【どう見るこの株】日本カーバイド工業は戻り試す、24年3月期収益回復期待

 日本カーバイド工業<4064>(東証プライム)は電子・機能製品やフィルム・シート製品などを展開するケミカルメーカーである。成長戦略として次世代プリズム型反射シート、全固体電池向け材料、空中ディスプレイ用プリズムシートなど、新たな成長ドライバー創出に向けた研究開発を推進している。23年8月期は半導体市況など事業環境悪化の影響で減収減益予想としている。ただし積極的な事業展開で24年3月期の収益回復を期待したい。株価はやや小動きだが22年9月の安値圏をボトムとして緩やかに水準を切り上げている。高配当利回りや低PBRなど指標面の割安感も評価材料であり、自律調整を交えながら戻りを試す展開を期待したい。

■電子・機能製品やフィルム・シート製品などを展開

 1935年設立のケミカルメーカーである。グループ(22年3月期末時点)は同社、子会社20社、および関連会社2社で構成されている。半導体や電子デバイスの製造工程に採用されるケミカルエレクトロニクス材料、医薬品原薬やセーフモビリティ市場で活躍するフィルム材料を主力として、次世代プリズム型反射シート、全固体電池向け材料、空中ディスプレイ用プリズムシートなど、新たな成長ドライバー創出に向けた研究開発を推進している。

 セグメント区分は電子・機能製品事業(ファインケミカル製品や医薬品原薬・中間体などの機能化学品、粘・接着剤などの機能樹脂、半導体用金型クリーニング材やセラミック基板などなどの電子素材)、フィルム・シート製品事業(フィルム、ステッカー、再帰反射シートなど)、建材関連事業(ビル・住宅用アルミ建材、住設用プラスチック押出成形品など)、およびエンジニアリング事業(産業プラント設計・施工など)としている。

 22年3月期のセグメント別構成比は、売上高(内部売上高・振替高等調整前)が電子・機能製品事業42%(機能化学品8%、機能樹脂20%、電子素材15%)、フィルム・シート製品事業33%(フィルム6%、ステッカー11%、再帰反射シート17%)、建材関連事業16%、エンジニアリング事業9%、営業利益(全社費用等調整前)が電子・機能製品事業82%、フィルム・シート製品事業8%、建材関連事業8%、エンジニアリング事業2%だった。

 電子・機能製品事業の機能化学品では電子部材向け表面処理剤、機能樹脂では光学関連分野向け粘・接着剤、電子素材ではカーエレクトロニクス用途や電子デバイス関連向けセラミック基板、半導体用金型クリーニング材、フィルム・シート製品事業では自動車向けフィルム、自動二輪車向けステッカー、ナンバープレート向け再帰反射シートなどを主力製品としている。

■中期経営計画「NCIキラリ2025」

 長期経営戦略では2030年のありたい姿として「サスティナブルな社会に貢献する、キラリと光る企業グループ」を掲げ、さらに22年5月に策定した中期経営計画「NCIキラリ2025」(23年3月期~26年3月期)では、目標数値に最終年度26年3月期の売上高620億円、営業利益70億円、ROE12%以上、D/Eレシオ0.5倍以下を掲げている。

 基本方針としては、半導体・電子デバイスを中心とするエレクトロニクス分野、および環境・ライフ・モビリティを中心とするセーフティ分野を戦略市場(注力領域)と位置付けて、収益性の向上を推進する。戦略市場分野については、最終年度26年3月期売上高250億円(エレクトロニクス分野110億円、セーフティ分野140億円)で、売上高比率40%、営業利益50億円を目指すとしている。なお当該分野の22年3月期実績は売上高130億円(エレクトロニクス分野45億円、セーフティ分野85億円)で、売上高比率28%、営業利益18億円だった。

 エレクトロニクス分野では、既存の成長ドライバー(半導体材料用化学品、電子部品製造用化学品、半導体フォトレジスト用添加剤、半導体用金型クリーニング材、電子部品用バインダー、電子部品用回路基板)へのリソース重点配分、次世代成長ドライバー(次世代プリズム型反射シート、超低金属高純度製品)の事業化推進、新たな成長ドライバー(全固体電池向け材料、空中ディスプレイ用プリズムシート)創出に向けた研究開発力強化を推進する。

 セーフティ分野では成長ドライバーとして、環境分野におけるエンジニアリング技術カーボンニュートラルトランジションへの応用、ライフ分野におけるクオリティオブライオフ向上に向けた新製品・新技術開発、モビリティ分野におけるフィルム・シートの多機能・高機能化(ナンバープレート用反射シート、次世代高機能フィルム、環境対応加飾成形フィルム)などを推進する。

 戦略製品の採用事例としては、三菱電機エンジニアリングが22年7月に発売した空中タッチディスプレイ「AX-101TW」に、同社の空中ディスプレイ技術が採用されている。また、日立チャネルソリューションズの「空中入力装置」を活用したタッチレスソリューションが、メッツのME機器管理システム「Me-Arc-UCD-」に導入され、この「空中入力装置」に同社の空中ディスプレイ用リフレクターが採用されている。

 なお地域戦略については、カントリーリスクやサプライチェーンリスクへの対応を考慮して、海外売上高は増加するものの、海外売上比率は22年3月期実績47%から、26年3月期には45%へ若干低下する見込みとしている。海外での拡販戦略としては、モビリティ関連のワールドワイド市場への展開に加えて、中国の現地生産拠点を活用したエレクトロニクス領域向け粘・接着剤ニーズへの対応を本格化する方針としている。

 株主還元については配当性向30%以上を目途に安定配当の継続を目指すとしている。設備投資については中計4年間総額190億円(うち戦略市場に110億円)の計画、研究開発費は中計4年間総額120億円(うち戦略市場に80億円)の計画としている。

■SDGs経営

 SDGs経営の推進としては、社会・産業のデジタルインフラ整備、健康な生活・安心安全な社会の実現、カーボンニュートラルの実現、地域社会との共存共栄、従業員のやりがいと満足度の向上という5つのマテリアリティ(重要課題)を設定し、SDGs・ESGに貢献する製品の開発・供給などに取り組んでいる。

 SDGsに貢献する製品採用事例としては、2022年度グッドデザイン賞を受賞したバイオマス食器「シェルミン」(製造:ヤマト化工)に、同社が開発した鶏卵の殻50%質量部以上配合の原料が使用されている。バイオマス素材を使用したいメーカーにとって魅力的な素材である。

 また、国際宇宙ステーション(ISS)内にある日本の実験棟「きぼう」から放出(22年12月)された10cm角の超小型人工衛星「宇宙マグロ1号」(近畿大学理工学部等の共同開発)に、同社の再帰反射シートが装着されている。再帰性反射材によるレーザー反射の技術を応用すれば、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の回収に役立つことが期待される。

■プライム市場の上場維持基準適合に向けた計画書

 22年4月の東京証券取引所の市場区分見直しに伴って東証プライム市場に移行したが、移行基準日(21年6月30日)時点において流通株式時価総額がプライム市場の上場維持基準を充たしていなかったため、21年11月26日付で「新市場区分の上場維持基準適合に向けた計画書」を作成・開示した。そして22年5月には「新市場区分の上場維持基準適合に向けた計画書」を更新した。

 中期経営計画「NCIキラリ2025」の最終年度となる26年3月期末までを計画期間として、中期経営計画で掲げた成長戦略を着実に遂行して業績の向上を図るとともに、株主還元、コーポレートガバナンス、IR活動の充実・強化を図るなど、上場維持基準を充たすための各種取組を推進し、企業価値の向上(時価総額の増大)に努める方針としている。

 なお19年12月に設備投資資金の一部を調達する目的で第三者割当による新株予約権を発行した。22年1月に行使が完了し、流通株式数の増加につながった。さらに、流通株式数増加に向けた取り組みとして22年9月に株式売り出しを実施した。

■23年3月期減収減益予想、24年3月期収益回復期待

 23年3月期連結業績予想については、売上高が22年3月期比6.4%減の440億円、営業利益が56.2%減の14億円、経常利益が50.7%減の20億円、親会社株主帰属当期純利益が40.4%減の11億50百万円としている。配当予想は22年3月期比10円増配の65円(第2四半期末30円、期末35円)としている。予想配当性向は53.1%となる。

 期初時点の計画に比べて大幅に下振れる形(22年8月5日付で売上高と営業利益を下方修正、経常利益と当期利益を据え置き、22年11月8日付で売上高・各利益とも下方修正、23年2月6日付で売上高・各利益とも下方修正)となった。電子・機能製品事業においては半導体の市況悪化や液晶パネルの市況回復遅れの影響が想定以上に拡大し、フィルム・シート製品事業においても東南アジアでのオートバイ需要の減速や、欧州での自動車向けの市況回復遅れなどが影響する見込みだ。

 なお第3四半期累計は、売上高が前年同期比0.9%減の343億34百万円、営業利益が46.9%減の13億62百万円、経常利益が34.0%減の19億76百万円、親会社株主帰属四半期純利益が21.8%減の14億10百万円だった。営業外収益では為替差益が拡大(前年同期は3億15百万円計上、今期は4億22百万円計上)した。特別利益では投資有価証券売却益75百万円を計上、特別損失では前期計上の減損損失2億75百万円が剥落した。

 電子・機能製品は売上高が6.4%減の141億82百万円で営業利益(調整前)が37.6%減の13億31百万円、フィルム・シート製品は売上高が12.3%増の131億65百万円で営業利益が31.6%減の3億28百万円、建材関連は売上高が2.9%増の57億86百万円で営業利益が14.9%減の2億07百万円、エンジニアリングは売上高が6.4%減の30億30百万円で営業利益が72百万円の損失(前年同期は54百万円の利益)だった。

 四半期別にみると、第1四半期は売上高115億62百万円で営業利益7億42百万円、第2四半期は売上高117億51百万円で営業利益3億27百万円、第3四半期は売上高110億21百万円で営業利益2億93百万円だった。

 23年3月期は半導体市況など事業環境悪化の影響で減収減益予想となった。ただし積極的な事業展開で24年3月期の収益回復を期待したい。

■株価は戻り試す

 株価はやや小動きだが22年9月の安値圏をボトムとして緩やかに水準を切り上げている。週足チャートで見ると26週移動平均線も上向きに転じて上昇トレンドの形だ。高配当利回りや低PBRなど指標面の割安感も評価材料であり、自律調整を交えながら戻りを試す展開を期待したい。4月7日の終値は1291円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS122円41銭で算出)は約11倍、前期推定配当利回り(会社予想の65円で算出)は約5.0%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS3229円86銭で算出)は約0.4倍、そして時価総額は約121億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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