工工場、研究開発センターなどをつくると発表した。優良企業であり、内部留保(利益剰余金)は、その企業の時価総額を少し上回る金額となっている。

 工場用地取得、そして工場、研究開発施設建設も「すべて自己資金で賄う」としている。企業サイドの経営者たちとしたら、自己資金で設備投資ができるというのはきわめて素晴らしいというか、世間から評価される、褒められるという認識にほかならない。

 ところが株主総会で、「設備投資は自己資金ではなく借入金で行うべきだ。自己資金というのはそもそも株主資本であり、本来は配当、自社株買いなど株主還元に廻すべき」という株主提案があったというのである。もちろん、その提案は却下されているのだが。

 いやはや日本の株主総会もそこまで来ている。やはり主力工場老朽化で新工場建設構想を進めている他の企業も「当社もそういう提案、要求があるのではないかと懸念している」と。内部留保が充分であり、自己資金で設備投資に踏み切る企業が続出している。経営サイドと株主サイドの立場の違いではあるが、設備投資は自己資金で行うか、借入金で行うか。
 
■半導体関連、EV関連の設備投資が牽引

 そんな話が出ているのは、日本の設備投資が久々に活発化していることと関連している。日本の大企業1700社余りの22年度国内設備投資は19兆6118億円(26・8%増)になるという調査が発表されている。(日本政策投資銀行調べ)

 26・8%増というのは、高度経済成長期以来、すなわち52年ぶりの高い伸び率になるとしている。21年度が新型コロナ感染症で先行き不透明とうことで、設備投資に慎重になっていた面は多少あるにしても、22年度の大幅回復は注目してよい動きである。

 製造業は7兆0276億円(30・7%増)となっている。牽引しているのは半導体関連、EV(電気自動車)関連への活発な設備投資である。「半導体不足」という現象にみられるように世界的に旺盛な需要があり、半導体関連全体が設備増強で増産に向かっている。EVも脱炭素の新しい需要であり、こちらの設備投資も旺盛である。

■設備投資復活は前向きな現象

 いくら新型コロナで少しストップしていたとしても、半導体、EVという新しい需要動向がなければ久々の設備投資活発化はなかったとみておく必要がある。

 米国では景気後退懸念が出ているが、半導体関連、EV関連とも設備投資は旺盛と見込まれている。日本も確かに先行き不透明感は出ているのは間違いないが、半導体、EV関連への需要がピークを迎えたという見方は出ていない。

 ともあれ、設備投資が活発化しているのはこれまでにないことだ。先行きに強い需要=売り上げがあるという確信がなければ設備投資に踏み切れるものではない。内部留保(利益剰余金)ばかりが増え続けてきたのは、先行きの需要=売り上げに確信が持てず、設備投資が手控えられてきたという面もある。

 日本の製造業は、設備投資といえばこのところは中国、アジア諸国など海外で行ってきている。その点、国内で設備投資が活発化しているのは、自己資金であれ、あるいは借入金であれ、歓迎すべき現象である。しかも「賃上げ」とはやや様相が異なって、「設備投資」は自律的な動きの要素が強く、本物とみられる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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