【小倉正男の経済羅針盤】原油価格急落=「デフレの時代」に突入か

小倉正男の経済羅針盤

■1バレル=60ドル台割れに急落した原油価格

原油価格の低迷が止まらない。ついには1バレル=60ドル台(NY原油先物市場)を割り込むといった事態となっている。今年最高値は1バレル=110ドル台(6月)だったわけだからほぼ半値に近い低落となっている。

新年にはさらに下がり、「30ドル原油」、あるいは「40ドル原油」になるという予測も出ている。

「石油ガブ飲み」といわれた中国経済が失速している。ユーロ圏経済も、ギリシャなど南欧諸国の低迷・混迷が続いており、大底からの脱出が遅れている。

しかもOPEC(石油輸出国機構)とアメリカのシェールオイルとの競合関係が激化している。需給面でも供給過剰の傾向が顕著になっている。

■OPECが「骨身を切る戦略」に踏み切る

これまではサウジアラビアなどOPEC諸国は、シェールオイルを無視するというか、ほとんど問題視しないできた。しかし、シェールオイルのシェア拡大に対して、OPECは戦略を一変させた。

OPECは需要低迷に対応する減産は行わないことを決定した。

OPECは、あえて原油価格の低迷を容認することで、シェールオイルの生産・供給拡大にストップをかける方針を打ち出したことになる。

OPECとしては、原油価格低迷という「骨身を切る戦略」を採用し、アメリカのシェールオイルの生産・供給体制に打撃を与えるのが狙いである。

OPECはれっきとしたカルテルの塊だ。そのOPECが皮肉にも、当面はカルテル体制を守るために、あえて競争に挑んだようなものである。

OPECは、中長期では、世界の景気回復動向などを睨み、シェールオイルとの調整を進めて、再び原油価格の高騰を図るのが究極の意向とみられる。ただし、供給過剰が事実として判明している以上、原油価格が再上昇するかどうか、いまや不透明でしかない。

■第1次~第2次オイルショックはOPECの勝利

第1次オイルショックは、1970年代前半~70年代央のことだが、原油価格が1バレル=3ドルから5ドルになり、ついには11ドル台に騰がったことで勃発した。

日本では、店頭からトイレットペーパー、洗剤がなくなるような騒ぎとなり、インフレが加速された。まさに「狂乱物価」の時代だった。原材料価格高騰でコストは上昇したが、製品価格へのコスト転嫁が進んだ。

第2次オイルショックは、1970年代末から1980年前半に原油価格が1バレル=18ドルから30ドル台に上昇したことによるものだ。

原材料コストは上昇したが、製品価格には転嫁が進まなかった。企業は、「原材料高・製品安」の苦境に陥った。スタグフレーションが進行し、企業は不況にあえいだ。全体にモノ余りというか、供給過剰の時代に突入していたことによる。

第1次オイルショックの勃発時には原油価格は1バレル=3ドルだったが、それ以前は1バレル=1ドル程度だった。それが30ドル台になった。OPECの圧倒的な勝利だった。

■本格的な「デフレの時代」が到来する

2000年代になると原油価格は100ドル台に上昇した。これは「第3次オイルショック」というべきもので、「石油ガブ飲み」の中国経済が台頭したことが最大の要因だ。中東諸国の政治的な混迷も100ドル台といった原油価格に拍車をかけた。

この超高騰価格は、OPECにはタナボタのお客が出現した恩恵だった。しかしその反面であまりの超高騰価格は、アメリカのシェールオイル開発・供給を促進させた。
これだけの美味しいマーケットに指をくわえて手を出すなというわけにはいかなかった。

原油価格は、どこまで下がるのか。1バレル=30ドル~40ドルに下がるとすれば、懸念されるのがデフレである。

原材料価格の低下は、コストを低減する。最終製品価格が下がらなければ、利益が生み出される。しかし、世界全体が供給力過剰の状況にあり、原材料コスト低減は、製品価格を押し下げることになる。

企業でいえば、売り上げが下がり、利益が下がることになる――。景気は悪化が避けられない。

今回の原油価格の急低下は、「オイルショック」とまったく正反対、本格的な「デフレの時代」の到来をもたらすということになるのでないか。

(経済ジャーナリスト・評論家、『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■グローバルモデルに匹敵する日本語対応の高性能生成AIを4月から順次提供  ELYZAとKDDI<…
  2. ■優勝への軌跡と名将の言葉  学研ホールディングス<9470>(東証プライム)は3月14日、阪神タ…
  3. ■新たな映画プロジェクトを発表  任天堂は3月10日、イルミネーション(本社:米国カリフォルニア州…
2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■海運株と防衛関連株、原油価格の動向に注目集まる  地政学リスクによる市場の不安定さが増す中、安全…
  2. ■中東緊張と市場動向:投資家の選択は?  「遠い戦争は買い」とするのが、投資セオリーとされてきた。…
  3. ■節約志向が市場を動かす?  日本の消費者は、節約志向と低価格志向を持続しており、これが市場に影響…
  4. ■投資家の心理を揺さぶる相場の波  日米の高速エレベーター相場は、日替わりで上り下りと忙しい。とく…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る