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生化学工業は戻り試す、24年3月期収益回復期待
- 2023/5/8 09:38
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
生化学工業<4548>(東証プライム)は関節機能改善剤アルツなど糖質科学分野を主力とする医薬品メーカーである。23年3月期はロイヤリティー減少、国内薬価引き下げ、海外子会社の費用増加などで減収予想としている。第3四半期累計の利益は通期利益予想を超過達成の形だが、第4四半期に海外子会社における受託試験サービスの売上減少、研究開発費の集中発生、燃料費高騰に伴う費用の増加、半導体不足に伴って抑制していた工場定期メンテナンスの集中発生などを見込んでいる。ただし積極的な事業展開で24年3月期の収益回復を期待したい。株価は3月の年初来安値圏から反発して徐々に水準を切り上げている。低PBRも評価して戻りを試す展開を期待したい。なお5月12日に23年3月期決算発表を予定している。
■関節機能改善剤アルツなど糖質科学分野が主力の医薬品メーカー
糖質科学分野が主力の医薬品メーカーで、国内医薬品(関節機能改善剤アルツ、白内障手術補助剤オペガン、内視鏡用粘膜下注入材ムコアップ)、海外医薬品(米国向け単回投与関節機能改善剤Gel-One、米国向け3回投与関節機能改善剤VISCO-3、米国向け5回投与関節機能改善剤SUPARTZ-FX、中国向けアルツ)、医薬品原体(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸)、LAL事業(エンドトキシン測定用試薬関連)を展開している。
22年3月期セグメント別構成比(22年3月期から受取ロイヤリティーを営業外収益から売上高に表示区分変更、販売手数料等を販管費計上から売上高控除に変更)は、売上高が医薬品事業74%(国内医薬品33%、海外医薬品22%、医薬品原体・医薬品受託製造7%、ロイヤリティー11%)でLAL事業26%、営業利益が医薬品事業49%、LAL事業51%だった。
■海外展開を強化
海外展開を強化している。20年3月には海外製造拠点としてカナダのダルトン社を子会社化した。なおダルトン社を買収する際に中間持株会社として設立したSEC社、および買収目的会社として設立したSAC社が特定子会社に該当することになったため、ダルトン社とSAC社が現地法に基づく新設合併を行い、新設された新ダルトン社が旧ダルトン社から商号および事業を引き継いだ。
20年8月には、ダルトン社がサスカチュワン大学の研究機関であるVIDO-InterVacと、VIDO-InterVacがカナダ政府およびサスカチュワン州から支援を受けて開発を進めているCOVID-19ワクチンの製造に関して、業務提携に合意した。ダルトン社は本提携により、COVID-19ワクチンの初期段階の臨床試験で投与される治験薬の調合、充填、製剤化を担う。
21年4月にはLAL事業の海外子会社である米ACC社が、遺伝子組み換えエンドトキシン測定用試薬「パイロスマート ネクストジェン」の販売を開始した。21年8月には単回投与の関節機能改善剤ハイリンクについて、台湾のTCM社を通じて台湾における販売を開始した。
21年11月には海外子会社のACC社が、遺伝子組み換えエンドトキシン測定用試薬「パイロスマート ネクストジェン」について、Pharma Manufacturing 2021 Innovation Awardを受賞した。
22年1月にはダルトン社の100%出資子会社として、カナダに現地法人SEIKAGAKU NORTH AMERICA CORPORATIONを設立した。北米に開発拠点を有することで、現地の医療環境に即したプランの立案、FDA(米国食品医薬品局)や治験施設との円滑なコミュニケーション実現など、医薬品・医療機器開発および承認取得の加速を目指す。
■中期経営計画
中期経営計画(23年3月期~26年3月期)の目標数値には、最終年度26年3月期の売上高400億円、営業利益70億円を掲げている。23年3月期からの4年間を「成長を実現する期間」として、最終年度26年3月期に過去最高の業績達成を目指すとしている。前提条件としては、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603の米国上市、国内関節機能改善剤の収益拡大、海外医薬品およびLAL事業の拡大、研究開発費の対売上高比率(ロイヤリティー除く)25%目途、為替レート1米ドル=135円としている。
利益還元については、1株当たり年間配当金26円を基本として、業績動向および財務状況を勘案して増配を検討する。また、今後の事業展開や総還元性向を考慮しながら、自己株式取得を適宜検討するとしている。
重点施策としては、独自の創薬技術を活かした研究開発の加速、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603の製品価値最大化、関節機能改善剤の事業価値維持・向上、グローバル生産体制の構築、遺伝子組み換え技術によるLAL事業の拡大を掲げ、社員エンゲージメント向上や人材育成、経営基盤の強化、サステナビリティ経営の強化も推進する方針としている。
■新薬開発は糖質科学分野に焦点
研究開発は糖質科学分野(糖鎖や複合糖質を研究する科学分野)に焦点を絞っている。23年3月期第2四半期末時点の開発パイプラインとしては、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603(米国、コンドリアーゼ)、ドライアイ治療剤SI-614(米国、修飾ヒアルロン酸)、変形性膝関節症改善剤SI-613(米国、ジクロフェナク結合ヒアルロン酸)、腱・靱帯付着部症を適応症とするSI-613-ETP(日本、ジクロフェナク結合ヒアルロン酸)、間質性膀胱炎を適応症とするSI-722(米国、ステロイド結合コンドロイチン硫酸)、癒着防止材SI-449(日本・米国、コンドロイチン硫酸架橋体)がある。
SI-6603は日本では18年3月製造販売承認を取得し、科研製薬<4521>が18年8月販売開始(腰椎椎間板ヘルニア治療剤ヘルニコア)した。またスイスのフェリング社と日本を除く全世界におけるライセンス契約を締結している。マイルストーン型ロイヤリティーの総額は最大95百万米ドル(うち契約一時金5百万米ドル)である。米国では22年3月に第3相追加臨床試験被験者組み入れが完了した。1年間の経過観察を実施後に承認申請・取得を目指す。
SI-613は小野薬品工業<4528>と日本における共同開発・販売提携に関する契約を締結し、21年3月に変形性関節症治療剤ONO-5704/SI-613(ジョイクル関節注30mg)が変形性関節症(膝関節、股関節)の効能または効果で国内製造販売承認を取得し、21年5月に小野薬品工業が販売開始した。マイルストーン型ロイヤリティーの総額は最大120億円(うち契約一時金20億円)である。20年9月にはエーザイ<4523>と韓国における販売提携に関する契約を締結した。エーザイの韓国子会社が韓国におけるSI-613独占的販売権を取得して製造販売申請を行い、承認取得後は製品をエーザイに供給する。契約一時金と販売マイルストーンを受け取る。エーザイとは20年4月に中国における共同開発および販売提携に関する契約を締結しており、2ヶ国目の提携となる。
なお、ジョイクル投与後にショック、アナフィラキーの発現が複数報告されたため21年6月1日付で安全性速報(ブルーレター)を発出し、小野薬品工業と連携して副作用報告等の情報収集や安全性に関する情報提供に努めている。また原因究明に向けて医師主導の臨床研究を開始している。今後の方針としては、米国・中国・韓国におけるSI-613(変形性膝関節症)の開発方針を検討中で、日本におけるSI-613-ETP(腱・靭帯付着部症、小野薬品工業とのSI-613の契約に含む)の開発を22年2月に中断している。ジョイクルのショック、アナフィラキー発現に関する原因究明を優先する。
SI-614は22年5月に米国で第3相臨床試験を開始した。有効性、安全性の評価を行う。SI-722は19年11月米国における第1・2相臨床試験を開始、20年3月被験者投与を開始、21年1月被験者組み入れが完了した。主目的である忍容性を確認し、次相試験を検討中である。
SI-449は日本で20年5月に国内ピボタル試験(消化器外科領域)を開始、22年9月に被験者組み入れが完了した。また、21年11月に国内パイロット試験(婦人科領域)を開始し、22年5月に被験者組み入れが完了した。米国では試験開始を検討している。
なお中期経営計画の期間中に、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603の米国における承認取得および上市、ドライアイ治療剤SI-614の米国第3相臨床試験の終了、癒着防止材SI-449の国内での承認取得および米国での臨床試験開始を目指すとしている。
■23年3月期減収減益予想だが24年3月期収益回復期待
23年3月期の連結業績予想(関節機能改善剤ジョイクルのショック、アナフィラキーの発現に関する原因究明の進捗を見極める必要があるため未定としていたが22年11月8日付で公表)は、売上高が22年3月期比3.9%減の335億円、営業利益が62.2%減の17億円、経常利益が46.2%減の29億円、親会社株主帰属当期純利益が29,0%減の26億50百万円としている。配当予想(22年11月8日付で第2四半期末2円、期末2円、合計4円上方修正)は、22年3月期比4円減配の26円(第2四半期末13円、期末13円)としている。
第3四半期累計は売上高が前年同期比7.0%減の261億62百万円、営業利益が45.4%減の34億07百万円、経常利益が38.9%減の42億18百万円、親会社株主帰属四半期純利益が32.4%減の36億28百万円だった。
LAL事業が伸長したが、国内における薬価引き下げの影響、前期計上のロイヤリティーの剥落などで減収減益だった。なおロイヤリティーを除く原価率は44.2%で0.5ポイント低下した。薬価引き下げ影響を売上構成比変化で吸収した。販管費は2.7%増加した。米国で実施中の腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI―6603追加臨床試験の被験者組み入れが完了したため研究開発費が減少(研究開発費は8.6%減の53億55百万円)したが、為替換算を含む海外子会社の費用が増加した。営業外収益では為替差益が増加(前年同期は1億85百万円、今期は3億96百万円)した。
医薬品事業は売上高が16.2%減の179億53百万円、営業利益が68.2%減の13億95百万円だった。売上高の内訳は国内医薬品が3.5%減の88億50百万円、海外医薬品が2.7%増の69億22百万円、医薬品原体・医薬品受託製造が11.5%増の21億78百万円、ロイヤリティーが1百万円(前年同期は35億50百万円)だった。
国内は、関節機能改善剤アルツが薬価引き下げの影響を受け、前期計上のロイヤリティーが剥落した。海外は、米国において単回投与の関節機能改善剤ジェル・ワンが円安も寄与して増収だが、複数回投与の関節機能改善剤スパルツFXが出荷時期の影響で前年同期並みだった。中国の複数回投与の関節機能改善剤ARTZは、包装資材変更に伴って第1四半期の出荷が無かったため減少(8月から出荷再開)した。医薬品原体・医薬品受託製造は、医薬品原体が前年並みだったが、海外子会社ダルトン社の医薬品受託製造が円安も寄与して増収だった。
LAL事業は売上高が22.1%増の82億09百万円、営業利益が8.6%増の20億11百万円だった。海外子会社ACC社における円安効果に加えて、国内販売も堅調だった。
なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が83億07百万円、営業利益が11億26百万円、経常利益が17億14百万円、第2四半期は売上高が89億51百万円、営業利益が14億84百万円、経常利益が18億86百万円、第3四半期は売上高が89億04百万円、営業利益が7億97百万円、経常利益が6億18百万円だった。
通期も減益予想としている。売上面は、国内医薬品の数量増加や海外医薬品の円安効果を見込むが、ロイヤリティーの大幅減少や国内における薬価引き下げの影響で減収予想としている。利益面は、研究開発費の減少(通期ベースで11.2%減の80億円)を見込むが、減収影響や為替換算を含む海外子会社の費用の増加などで減益予想としている。なお営業外収益で外貨建資産の為替評価益を見込んでいる。下期の想定為替レートは1米ドル=140円としている。
セグメント別売上高の計画は、医薬品事業が12.4%減の225億円(国内医薬品が5.2%減の108億50百万円、海外医薬品が13.0%増の86億50百万円、医薬品原体・医薬品受託製造が15.1%増の30億円、ロイヤリティーが39億88百万円減少の1百万円)で、LAL事業が20.2%増の110億円としている。
なお第3四半期累計の利益は通期利益予想を超過達成の形となっているが、第4四半期に海外子会社における受託試験サービスの売上減少、研究開発費の集中発生、燃料費高騰に伴う費用の増加、半導体不足に伴って抑制していた工場定期メンテナンスの集中発生などを見込んでいる。ただし積極的な事業展開で24年3月期の収益回復を期待したい。
■株価は戻り試す
株価は3月の年初来安値圏から反発して徐々に水準を切り上げている。低PBRも評価して戻りを試す展開を期待したい。5月2日の終値は841円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS48円12銭で算出)は約17倍、前期推定配当利回り(会社予想の26円で算出)は約3.1%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS1179円46銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約478億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)