2009年07月04日
液晶テレビ関連銘柄特集:世界市場の販売台数は2ケタ成長
■液晶テレビの販売が好調な背景

液晶テレビ関連銘柄特集:世界市場の販売台数は2ケタ成長 世界の薄型テレビ(液晶テレビ、プラズマテレビ)市場は、販売台数ベースで見ると2ケタ成長が続いている。しかし一方では、販売価格の下落が収益圧迫要因となり、日本メーカーのテレビ事業の損益は大幅に悪化している。
 電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、薄型テレビ(09年4月分から10型以上液晶+PDP)の09年1〜5月累計出荷台数は、前年同期比20・6%増の408・9万台となり好調を維持している。また、米国の調査会社ディスプレイサーチは、09年の液晶テレビの世界市場予測を、従来の1億2000万台から、1億2700万台(08年比21%増)へ上方修正している。地域別では特に、中国の出荷台数を1880万台から2350万台へと大幅に上方修正した。
 世界景気の悪化にもかかわらず、液晶テレビの販売が好調な背景には、世界各国の景気刺激策が後押ししている面もある。特に中国市場では昨年、中国政府が内陸部の消費者を対象として、家電購入の補助制度「家電下郷」を導入したことで、ブラウン管テレビから液晶テレビへの買い替えが本格化している。特に20インチ台の中型テレビの需要が拡大している模様だ。さらに今年6月には、都市部の消費者を対象として、環境対応製品への買い替えを促進する新政策を決定するなど、液晶テレビの需要拡大を後押ししている。また、米国市場では地上デジタル放送化に伴う需要が販売を下支え、日本市場でも省エネ家電への買い替えを促す政府の「エコポイント」の効果が顕在化している。

 
生産委託を加速する主要メーカー

■販売台数は2ケタ成長だが、価格下落が収益圧迫要因

 台数ベースでは2ケタ成長が続いている液晶テレビ市場だが、販売価格の下落も続いており、金額ベースで見れば09年はマイナス成長に転じる可能性も高まっている。JEITAの統計で、薄型テレビを含む映像機器の出荷金額を見ると、08年10月に前年同月比マイナスに転じ、その後09年1月に一旦はプラスとなったものの、09年2月〜5月は4ヶ月連続で前年実績割れが続いている。米ディスプレイサーチ社は、出荷額についても、660億ドルから760億ドル(08年比6%減)へ上方修正したが、それでもマイナス成長の予測にとどまっている。北米市場が堅調に推移すればさらに上振れの可能性があり、08年実績の805億ドル並みに達する可能性も指摘しているが、価格下落が一段と進めば、液晶テレビの出荷額が初めて減少に転じる可能性も考えられる。
 販売価格の下落傾向が続く中、日本のメーカーは09年3月期に、東芝<6502>を除いて、日立製作所<6501>パナソニック<6752>シャープ<6753>ソニー<6758>など、主要メーカーのテレビ事業の営業損益が大幅に悪化した。各社ともに、自社生産拠点の統廃合や人員削減による固定費削減、EMS(電子機器の受託製造サービス)など外部への生産委託拡大、部品の共通化などの構造改革を推進して、10年3月期以降の損益改善を目指している。

液晶関連・銘柄診断

■主要メーカーは外部への生産委託を加速

 日立製作所<6501>は、09年3月期のデジタルメディア・民生機器セグメントの営業損益が1055億円の赤字だった。薄型テレビの海外販売台数が減少し、価格下落や在庫処分などもマイナス要因だった。今後の損益改善策としては、チェコの工場を閉鎖して欧州での販売分については外部への生産委託を検討するなど、生産委託の拡大や部品の共通化などによるコストダウン、海外販売チャンネルの絞り込みなどの施策を進める模様だ。

 東芝<6502>は、テレビ事業の営業損益が09年3月期に黒字化した。新ブランド「レグザ」投入後に実施した広告宣伝の強化、生産管理の徹底、調達体制の見直しなど改革の成果が表れた形だ。ただし黒字転換といっても、利益は低水準の模様であり、生産拠点の集約や量産モデルの品揃え強化などにより、営業損益の改善を加速する方針だ。生産拠点については、09年末までに英国工場での液晶テレビ組立を中止し、普及機種の生産はEMSへの委託を拡大するなど、外部生産委託の割合を11年3月期までに約5割へ引き上げる模様だ。

 パナソニック<6752>は、10年3月期の薄型テレビ販売計画が、前期比54%増の1550万台(うち液晶テレビが775万台、PDPが775万台)と、強気の計画を掲げている。新興国市場を中心として世界市場でのシェアアップを狙い、従来の高付加価値製品と並行して、新興国向けに普及機種の開発や販売も強化する戦略だ。またテレビ事業の営業損益は10年3月期も赤字の見通しだが、11年3月期には増収効果や原価低減効果で黒字転換を見込んでいる。

 シャープ<6753>は、液晶テレビや携帯電話を中心とするAV・通信機器セグメントの09年3月期営業損益が535億円の赤字だった。価格下落の影響で、液晶テレビ事業の営業損益が赤字に転落した。10年3月期については、液晶テレビの販売台数計画を前期比横ばいの1000万台程度とし、AV・通信機器セグメントの営業損益は、100億円程度の赤字が残る見込みだ。損益改善策として、亀山第2工場に生産を集約して効率化を進めるほか、液晶パネルを中国で生産することも検討している。

 ソニー<6758>は、09年3月期に液晶テレビ事業の営業赤字が拡大した。販売数量は新興国向けを中心に前期比43%増加したが、価格下落で損益が悪化した。10年3月期については、販売台数を前期比微減の1500万台程度とし、営業損益は引き続き赤字の見込みである。損益改善策として、生産拠点の統廃合と外部委託の拡大、開発人員の削減、部品の共通化や調達コスト引き下げなどにより、10年3月期に全社で5000億円規模のコスト削減を目指す模様だ。さらに、新興国市場のニーズに対応した製品の投入、音響機器やブルーレイ・ディスク関連製品と組み合わせた製品戦略により、11年3月期に液晶テレビ事業の黒字化を目指している。

シェア獲得競争に生き残る道とは

■戦略の明確化とともに、コスト競争力が不可欠

 米ディスプレイサーチ社によると、北米市場の09年1〜3月期市場シェアは、1位が米ビジオの18・9%、2位が韓国サムスン電子の17・4%、3位がソニー<6758>の14・5%、4位が船井電機<6839>の8・5%、5位がシャープ<6753>の7・9%だった。消費者の低価格志向の高まりなどを背景に、生産の外部委託などで低価格を実現している米ビジオがシェア1位を奪取した。一方で、高付加価値・高額機種が中心の日本メーカーはシェアを落としている。
 さらに、液晶テレビの需要拡大を牽引している中国市場では、08年10〜12月期の出荷台数の78%が中国企業の製品だった。シェア上位5社はすべて中国企業であり、6位のシャープ<6753>の市場シェアは6%強に過ぎないという。中国市場では、必要十分な機能を持つ低価格の普及機種が中心のためである。
 世界的な価格下落傾向は止まらない。米ディスプレイサーチ社は、液晶テレビの全世界の平均価格が08年の約770ドルから、12年には440ドル程度まで下落すると予測している。成長を牽引する新興国市場では、低価格製品を求める消費者が多いためだ。

■次世代パネルの技術的差異化や高付加価値化に期待

 先進国を中心として高級家電に対する需要は根強いものがあるとはいえ、新興国の需要が牽引するグローバル市場では、単なる高機能・高品質だけでは、販売台数の大幅な増加は望めないだろう。また、映像を滑らかに表示する倍速駆動や、インターネット接続なども基本機能になりつつあり、機能面での差異化は難しくなっている。
 日本の主要メーカーは、新興国市場向け普及機種への対応も重点戦略としているが、グローバルな液晶テレビ市場では、すでに日本メーカーの技術的な優位性は薄れ、ブランド力の低下も懸念されている。中期的には、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)テレビなど、次世代パネルによる技術的差異化や高付加価値化も期待されているが、海外メーカーの技術面での追い上げも急であり、いずれは価格勝負となるだろう。
 日本の主要メーカーにとっては、高級ブランドイメージを武器に小さな市場で生き残るのか、価格競争力を高めて巨大なグローバル市場で勝ち組を目指すのか、戦略の明確化も必要だろう。そして、パネルから組み立てまで自社生産する垂直統合型であれ、パネル調達や組み立てを外部に委託する水平分業型であれ、各社の損益改善には、グローバル市場のニーズに対応した品揃えと、それを支えるコスト競争力の強化が不可欠である。

【参考:主なデジタル家電関連銘柄一覧】
 富士フイルムHD<4901>(東1・化学)=フィルム、電子映像、ペーパー・薬品等
 東芝<6502>(東1・電気機器)=テレビ、HDD・DVDレコーダー、パソコン等を販売
 三菱電機<6503>(東1・電気機器)=重電、メカトロ機器、情報通信システム・家電等
 日立製作所<6501>(東1・電気機器)=情報エレクトロニクス、電力S、家電等の製造販売
 マブチモーター<6592>(東1・電気機器)=ヘアドライヤー、シェーバー、歯ブラシ等のモータ
 日本電産<6594>(東1・電気機器)=パソコンのHDD用スピンドルモータ、ファン
 NEC<6701>(東1・電気機器)=PC・周辺機器、ソフト、携帯電話、ネット総合サービス
 富士通<6702>(東1・電気機器)=情報処理機器、ソフトウエアS、通信機器、電子デバイス等
 パナソニック<6752>(東1・電気機器)=TV・ビデオ・カメラ・オーディア等の家電製造販売
 シャープ<6753>(東1・電気機器)=AV・情報通信機器、冷蔵庫、エアコン等の家電製造販売
 ソニー<6758>(東1・電気機器)=PC・周辺機器、映像、カメラ、オーディオ、AV関連
 ミツミ電機<6767>(東1・電気機器)=IC、コンポーネント、センサ、電源、高周波等
 ヒロセ電機<6806>(東1・電気機器)=コネクタの専業メーカー
 船井電機<6839>(東1・電気機器)=映像機器、プリンター、情報通信機器等製造販売
 カシオ計算機<6952>(東1・電気機器)=情報、映像機器、電子時計、通信、デバイス等製造
 浜松ホトニクス<6965>(東1・電気機器)=光電子増倍管、映像、画像処理、計測装置等製造
 ニコン<7731>(東1・精密機器)=カメラ、めがね、画像機器、半導体製造装置等製造販売
 オリンパス<7733>(東1・精密機器)=映像・情報関連事業、医療・バイオ関連事業、半導体等
 タムロン<7740>(東1・精密機器)=カメラ用レンズ、各種光学機器、超精密光学部品等
 HOYA<7741>(東1・精密機器)=レンズ、液晶パネル等の光学ガラス専門メーカー
 キヤノン<7751>(東1・電気機器)=カメラ、複写機、PC周辺機器、情報・通信・光学機器
 リコー<7752>(東1・電気機器)=複写機器、情報機器、光学機器等のOA機器メーカー