【水素エネルギー関連】水素で走る燃料電池自動車の発売控え一気にクローズアップ
水素エネルギー関連特集

水素で走る燃料電池自動車の発売控え一気にクローズアップ


【世界の水素インフラ市場は50年に160兆円の巨大マーケット】

「水素社会」では日本の力が爆発、関連有望銘柄多数

 燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池の実用化進展を背景として、株式市場でも水素エネルギー関連に対する注目度が高まっている。中期的に有力なテーマとなりそうだ。なお14年2月26日〜28日には、東京ビックサイトにおいて「第10回国際水素・燃料電池展(FC EXPO 2014)」が開催される。

 日経BP社(日経BPクリーンテック研究所)が13年10月に発表した予測によると、世界全体の水素インフラ(FCV、水素ステーション、定置型燃料電池、水素発電所、液化水素基地、供給水素基地、パイプライン、タンカー、タンクローリー)の市場規模は、15年の約7兆円(うち日本は約1兆円)から30年に約37兆円(同約6兆円)、50年に約160兆円(同約12兆円)に拡大する。30年以降は特にFCVの市場が急速に拡大し、50年にはFCVが全体の約6割を占めるとしている。

 水素エネルギーの普及に向けては水素・燃料電池製造コストの低減、FCV車両価格の低減、安全性の確保、水素貯蔵設備や水素ステーションといった水素サプライチェーンの整備が課題とされてきた。しかし国のエネルギー政策に関連するテーマであり、日本でも経済産業省が13年12月に、水素をエネルギー源として活用する「水素社会」の実現に向けたロードマップ(工程表)作成に着手すると発表し、産官学のメンバーで構成する「水素・燃料電池戦略協議会」を発足させた。

 すでに家庭用燃料電池に対しては設置補助金が支給され、政府の14年度予算案ではFCVの普及に向けて水素ステーション整備への補助金が13年度の46億円から72億円に増額されている。自治体が民間企業と共同でFCV普及に向けたインフラ整備を進める動きもある。さらに新技術によって水素を安全・大量に貯蔵・輸送できるサプライチェーンの開発も加速している。

【燃料電池とは・・・】

燃料電池 燃料電池(FC=Fuel Cell)というのは、水素と酸素を化学反応(水の電気分解と逆反応)させて、継続的に電気を取り出すことができる発電装置のことである。発電効率が高く騒音や振動は少ない。燃料となる水素は天然ガス、LPガス、メタノールなどの化石燃料を改質して取り出し、酸素は大気中から取り入れるのが一般的である。(図:資料=燃料電池実用化推進協議会(FCCJ))

 電気化学反応と使用する電解質の種類などによって分類され、FCVや家庭用燃料電池では固体高分子型燃料電池(PEFC)が主力となっている。プラス電極板(空気極)とマイナス電極板(燃料極)の間に固体高分子膜(電解質膜)を挟む構造だ。この他にリン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)などもあり、産業発電用では発電効率の高いSOFCの開発・実用化が進められている。

 発電の際に排出するのは水だけ(生成されるのが高熱環境下のため実際には水蒸気または温水)で、二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスや有害物質を排出しない。そして幅広いエネルギー多様性、高い省エネ性、優れた環境性能を併せ持つため、次世代エネルギーシステムの中核をなすキーテクノロジーの一つと位置付けられている。

 大型の装置は大規模産業用発電施設、中型の装置はオフィスビル用や家庭用などの電源、小型の装置は自動車・鉄道・船舶などの動力源、ポータブル(携帯)型の装置は携帯電話・スマートフォン・ノートパソコンなどの電源や災害時の非常用電源としての普及が期待されている。発電と同時に熱も発生するため、その熱を活かしてエネルギーの利用効率を高めることができ、コ・ジェネレーションシステムへの活用も期待されている。

■トヨタ自動車とホンダは燃料電池自動車の15年量産・市販を計画、家庭用「エネファーム」も普及促進

 温暖化ガスや有害物質を排出しないため、特に燃料電池でつくりだした電気でモーターを回す燃料電池自動車(FCV)は「究極のエコカー」と呼ばれ、世界の大手自動車メーカーが開発・実用化を進めている。開発・技術普及コスト低減に向けて国際的な提携も相次いでおり、日産自動車<7201>は独ダイムラーおよび米フォード・モーターと、トヨタ自動車<7203>は独BMWと、ホンダ<7267>は米GMと提携した。

 そしてトヨタ自動車とホンダは15年からFCVを量産・市販する計画を明らかにし、13年秋の東京モーターショーや米ロサンゼルス自動車ショーなどで市販予定のFCVコンセプト車を公開している。FCVの車両価格は02年12月にトヨタ自動車とホンダが日本政府に納入(リース契約)して、当時の小泉純一郎首相が試乗した頃には1台1億円とされたが、15年の量産・市販時点では1000万円以下に抑えて需要を開拓する計画のようだ。

 また石油元売り、ガス器具・住宅設備メーカー、燃料商社、大手ガスなどのエネルギー関連企業は、中小規模のオフィスビルや家庭用の燃料電池の普及を促進している。09年に発売を開始した「エネファーム」(家庭用燃料電池システムの統一名称)は、設置補助金など国の導入支援政策も追い風として着実に販売を伸ばしている。

 定置用燃料電池とFCVの早期実用化および普及を目指して01年に設立された「燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)」は、10年3月にまとめた「FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ」で、15年からFCVの一般ユーザーへの普及を開始(商用水素ステーションの設置を開始)し、25年にはFCV200万台・水素ステーション1000カ所程度を普及させて、FCVと水素ステーションの自律拡大を開始する時期としている。

■課題の水素インフラ・サプライチェーン整備に向けた動きも加速

 水素は高価格のうえに着火しやすく爆発の危険性もあるため、燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池の普及に向けては、水素製造の低コスト化、FCV車両や燃料電池の低コスト化、車載用タンクや水素吸蔵合金などの小型・軽量・高性能化、安全で低コストの貯蔵・輸送方法の開発・実用化、現在のガソリンスタンドに相当する水素ステーションや水素貯蔵設備など水素インフラの低コストでの建設・整備、さらに規制の見直しなどが課題とされている。水素は同じ走行距離に換算した価格がガソリンの2倍以上で、水素ステーションの建設費は1カ所当たり3〜5億円とされている。

 水素を貯蔵・輸送する方法としては、水素製造工場から水素専用パイプラインで供給する、気体の水素を高圧で圧縮して金属や炭素繊維製の専用タンクに貯蔵する、セ氏マイナス253度まで冷やした液化水素の状態にして専用トレーラーで輸送する、水素を蓄える性質を持つ合金(水素吸蔵合金)を利用するなどの方法があるが、いずれもコストなどの面で普及が難しいとされている。

 しかし上記のような課題に対して最近は、有機ケミカルハイドライド法という技術を使って、水素を安全・大量に貯蔵・輸送できる水素インフラ・サプライチェーン(大規模水素貯蔵・輸送システム)を整備しようという動きが加速している。有機ケミカルハイドライド法というのは、水素をトルエンに化学的に固定(水素化反応)し、常温・常圧の液体化学品であるメチルシクロヘキサン(MCH)に変換して貯蔵・輸送する技術だ。FCVへの充填など実際に使用する場所で再び水素を取り出して(脱水素反応)使用する。

 有機ケミカルハイドライド法では、液化水素のような極低温技術を必要とせず、MCHとして常温・常圧の安全な条件での長期間・大量貯蔵が可能となるため、貯蔵や輸送に関して通常のタンカー、タンクローリー、ガソリンスタンドなど既存の石油系インフラを活用できる。液体にして体積を小さくするため貯蔵・輸送コストも下げることができる。他の方法に比べて総合的な水素供給コストが安くなり、水素を安全・大量に貯蔵・輸送する技術として最も実用化に近い方法とされている。

 これまでは脱水素反応を安定的に行うプロセスが課題とされてきたが、千代田化工建設<6366>は工業的に利用できる新規の脱水素触媒を開発し、パイロットプラントによる脱水素プロセスの実証運転を行っていたが、13年5月に所期の性能を確認することができたと発表している。さらに13年6月には川崎市と、新たな水素大量貯蔵・輸送技術を活用した「水素社会の実現に向けた連携・協力に関する包括協定」を締結している。

 JX<5020>もFCV向け低コストの水素供給体制の構築を目指している。現在は自社生産の気体水素を高圧圧縮して専用トレーラーで貯蔵・輸送しているが、MCHに転換して常温・常圧の液体の状態で既存のトレーラーを使って水素ステーションに輸送する。液化することで高強度の炭素繊維製ボンベや爆発を防ぐ設備が不要になり、既存のトレーラーやタンクを転用できるため水素ステーション建設費用を削減できる。FCVが普及期に入る20年をメドに液体輸送を使った供給網の整備を始めるようだ。

■関連セクターは化学・素材、エネルギー、エレクトロニクス、自動車など

 関連セクターは化学・素材関連、ガス器具・容器関連、住宅設備関連、エネルギー関連、エレクトロニクス関連、自動車関連など多岐にわたるが、新技術で水素インフラ・サプライチェーンの整備を進める方針のJX<5020>や千代田化工建設<6366>、FCVの市販で先行するトヨタ自動車<7203>やホンダ<7267>などが注目されそうだ。

 産業用水素販売で国内最大手の岩谷産業<8088>は、液化水素で配送コストを低減させるとともに、水素ステーションの基幹装置の生産を始め、建設費の低減を図りながら水素ステーションの整備を進める方針だ。なお「第8回イワタニ水素エネルギーフォーラム」を2月10日に大阪で、3月14日に東京で開催する。

 また産業用燃料電池の分野では、関連各社が開発を進める一方で、ソフトバンク<9984>は米燃料電池ベンチャーのブルームエナジーと、合弁会社ブルームエナジージャパンを設立して日本での輸入販売を開始する。13年11月には福岡市のオフィスで固体酸化物型燃料電池(SOFC)を稼働させた。

水素エネルギー関連銘柄一覧

 国際石油開発帝石<1605>、関電工<1942>、東洋紡<3101>、東レ<3402>、旭化成<3407>、昭和電工<4004>、大陽日酸<4091>、カネカ<4118>、三菱ガス化学<4182>、三菱ケミカルホールディングス<4188>、積水化学工業<4204>、東洋インキSCホールディングス<4634>、昭和シェル石油<5002>、コスモ石油<5007>、出光興産<5019>、JX<5020>、旭硝子<5201>、東海カーボン<5301>、TOTO<5332>、日本ガイシ<5333>、日本特殊陶業<5334>、新日鐵住金<5401>、神戸製鋼所<5406>、JFEホールディングス<5411>、愛知製鋼<5482>、日本製鋼所<5631>、三菱マテリアル<5711>、JFEコンテイナー<5907>、ノーリツ<5943>、長府製作所<5946>、中国工業<5974>、豊田自動織機<6201>、三菱化工機<6331>、千代田化工建設<6366>、栗田工業<6370>、日立製作所<6501>、東芝<6502>、富士電機<6504>、NEC<6701>、パナソニック<6752>、デンソー<6902>、ローム<6963>、京セラ<6971>、村田製作所<6981>、日立造船<7004>、三菱重工業<7011>、川崎重工業<7012>、IHI<7013>、日産自動車<7201>、トヨタ自動車<7203>、日野自動車<7205>、NOK<7240>、アイシン精機<7259>、マツダ<7261>、ダイハツ工業<7262>、ホンダ<7267>、スズキ<7269>、ヤマハ発動機<7272>、豊田通商<8015>、岩谷産業<8088>、ミツウロコグループ<8131>、伊藤忠エネクス<8133>、オリックス<8591>、東京電力<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>、東京ガス<9531>、大阪ガス<9532>、東邦ガス<9533>、西部ガス<9536>、京葉瓦斯<9539>、静岡ガス<9543>、ソフトバンク<9984>など

提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2014.01.22 |特集