ラバブルマーケティンググループは調整一巡、戦略投資先行だが中長期成長期待

ラバブルマーケティンググループ<9254>(東証グロース)はSNSマーケティング事業を主力とする持株会社で、第2の収益柱育成に向けてDX支援事業も展開している。成長加速に向けて小規模でSNS運用する企業・団体向けのSNSマーケティング支援、東南アジアを中心とする海外展開、サステナビリティマネジメントも推進している。23年3月期は戦略投資に伴う費用増加などで大幅減益だったが、売上高は新規受注増加で大幅増収・過去最高だった。次期の連結業績予想については、6月29日開催の第9回定時株主総会での承認を条件に、10月決算に変更して23年4月~10月の7ヶ月決算予定(5月24日公表)としている。当面は戦略投資負担が先行するが、積極的な事業展開で中長期的成長を期待したい。株価は動意づく場面があるものの、買いが続かず安値圏に回帰の形となったが、調整一巡して出直りを期待したい。

■SNSマーケティング事業を主力とする持株会社

企業やブランドのSNSマーケティングを支援するSNSマーケティング事業を主力とする持株会社である。SNS普及期の08年に設立(コムニコ設立、14年に純粋持株会社へ移行)して培ったSNSマーケティングに関する豊富なノウハウを強みとしている。さらに第2の収益柱育成に向けてDX支援事業なども展開している。

子会社はSNSマーケティング事業のコムニコ、23年4月に設立したジソウ、一般社団法人SNSエキスパート協会、23年4月に子会社化完了(出資比率49%)したタイのDTK AD、およびDX支援事業のDXディライト(旧24-7が23年4月に社名変更)である。一般社団法人SNSエキスパート協会は、SNSに関する正しい知識の普及と効果的かつ安全にSNSを活用できる人材育成を目的として、コムニコが16年11月に設立した法人である。理事の派遣を通じて実質的に支配しているため子会社としている。

23年3月期は、SNSマーケティング事業の売上高が22年3月期比19.1%増の15億63百万円で営業利益(全社費用等調整前)が9.2%減の4億67百万円、DX支援事業の売上高が20.0%増の89百万円で営業利益が6百万円の赤字(22年3月期は6百万円の赤字)だった。

■SNSマーケティング事業は運用支援~ツール提供~教育の好循環で成長

SNSマーケティング事業は、SNSマーケティングに関する運用支援~運用支援ツール提供~人材教育サービスという3つのソリューションで構成されている。企業のSNSマーケティングのオペレーションをフルサポートし、3つのソリューションが相互補完しながら好循環で成長するビジネスモデルを特徴としている。

国内ではコムニコが、比較的予算の大きい大企業やブランドを主たるターゲットとして展開している。そして中堅・中小企業など小規模でSNS運用する企業・団体向けにSNSマーケティング支援を行う子会社ジソウを設立し、対象市場拡大に向けた取り組みを開始した。なおジソウは設立まもなく、地方自治体、飲料メーカー、情報通信業、小売業、NPO法人など複数の企業・団体の支援が決定したとしている。SNSエキスパート協会は人材教育サービスを展開している。

運用支援は、12年12月にサービス開始したSNSアカウント投稿・分析ツールcommnico Marketing Suiteや、18年5月にサービス開始したSNSキャンペーン支援ツールATELUを活用し、顧客企業のSNSアカウント戦略策定からアカウント開設、運用支援・代行、投稿コンテンツ制作、コメント対応、キャンペーン企画・運営、広告出稿、レポート作成、効果検証までをワンストップサービスで提供(受託)している。

運用支援ツール提供は、SNSアカウントでの投稿管理などに係る作業時間を大幅に削減するcommnico Marketing Suiteや、応募者の収集・当選管理などSNSキャンペーンに必要な作業を効率化するATELUをSaaS型で提供している。

人材教育サービスは、SNSアカウント開設・運用に係るノウハウや、炎上などSNSに潜むリスクに関する内容を体系化した検定講座を開発・提供している。このほかにセミナー、講演、書籍、メディアを通して、SNSに関する正しい知識の普及・啓蒙活動にも努めている。社内人材のプロ化にもつながり、3つのソリューションの相乗効果を高めている。なお18年1月~23年3月にSNS関連記事が外部メディアに掲載された件数は266件、寄稿した件数は117件で、いずれも競合他社を圧倒的にリードしている。また、22年4月~23年3月の自社メディア運営におけるリード獲得数は4117件、自社開催無料ウェビナーへの参加者数は1420名となった。

新たなツール・サービスの開発では、23年3月にInstagramのダイレクトメッセージの自動応答に対応するチャットボットツール「autou」の提供を開始した。今後の盛り上がりが見込まれるライブコマースやSNSキャンペーンにも利用可能である。5月8日には「autou」リリースから1ヵ月間で大手ディベロッパーや大手食品メーカーなど複数企業での導入が決定したと発表している。

海外はDTK ADを子会社化し、東南アジアを中心にインバウンドプロモーションや海外マーケティング支援の事業展開を開始した。DTK ADは、SNSマーケティングやインバウンドを対象としたプロモーションを得意とするマーケティングエージェンシーで、現地の芸能人、YouTuber、ブロガー・ネットアイドルなど3000名以上のインフルエンサーとの独自のネットワークを活かしたインバウンド向けプロモーションに多数の実績を持っている。既にタイを拠点としてシンガポールや香港など複数国に事業展開している。DTK ADの木村好志代表取締役はタイ在住15年で現地に精通し、顧客からも高い評価を得ている。今後の展開としては、東南アジアに進出する日系企業のマーケティング支援や東南アジアからのインバウンド需要の獲得、双方の顧客に対するアップセル・クロスセルにより、海外事業拡大を目指す方針としている。

なおSNSマーケティングの業務効率化に向けて、チャットAIを活用した新サービスの開発に取り組む。また従業員の生産性・創造性の向上に向けて、オープンAIが開発した人工知能「ChatGPT」を社内導入した。

SNSマーケティング事業の主な収益は、月額課金の運用支援ツール利用料、月額課金の運用支援基本料金、従量課金のコンテンツ制作料金(企画数、原稿作成、撮影数など投稿数によって変動)である。受注は大手広告代理店経由と直接受注がある。23年3月期のソリューション別売上高構成比は運用支援が77.3%、運用支援ツール提供が20.3%、人材教育サービスが2.4%だった。

同社のSNSマーケティング運用支援は大手企業を中心に銀行、小売、情報通信、飲食サービス、自治体など多種多様な企業・官公庁に幅広く導入されている。多数のブランドを展開する企業がブランド毎にSNSアカウントを運用するケースが増えているため、大型案件の受注が増加傾向となっている。ロイヤルクライアント(年間売上高10百万円以上の顧客)の数は、23年4月期第4四半期時点で22年3月期第4四半期比5社増加して38社となった。複数アカウント契約社数は81社増加して383社(うち4アカウント以上の社数は21社増加して81社)となった。クライアント例として大手ITグループ230アカウント、大手出版社42アカウント、独立行政法人38アカウントなどがある。

主要KPIとして、23年3月期のSNS運用支援新規受注件数は385件となった。22年3月期の412との比較では27件減少したが、21年3月期の247件に対しては138件増加した。

23年3月期末時点のSNS運用支援ツール累計契約件数は22年3月期末比93件増加の493件(commnico Marketing Suiteが73件増加の374件、ATELUが20件増加の112件、その他が増減なしの7件)だった。また、23年3月期第4四半期のcommnico Marketing SuiteのARRは32.8%増の247百万円、解約率はcommnico Marketing Suiteが1.86%、ATELUが2.51%だった。

なおcommnico Marketing Suiteの有償契約アカウント数は22年10月末に累計3000件を突破、ATELUのキャンペーン実施数は23年3月末に累計6000件を突破した。キャンペーンに参加したユーザー数はTwitterとInstagramを合わせて延べ2900万人以上に達している。

人材教育サービスでは、検定受講者数が23年3月期末時点で累計5077名(リスクマネジメント検定が900名、初級検定が3626名、上級検定が551名)となった。

■成長に向けてDX支援や新規事業も育成

同社は成長戦略として、M&A・アライアンスも積極活用し、基幹事業であるSNSマーケティング事業の拡大を加速させるとともに、DX支援事業の基幹事業化、海外や新しいテクノロジーを活用した新規事業の育成も強化する方針としている。

SNSマーケティング事業は「SNSマーケティングの総合代理店としてのシェアNO.1」を目指し、事業拡大(運用支援数拡大、支援領域拡大、運用支援ツール拡大)に向けた重点施策として、運用支援および運用支援ツール提供では付加価値の高いサービスの提供、サービス品質とコンテンツパフォーマンスの向上、新サービスの開発・拡充、SaaS型クラウドツールのクロスセル、カスタマーサクセスの実現、幅広いSNSプラットフォームへの対応とサービス拡充などを推進する。人材教育サービスではマーケティング強化によるブランディング、検定受講者数の拡大、法人向けサービスメニューの拡大などを推進する。こうした成長戦略を支えるため積極的な人材投資を継続する。

成長に向けた育成事業と位置付けているDX支援事業は、子会社DXディライトがSalesforceを中心にMA、CRM、SFAなどの導入・運用支援を展開している。12年にHubSpot社のMAツール「HubSpot」の取り扱いを開始し、20年1月にはSalesforceコンサルティングパートナーに認定されて、Salesforce社のMAツール「Pardot」の取り扱いを開始した。さらなる事業拡大に向けて、SFA・CRM領域の開発案件新規開拓、SFA領域における事業提携などを推進している。

新規事業に関しては、SNSに関する豊富なノウハウと新たなテクノロジーを活用し、NFTやメタバースなどWeb3領域における新サービス開発・提供を目指す方針だ。子会社のコムニコはWeb3スタートアップ企業のプレイシンクと協業し、秘密鍵の管理不要なNFT保有手段を開発してNFT領域に参入する。一部のデジタルリテラシーの高いユーザーのみが保有していたNFTをより多くのユーザーに届けることができ、これまでのプレゼントキャンペーンよりもさらに強いファン層の参加を促し、かつ従来のTwitterキャンペーンよりもリアルタイム性のあるキャンペーン設計が可能となる。

■アライアンスを積極活用

22年9月には子会社のコムニコが、バーチャルの観光物産や自動車ショールームなどXR技術を活用したソリューション「ABALシステム」を提供するABALと協業した。SNSプラットフォームとバーチャル空間を組み合わせて、Web3時代のSNSマーケティングソリューションに関する新サービスの共同開発・提供を推進する。

22年11月には子会社のコムニコが、エンファムが運営する子育て支援メディア「リトル・ママ」とタイアップし、新サービス「SNSタイアッププラン#つながる子育てビト」を開始した。このタイアップにより、特にファミリー向け商品・サービスを扱う企業に対して、親和性が高い「子育て女性」という特定の層をターゲットとするSNS施策やイベントの提案が可能になる。23年1月にはフジッコの「おかず畑おばんざい小鉢」を訴求するキャンペーン・モニター企画に導入された。

また22年11月には、TikTok支援を得意とするmemeに出資して資本業務提携した。この提携により、短尺動画(ショート動画)を活用した幅広い提案を行うことが可能になる。将来的には両社で新サービス開発も推進する。

23年1月には子会社のコムニコが、note<5243>が22年9月から開始しているnote proセールスパートナー制度のパートナー企業に認定された。noteを活用したSNSマーケティング支援の拡充を推進する。

23年3月には子会社のDXディライトがオプロのパートナー企業となり、オプロが提供するBtoBサブスクリプション管理サービス「ソアスク」の企業向け導入支援を開始した。

■サステナビリティマネジメントで人材戦略を重視

同社は、メンバーが輝くことできる「働きがいのある組織」が全活動のベースとなり、そこから生み出される事業活動によって社会の持続可能な発展に貢献するとの考え方に基づき、この循環の創造を目指してサステナビリティマネジメントを推進している。

22年10月には本社を移転した。新しい発見やイノベーションが生まれる基地として多様な働き方を推進し、社員の定着、職場の一体感やエンゲージメントの向上を図る方針としている。

また子会社のコムニコでは人財戦略チームを立ち上げて、採用~教育の体制仕組化を進めている。そして23年の新卒入社の内定数が11名となり、新卒採用を開始して以降、最多人数となった。23年3月には、経済産業省と日本健康会議が進める健康経営優良法人認定制度において、健康経営優良法人2023(大規模法人部門)に認定された。グループ各社を含めて今回初めて申請し、認定された。

5月25日には、従業員の働き方や成長をサポートする制度の総称を「ララサポ」に決定したと発表している。Lovable Life(ラバブルな人生)をサポートする。環境サポート、成長サポート、健康サポート、出産・育児サポート、介護サポート、休暇制度、コミュニケーション、表彰制度、その他の9つのカテゴリーがあり、現時点で全39項目が定められている。

■23年3月期は投資先行で大幅減益だが、売上高は大幅増収・過去最高

23年3月期の連結業績は売上高が22年3月期比19.1%増の16億53百万円、営業利益が59.9%減の80百万円、経常利益が57.3%減の79百万円、親会社株主帰属当期純利益が51.4%減の44百万円だった。

利益率の高いキャンペーン案件の減少や、成長に向けた戦略投資に伴う費用の増加(人員増加に伴う人件費・採用教育費の増加、M&A・資本業務提携の検討に係る費用の増加、本社移転に伴う地代家賃の増加など)などで大幅減益だったが、売上高は新規受注の増加で大幅増収・過去最高だった。売上高の内訳はSNSマーケティング事業が19.1%増の15億63百万円、DX支援事業が20.0%増の89百万円だった。

なお四半期別にみると、第1四半期は売上高が3億53百万円で営業利益が2百万円の赤字、第2四半期は売上高が3億86百万円で営業利益が3百万円の赤字、第3四半期は売上高が4億48百万円で営業利益が24百万円の黒字、第4四半期は売上高が4億66百万円で営業利益が61百万円の黒字だった。売上規模の拡大に伴って営業損益も改善基調である。

次期の連結業績予想については、5月12日付で24年3月期連結業績予想(売上高が23年3月期比13.9%増の18億84百万円、営業利益が0.9%増の81百万円、経常利益が0.1%増の80百万円、親会社株主帰属当期純利益が16.6%減の37百万円)を公表したが、その後5月24日付で決算期変更を発表した。年末および年度末に需要期を迎える傾向があるため、6月29日開催の第9回定時株主総会での承認を条件に、10月決算(毎年11月1日から翌年10月31日まで)に変更する。このため次期(第10期)は経過措置として23年4月~10月の7ヶ月決算(23年10月期)とする。当面は戦略投資負担が先行するが、積極的な事業展開で中長期的成長を期待したい。

■株価は調整一巡

株価は動意づく場面があるものの、買いが続かず安値圏に回帰の形となったが、調整一巡して出直りを期待したい。5月26日の終値は1341円、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS369円10銭で算出)は約3.6倍、そして時価総額は約19億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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