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神鋼商事は調整一巡、24年3月期も収益拡大基調
- 2023/4/6 08:54
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
神鋼商事<8075>(東証プライム)は、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として、鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、機械・情報、溶接材料・機器などに展開している。重点分野にEV・自動車軽量化関連と資源循環型ビジネス関連を掲げるとともに、サステナビリティ経営を推進している。23年3月期は大幅増収増益予想としている。第3四半期累計の進捗率が高水準だったことを勘案すれば、通期会社予想は再上振れの可能性が高く、さらに24年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化の影響で3月の高値圏から反落したが、指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して上値を試す展開を期待したい。
■KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社
神戸製鋼所<5406>系で、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品(鋼板製品、線材製品など)、鉄鋼原料(輸入鉄鋼原料、合金鉄、コークスブリーズなど)、非鉄金属(銅製品、アルミ製品、非鉄金属地金・スクラップなど)、機械・情報(ゴム・タイヤ機械、製鉄・非鉄機械、化学機械、環境関連機器、電池用材料、液晶用材料、PC部品など)、溶接材料・機器(溶接材料、溶接関連機器、溶接ロボットシステムなど)を扱う商社である。
21年9月には、日新イオン機器(NIC)から半導体・FPD用イオン注入装置の製造を手掛ける中国・NIHY(揚州)の株式を買い取り、社名を神商精密器材(揚州)に変更して子会社化した。21年11月には子会社の神鋼商事メタルズがベトナムにアルミ切断加工販売会社を設立した。21年12月には子会社のSCWが、日本エア・リキード合同会社から大半の溶接関連資機材事業を譲り受けた。
22年3月期のセグメント別(その他を除く5セグメント)の経常利益構成比は鉄鋼が42%、鉄鋼原料が7%、非鉄金属が31%、機械・情報が17%、溶材が3%だった。鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属は、取扱数量と市況の影響を受けて収益が変動しやすい特性がある。
■収益力・商社機能の強化および投資の促進を推進
中期経営計画(22年3月期~24年3月期)では「明日のものづくりを支え社会に貢献する商社」を目指し、目標数値に最終年度24年3月期経常利益95億円(鉄鋼41億円、鉄鋼原料13億円、非鉄金属23億円、機械・情報13億円、溶材5億円)以上、ROE9%以上、ROA3%以上、自己資本比率20%以上、D/Eレシオ1.0倍程度を掲げている。22年4月にはDX推進の方向性を示す「DXビジョン」を策定した。
基本戦略としてM&Aも積極活用し、収益力の強化(関係会社の機能最適化と戦略的活用、事業ポートフォリオ見直し)、商社機能の強化(グループビジネスの深化の追求、SDGsを意識した環境リサイクルビジネスの拡大、海外拠点主導のビジネス開拓、新事業開発の強化、DX時代に適したビジネスモデルの創出・提案)、投資の促進(北米・アジアでのサプライチェーンの深化と創造、事業投融資の加速、製造拠点の設備投資)などの戦略を推進している。
投資額は3年合計200億円としている。内訳は自動車向け鋼材加工事業(中国、北米)に20億円、環境リサイクル事業(日本、東南アジア)に30億円、アルミ加工事業(北米、中国、東南アジア)に80億円、M&Aによる流通再編(日本、東南アジア)に20億円、その他・海外チャンネル拡大・サプライチェーン強化に50億円としている。
鉄鋼は海外(中国、米国など)拡販や海外現地需要取り込み、鉄鋼原料は鉄スクラップとバイオマス燃料の取り扱い拡大、非鉄金属は半導体・自動車向け部材やエアコン用銅管の取り扱い拡大、機械・情報は建設機械部品の海外取り扱い拡大、溶材はM&Aによる流通再編や販売機能の強化を推進する。
株主還元の基本方針は、財務体質の強化と将来の事業展開に必要な内部留保等を考慮しつつ、連結配当性向30%を目標に安定的な配当を維持するとしている。
■サステナビリティ戦略も推進
重点分野としてはEV・自動車軽量化関連と資源循環型ビジネス関連を掲げ、サステナビリティ戦略として、リサイクル事業(鉄スクラップのグローバル拡販)、バイオマス事業(バイオマス燃料の安定供給、供給事業化)、雑電線屑の再資源化などを推進している。
21年12月にはバイオマス燃料(PKS)のGGL認証を取得した。持続可能な社会の実現に向けた取り組みを一層強化し、更なるバイオマス燃料の取り扱い拡大を図ることで低炭素社会の実現に寄与する。
22年1月には、内閣府や経済産業省などが推進する取引先を含めたすべてのサプライチェーンの共存共栄と新たな連携を目的とした「パートナーシップ構築宣言」に賛同し、全国中小企業振興機関が運営するポータルサイトに公表した。取引事業者全体の共存共栄と新たな連携を目指すとしている。
22年4月には、サステナビリティ基本方針と重要課題(マテリアリティ)を制定するとともに、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置した。サステナビリティへの取り組みをより一層強化するため推進体制を構築した。22年5月には、水素社会を早期に構築することを目的とする一般社団法人水素バリューチェーン推進協議会に入会した。また、低炭素社会に向けてCO2フリーアンモニア利用のバリューチェーン構築および社会実装を目的とする一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会に入会した。
22年6月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同するとともに、TCFDコンソーシアムに参画した。また、グループのCO2削減についての取り組みの一環として、グループ会社の蘇州神商金属有限公司が22年9月から太陽光発電を開始した。22年8月には、環境省が推奨する地球温暖化対策のための「COOL CHOICE(賢い選択)」に賛同登録した。
22年9月には、アルミ圧延材のスリット・シャーリング加工および販売を行う蘇州神商金属有限公司が太陽光発電を開始した。約1000枚のパネルを向上屋根に敷設し、所内で使用するほぼ全ての電力を太陽光パネルによる再生可能エネルギーによってまかなうことが可能になった。また、蘇州神商金属有限公司における生産活動高度化に向けた工場DXの取り組みも紹介している。
22年10月には初刊となる統合報告書2022を発行した。またダイバーシティ推進プロジェクトチームを発足し、女性およびグローバル人材活躍に向けて30年までの目標を設定した。
22年12月には経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」への賛同を発表した。また、環境情報開示システムを提供する国際環境非営利団体であるCDPによる「気候変動」に対する取り組みや情報開示の評価において「B」評価を取得した。
23年1月には、ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)が設立したUMI3号脱炭素投資事業有限責任組合(UMI脱炭素ファンド)へ出資した。出資を通じて優れた脱炭素分野技術への支援や新規事業創出を推進する。
23年2月には光変換光合成促進農法社(長野県岡谷市、以下:光変換社)への資本参加と業務提携を発表した。光変換社は、光変換光合成促進農法による農作物栽培用資材および農作物の生産販売を目的として09年に設立された農業法人で、高麗人参を短周期で収穫する短期促成栽培システム(19年に特許登録)を開発している。SDGsを推進している企業であり、本件を開発投資と位置付けて経営支援を行うとともに、新領域となる農業分野への足掛かりとする方針だ。
23年3月には経済産業省と日本経営会議が選定する健康経営優良法人認定制度において「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」に認定された。
■23年3月期大幅増収増益予想、24年3月期も収益拡大基調
23年3月期連結業績予想(22年11月2日付で上方修正)は、売上高が22年3月期比16.7%増の5770億円、営業利益が18.4%増の119億円、経常利益が23.4%増の120億円、親会社株主帰属当期純利益が23.3%増の88億円としている。配当予想(22年11月2日付で第2四半期末30円上方修正、期末30円上方修正、合計60円上方修正)は、22年3月期比55円増配の300円(第2四半期末150円、期末150円)としている。
第3四半期累計は、売上高が前年同期比23.8%増の4348億34百万円、営業利益が33.9%増の98億46百万円、経常利益が34.0%増の96億76百万円、親会社株主帰属四半期純利益が25.0%増の70億14百万円だった。
非鉄金属が伸銅品の取扱量減少で減益だが、鉄鋼や鉄鋼原料を中心とする価格上昇効果が牽引し、全体として大幅増収増益だった。経常利益は第3四半期累計として過去最高となった。
なお、営業外収益ではデリバティブ評価益が増加(前期は88百万円、今期は4億80百万円)し、持分法投資利益が増加(前期は4億69百万円、今期は5億94百万円)した。営業外費用では売掛債権譲渡損が拡大(前期は4億60百万円、今期は6億92百万円)し、為替差損が拡大(前期は差損16百万円、今期は差損8億88百万円)したが、前期計上の貸倒引当金繰入額6億92百万円が剥落した。特別利益では前期計上の負ののれん発生益1億83百万円が剥落したが、固定資産売却益4億29百万円を計上、投資有価証券売却益が増加(前期は77百万円、今期は2億99百万円)した。
セグメント利益(経常利益)を見ると、鉄鋼は38.6%増の41億01百万円だった。半導体不足の影響を受けた自動車向けの取扱量が減少したが、鋼材価格上昇効果で大幅増収増益だった。鉄鋼原料は240.7%増の11億83百万円だった。神戸製鋼所向けの主原料や冷鉄源の取扱量が増加し、原料価格上昇効果も寄与して大幅増収増益だった。非鉄金属は20.4%減の22億20百万円だった。自動車・半導体向けアルミ板条や非鉄原料の増加で増収だが、自動車端子向け銅板条や空調向け銅管の減少で減益だった。機械・情報は23.6%増の12億11百万円だった。建設機械部品の好調、大型圧縮機の本体・メンテナンスの増加、国内子会社の好調などで増収増益だった。溶材は191.3%増の5億74百万円だった。造船向けなどの取扱量が堅調に推移し、溶接材料価格上昇も寄与して大幅増収増益だった。その他(不動産賃貸事業等)は3億86百万円(前年同期は51百万円の損失)だった。
四半期別に見ると、第1四半期は売上高が1409億39百万円で経常利益が40億09百万円、第2四半期は売上高が1376億79百万円で経常利益が23億78百万円、第3四半期は売上高が1562億16百万円で経常利益が32億89百万円だった。
通期は、市況価格が高値推移する好条件も背景として、過去最高の取扱高および経常利益を見込んでいる。不透明感を考慮して通期会社予想を据え置いたが、第3四半期累計の進捗率が高水準(売上高が75.4%、営業利益が82.7%、経常利益が80.6%、親会社株主帰属当期純利益が79.7%)だったことを勘案すれば、通期会社予想は再上振れの可能性が高く、さらに24年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は調整一巡
株価は地合い悪化の影響で3月の高値圏から反落したが、指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して上値を試す展開を期待したい。4月5日の終値は5550円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS1000円00銭で算出)は約6倍、前期推定配当利回り(会社予想の300円で算出)は約5.4%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS7107円83銭で算出)は約0.8倍、そして時価総額は約492億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)