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シナネンホールディングスは反発の動き、23年3月期減益予想だが24年3月期回復期待
- 2023/3/7 08:23
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
シナネンホールディングス<8132>(東証プライム)は脱炭素社会を見据えるグローバル総合エネルギーサービス企業グループである。成長戦略としてシェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資を推進し、サステナビリティ経営も推進している。3月2日には、抗菌剤製造販売のシナネンゼオミックが大阪府立千里高等学校の学生の発案をもとに、抗菌仕様の折り畳み式ランチボックスを製品化したと発表している。23年3月期(1月31日付で売上高を上方修正、利益を下方修正)は原油価格高騰に伴う販売単価上昇などで大幅増収だが、LPガスや電力の売上総利益悪化、さらに先行投資も影響して減益予想としている。ただし積極的な事業展開で24年3月期の収益回復を期待したい。株価は下方修正を嫌気した売りが一巡し、2月の直近安値圏から切り返して反発の動きを強めている。23年3月期減益予想の織り込み完了して出直りを期待したい。
■グローバル総合エネルギーサービス企業グループ
脱炭素社会を見据えるグローバル総合エネルギーサービス企業グループの持株会社である。事業区分はエネルギー関連のエネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)、および非エネルギー・海外事業としている。国内LPガス流通事業者として国内3位規模である。
22年3月期のセグメント別構成比は売上高がBtoC事業25%、BtoB事業68%、非エネルギー・海外事業6%、その他・調整額▲0%、営業利益がBtoC事業42%、BtoB事業23%、非エネルギー・海外事業8%、その他・調整額▲27%だった。なおLPガス・灯油販売は冬場が需要期となるため、収益は下期(特に第4四半期)に偏重する季節特性がある。
■BtoC事業
BtoC事業(エネルギー卸・小売周辺事業)は主に子会社のミライフ、ミライフ西日本、およびミライフ東日本が、家庭向け・小売事業者向けLPガスなど各種燃料の卸売・小売事業、リフォーム・ガス器具販売などの家庭向けエネルギー周辺事業、家庭向け電力販売事業、都市ガス供給事業、LPガス保安および配送事業などを行っている。
■BtoB事業
BtoB事業(エネルギーソリューション事業)は主に子会社のシナネンが、大口需要家向け石油製品・LPガスなど各種燃料卸売事業、ガソリンスタンド運営事業、電源開発および法人向け電力販売事業、太陽光発電システム販売および周辺サービス事業、省エネソリューション事業、住宅関連設備事業、国内外での再生可能エネルギー事業を行っている。マイクロ風車関連事業は21年3月末にさいたま市で実証実験を開始し、22年3月期下期には積雪地帯の北海道札幌市など多様な環境での実証実験を開始している。
21年4月には再生可能エネルギー導入・調達ソリューションのクリーンエナジーコネクトと提携し、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)に依存しない非FITの太陽光発電所を活用したバーチャルコーポレートPPA(電力購入契約)による新たなビジネスモデル展開を共同構築すると発表した。PPAは需要家が太陽光や風力など再生可能エネルギーの電力を発電事業者から長期に購入する契約で、次の再生可能エネルギー調達手段として注目されている。
21年8月には、非FITによる電力供給が環境省の「令和3年度オフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電供給モデル創出事業」に採択された。22年4月には愛知県の施設運営管理会社ホーメックスと協力し、愛知県豊田市の汚水処理施設約260ヶ所に実質再生可能エネルギー100%の電力の供給を開始した。
23年1月には、オフサイトコーポレートPPAの仕組みを活用し、子会社のシナネンが新設する太陽光発電所で調達する再生エネルギー由来の電力を、東京アライドコーヒーロースターズの横浜焙煎サイトに提供することで合意した。温室効果ガス排出量の削減効果(非化石証書含む)は年間約1334トンとなる見込みだ。
■非エネルギーおよび海外事業
非エネルギー・海外事業は、シナネンモビリティPLUSのシェアサイクル「ダイチャリ」事業、シナネンサイクルの自転車販売事業(小売店舗「ダイシャリン」および卸売事業)、シナネンエコワークの環境・廃棄物処理リサイクル事業(木質系チップ等)、シナネンゼオミックの抗菌事業(銀系無機抗菌剤ゼオライト製造・販売)、ミノスのITシステム事業(国内LPガス・電力小売事業者向け顧客管理システム)、タカラビルメンなどの建物維持管理事業(関東・東海エリアにおけるビル・病院・集合住宅等の維持・管理・清掃サービス等)などを展開している。
なお、韓国における大型陸上風力発電事業(ファスンプロジェクト)については、子会社のDONG BOK ENERGY(ドンボクエナジー)社を通じて21年度下期中の商業運転開始を目指していたが、許認可取得が当初計画から遅れたため、商業運転開始時期を未定に変更(21年10月8日付リリース)した。その後、22年12月に建設予定地の都市計画条例が改訂され、陸上風力発電設備設置範囲が厳格化されたため、計画および開発が著しく困難になったと判断し、23年3月期第3四半期にDONG BOK ENERGYが保有する固定資産の減損処理を行った。今後は事業の売却可能性を含めて関係各所との折衝を進める方針としている。また、ブラジルにおけるバイオマス事業については撤退を決定したが、新たなバイオマス事業への展開を検討している。
シェアサイクル「ダイチャリ」事業は、OpenStreetが提供するシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」を活用して、シナネンモビリティPLUSが首都圏1都3県および大阪府を中心に展開している。22年3月末時点でステーション数が全国2200ヶ所、設置自転車数が1万台に達し、国内有数の規模となっている。22年2月には累計利用回数が1000万回を突破し、第3の交通インフラとして定着傾向を強めている。23年3月期第3四半期の利用者数は前年同期比40.3%増加、利用回数は24.7%増加した。
22年4月にはシナネンモビリティPLUSと、内閣府から「SDGs未来都市」に認定されている岩手県岩手郡岩手町が、「岩手町SDGs未来都市共創プロジェクト」の一環として、市街地内の交通手段の拡充を目的とした「利用者限定シェアサイクル」サービスを開始した。
22年7月にはシナネンモビリティPLUSとOpenStreetが、神奈川県川崎市が実施する公共用地等を活用したシェアサイクル事業において、運営主体となる「OpenStreetシナネンモビリティPLUSグループ」として選定され、川崎市内全域でシェアサイクル事業の本格運用を開始した。
■資本効率改善を推進
第2次中期経営計画(20年度~22年度)は、第3次中期経営計画(23年度~25年度)の躍進に向けた基盤整備ステージと位置付けて、定性目標に資本効率の改善、持続的成長を実現する投資の実行、社員の考え方・慣習・行動様式の変革を掲げている。
資本効率・財務体質の改善では、既存事業の効率化と利益率向上、遊休・低稼働資産の有効活用または売却、資本効率の低い事業の撤退・売却と資本効率の高い事業への集中を推進する。
持続的成長を実現する投資の実行では、既存事業の収益基盤強化のためのM&Aおよび建物維持管理事業におけるM&Aの実行、シェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資の実行、事業多様化や環境変化に値旺した基幹システムの整備・高度化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)のためのIT投資を推進する。
22年5月には、自社グループの顧客向けポイントモールサイト「brio point mall」が本格稼働した。将来的に会員数100万人を目指す。
定量目標「持続的にROE6.0%以上」を生み出す事業構造確立を目指し、エネルギー関連事業ではM&Aによる顧客基盤とシェアの拡大、新規商材による顧客層の拡大と深耕などで経営基盤を強化し、非エネルギーおよび海外事業では個々の事業環境や特性に対応した成長戦略を推進する。そして既存事業の安定的成長と新規事業開発による高収益化を図る方針だ。なお株主還元は配当を基本として、配当性向30%以上を目安に安定的に配当する方針としている。
■サステナビリティ経営も推進
SDGsへの取り組み、サステナビリティ経営も推進している。22年5月にはサステナビリティ基本方針を策定し、サステナビリティ推進委員会を設置した。22年6月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対する賛同を表明し、賛同企業・団体などで構成されるTCFDコンソーシアムに参画した。
22年7月には環境保全活動・社会貢献活動の一環として、一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団と事業別スポンサー契約を締結し、森林整備事業の支援を開始した。
22年8月には、日本クルベジ協会が運営する「炭貯クラブ」において認証を受けたバイオ炭の農地施用によるJ―クレジットの購入契約を締結した。バイオ炭は農地の土壌改良に役立つとともに、植物が吸収したCO2を炭の中に閉じ込めて大気中への排出を抑える効果がある。今回のクレジット購入により、自社グループにおけるCO2排出量の相殺とともに、バイオ炭を活用した新規事業も検討する。
22年9月には、環境ソリューション分野の子会社シナネンファシリティーズが、滋賀県が実施する琵琶湖における令和4年度「水草等対策技術開発支援事業」に亜臨界水処理技術による実証実験が採択された。ダイオキシンやCO2を発生させない亜臨界水処理技術に着目し、亜臨界水処理装置製造・販売のG8インターナショナルトレーディング(神奈川県)と協力して行う。
22年10月には、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の企画・コンサルティング・架台システム販売を展開するノータスソーラージャパンと協業に関する基本合意書を締結した。30年に400haの農地に200MWのノータスソーラーシステムの設置を目指す。
22年12月には、自社で運営するシェアオフィス「seesaw」を、国内各地域の脱炭素化をサポートするコミュニティとしてリニューアルしたと発表している。より環境に配慮した施設を目指してサービス拡充し、国内各地域の脱炭素化を推進、またはサステナブルな取り組みをしている企業・団体の入居を募集する。
また22年12月には、子会社の日高都市ガス(埼玉県日高市)が、東京ガスおよび日高市と「カーボンニュートラルのまちづくりに向けた包括連携協定」(22年3月締結)に基づいて、日高市役所庁舎を対象としたEVシステム等導入の共同検証に関する基本合意書を締結したと発表している。共同検証の期間は22年12月~23年9月(予定)である。3月1日には同協定に基づいて、学校向け太陽光PPA事業および避難所のレジリエンス強化の共同検証に関する基本合意書を締結したと発表している。共同検証の期間は23年3月~23年9月(予定)としている。
3月2日には、抗菌剤製造販売のシナネンゼオミックが、新たに立ち上げるサステナブル・エシカルライフスタイル総合ブランド「暮らシカル-Kurathical-」の第一弾製品として、大阪府立千里高等学校の学生の発案をもとに、抗菌仕様の折り畳み式ランチボックスを製品化したと発表している。食品ロス削減に貢献する。
■23年3月期減益予想だが24年3月期回復期待
23年3月期の連結業績予想(1月31日付で修正)は、売上高が22年3月期比27.9%増の3700億円、営業利益が0百万円(22年3月期は24億80百万円)、経常利益が96.9%減の1億円、親会社株主帰属当期純利益が0百万円(同24億87百万円)としている。配当予想は22年3月期と同額の75円(期末一括)としている。
前回予想に対して売上高を600億円上方、営業利益を25億円下方、経常利益を27億円下方、親会社株主帰属当期純利益を29億円下方修正した。売上高については、原油価格高騰に伴って石油事業を中心に販売価格の大幅な上昇が継続しているため、前回予想を上回る見込みだ。営業利益については、石油事業では差益確保で前回予想を上回り、LPガス事業や非エネルギー事業では前回予想に対して大きな変動が見込まれないが、電力事業において想定外の変動によって調達価格が販売価格を上回る状況が続いているため、前回予想を下回る見込みとなった。
セグメント別には、BtoC事業を12億円下方(電力を11億円下方、石油を2億円下方、ガスを1億円上方、その他を1億円上方)修正、BtoB事業を13億円下方(電力を23億円下方、石油を10億円上方)修正、非エネルギー事業を2億円下方(抗菌を1.3億円下方、その他を0.7億円下方)修正、その他・調整額を2億円上方修正した。
経常利益については、ファスンプロジェクトと同様に韓国で事業推進を予定していた関連会社Goheung Wind Power(ゴフン・ウィンド・パワー)社について、第3四半期に持分法投資損失2億46百万円を計上したことも影響する。親会社株主帰属当期純利益については、第4四半期の特別利益に投資有価証券売却益計上を見込むが、第3四半期に韓国大型陸上風力発電事業に関連した特別損失(減損損失20億04百万円)を計上したことが影響する。ドンボクエナジー社に関するのれん残高4億26百万円は第2四半期に償却済である。
なお特別損失計上および現況について経営責任を明確にすべく、役員報酬の一部を自主返上(23年2月から7月までの6ヶ月間)する。
第3四半期累計は、売上高が前年同期比28.8%増の2353億97百万円、営業利益が4億65百万円の赤字(前年同期は6億02百万円の黒字)、経常利益が2億30百万円の赤字(同10億87百万円の黒字)、親会社株主帰属四半期純利益は7億76百万円の赤字(同4億90百万円の黒字)だった。
原油価格高騰に伴う販売単価上昇などで大幅増収となり、石油事業では差益を確保したが、LPガスや電力の売上総利益悪化に加えて、DX推進に向けたIT関連投資や人財関連投資などの先行投資の影響で赤字だった。なお営業外費用では持分法投資損失2億46百万円を計上、特別利益には固定資産売却益23億53百万円を計上、特別損失には韓国大型陸上風力発電事業に関連して保有する固定資産の減損損失20億04百万円を計上した。
エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)の営業利益は8.3億円の赤字(前年同期は0.8億円の黒字)だった。売上面はLPガス・灯油販売における原油価格やプロパンCPの高騰に伴う販売単価上昇で増収だが、利益面はLPガスや電力の売上総利益悪化(売上総利益はLPガスが4.9億円減少、電力が3.0億円減少)により営業赤字だった。なお新たな収益源確保に向けた取り組みとして、第3四半期より関東エリアにおいて不動産事業を開始した。
エネルギーソリューション事業(BtoB事業)の営業利益は、1.8億円の赤字(同2.0億円の赤字)だった。売上面はBtoC事業と同様に石油類の販売単価が大幅に上昇して増収だった。利益面は全体として小幅に赤字縮小した。電力は調達コスト上昇で売上総利益が5.9億円減少したが、石油類は原油市況変動に対応した仕入施策により売上総利益が7.2億円増加した。船舶燃料部門における長期契約案件獲得も寄与した。
非エネルギー事業は全体として増収増益だった。営業利益は4.8億円(同2.7億円)だった。シナネンサイクルの自転車事業は海外輸送費や原材料価格の高騰に対応して価格改定を実施したが、外部環境が想定以上に悪化して減益だった。シナネンモビリティPLUSのシェアサイクル事業(2.6億円増益)は「ダイチャリ」の拠点開発を推進し、22年4月の価格改定効果も寄与して好調だった。22年12月末時点のステーション数は3000ヶ所超、設置自転車数は1万台超の規模となった。
シナネンエコワークの環境・リサイクル事業は建築系廃棄物発生量減少の影響で減収減益だった。シナネンゼオミックの抗菌事業は抗菌需要一服により減益(1.1億円減益)だった。ミノスのシステム事業は、電力自由化に対応した顧客情報システム(電力CIS)が伸長した。タカラビルメン等の建物維持管理事業は運営エリアの拡大やマンション共用部清掃業務の拡大などで増収だが、今期受託開始した大型物件の立ち上げに伴う経費先行の影響で減益だった。建物維持管理事業を手掛けるグループ4社について、統合に向けた取り組みを進めている。
なお調整額(持株会社費用)は0.7億円(同4.4億円)だった。支払手数料が1.0億円増加、人件費等が0.9億円増加し、不動産賃貸収入が1.1億円減少した。
四半期別に見ると、第1四半期は売上高が711億94百万円で営業利益が50百万円の赤字、第2四半期は売上高が685億46百万円で営業利益が7億70百万円の赤字、第3四半期は売上高が956億57百万円で営業利益が3億55百万円の黒字だった。ガスや灯油の需要期である下期(特に第4四半期)の構成比が高い季節特性がある。
23年3月期は下方修正して大幅減益予想だが、積極的な事業展開で24年3月期の収益回復を期待したい。
■株価は売り一巡して反発の動き
株価は下方修正を嫌気した売りが一巡し、2月の直近安値圏から切り返して反発の動きを強めている。23年3月期減益予想の織り込み完了して出直りを期待したい。3月6日の終値は3560円、今期予想配当利回り(会社予想の75円で算出)は約2.1%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS4922円46銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約464億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)