【歴史に学ぶビジネス術】米Appleとギリシア神話の教訓

吉田

■成功に酔いしれた神話イカロスにみる「成長の罠」、成長企業に注意を

ここ数年一本調子で上昇してきた米Apple株。まさに世界的な成長株の代名詞だったが、どうも雲行きが怪しくなっている。7月下旬に発表した四半期(4~6月)決算が予想を下回る内容だったことを機に売り込まれ、直前に132ドルだった株価は8月に入って113ドル台まで下落している。

下げの大きな要因は今後の成長に対する鈍化懸念だ。「iPhone」、「iPad」の快進撃も一巡し、スマートフォン・タブレット市場は飽和状態となりつつある。当然関心は次の成長商品ということになるが、これがまったく不透明だ。注目されたのは4月に投入したスマートウォッチ「Apple Watch」だったが、出足はふるわなかったようで、Appleも販売台数を公表していない。

優良企業にかかる急ブレーキ。思い起こされるのが近年注目されている「成功の罠」というフレーズだ。成功した企業は得意分野のみに傾倒しがちになり、イノベーションがおろそかになり、環境変化に対応しきれず、最後にはすべての市場を失ってしまう。近年の日本の大手電機が陥ったのがこの成功の罠である。

こうした例として「イカロスのパラドックス(逆説)」という言葉がある。イカロスとはギリシア神話の登場人物の一人である。神話の内容はこうだ。

 アテナイ(アテネの古名)の職人・ダイダロスとその子イカロスは、ミーノース王の怒りに触れて迷宮に幽閉された。ダイダロスは工夫して人造の翼を二つ作り、これを肩から結びつけ、イカロスとともに迷宮から飛び出て脱出した。

ダイダロスはイカロスに「羽をくっつけているニカワが溶けないよう太陽に接近するな、湿気ではがれぬよう海面に近づくな」と教えた。だがイカロスは飛翔する快感に夢中になってどんどん高空へ舞い上がった。やがて羽がはがれ、イカロスは海に墜落して溺れ死んだ。

イカロスの失敗の原因は何か。それは迷宮からの脱出であり、翼の出来の良さである。成功をもたらした要因そのものが失敗につながった、これぞ成功の罠だ。成功に酔いしれ、隠されたリスクを軽視し、環境変化を見失って転落してしまったわけだ。

考えてみれば太陽にも海面にも近づかない経営とは至難の業である。Appleがイカロスになるかどうかはわからないが、イカロスになる危険性は十分にあるだろう。これはGoogleもAmazonもまったく一緒だ。企業には寿命があり、輝ける時間も限定的なものなのである。

昨日まで栄華を誇っていた日本の大手電機の今日のありさまを見ればよくわかる話だろう。もう大手にはエレクトロニクスの翼そのものがなくなったのかもしれない。だから銀行・保険業という新しい翼を見つけていたソニーの戦略は意外に賢明だったことになる。寂しい話だが。(作家・吉田龍司)
(参考資料・「ギリシア神話」呉茂一、「イカロス・パラドックス」ダニー・ミラー)

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