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テンポイノベーションは売られ過ぎ感、24年3月期も増収増益で連続増配予想
- 2023/5/30 09:36
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
テンポイノベーション<3484>(東証プライム)は、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗を転貸借する店舗転貸借事業を主力としている。転貸借物件数の増加に伴って賃料収益を積み上げるストック型ビジネスであり、旺盛な個人・小規模飲食事業者の出店需要に対応して積極的な仕入を継続している。23年3月期(連結決算に移行のため前期比増減率は非記載)は、22年3月期の非連結業績との単純比較で増収増益だった。店舗転貸借事業において積極的な仕入を実施し、転貸借物件数および契約件数が順調に増加した。子会社の店舗家賃保証事業や不動産売買事業も寄与した。そして24年3月期も増収増益で連続増配予想としている。なお中期経営計画を策定し、配当性向を引き上げる方針とした。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は3月の上場来高値圏から反落し、24年3月期予想に対してもネガティブ反応となって水準を切り下げたが、やや売られ過ぎ感を強めている。好業績や中期成長力を評価して出直りを期待したい。
■飲食業の出店希望者向け居抜き店舗転貸借事業
首都圏一都三県(特に東京都)において、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗(造作物が残っており、すぐに営業できる状態の物件)を転貸借する店舗転貸借事業を主力として、不動産業者とのリレーションシップ強化を主目的とする不動産売買事業、および独自の審査ノウハウを活用した店舗物件専門の家賃保証事業(22年4月に子会社の店舗セーフティーを設立して事業開始)も展開している。なお、クロップス<9428>の連結子会社だが、営業上の取引はなく経営上の独立性を確保している。
23年3月期売上高構成比は店舗転貸借事業(店舗家賃保証事業含む)が93%、不動産売買事が7%、営業利益構成比は店舗転貸借事業が79%、不動産売買事業が21%だった。全社売上高に占める店舗転貸借ランニング収入(賃料収入、更新手数料収入など)の比率は86.7%(22年3月期比0.8ポイント上昇)だった。
不動産売買事業は不動産業者とのリレーションシップ強化も目的として、長期保有は行わず一定の資金枠内で資金効率を重視して売買を行う。23年3月期は5物件を売却、8物件を取得し、期末時点の保有物件数は6件となった。なお四半期業績は不動産売買事業のイニシャル収入によって変動する可能性があるが、ストック収益となる店舗転貸借事業のランニング収入は順調に伸長している。
■転貸借契約件数は増加基調
店舗転貸借事業は、仲介ではなくサブリースでもなく、不動産業における第6のカテゴリーと位置付けている。不動産オーナーにとっては賃貸料収入安定、不動産会社にとっては仲介収益機会獲得、店舗出店者にとっては出店費用削減、店舗撤退者にとっては閉店コスト削減というメリットがある。また飲食業は他の産業との比較で、開業・廃業による入れ替わりが激しいため市場機会が豊富という特徴もある。さらに造作物(厨房機器、テーブル、床コンクリート、排気ダクトなど)の廃棄量を削減できるという点で、持続可能な社会の実現に貢献するビジネススキームである。
保有物件数(転貸借物件数)の増加に伴って賃料収益(ランニング収入)を積み上げるストック型ビジネスモデルである。23年3月期の新規契約件数および後継付け件数(転貸借契約を解約後に次の転借人と転貸借契約を締結した物件)の転貸借成約件数の合計は22年3月期比75件増加の482件となり、期末時点で転貸借契約が締結されている転貸借物件数は265件増加の2216件となった。コロナ禍などで飲食業界が厳しい状況下でも、転貸借契約物件数は着実に増加している。
なお四半期別の成約件数の推移を見ると、コロナ禍前の20年3月期は概ね100件前後で推移(第1四半期101件、第2四半期100件、第3四半期91件、第4四半期105件)していた。21年3月期第1四半期にコロナ禍の影響で43件まで落ち込む場面があったが、その後は第2四半期81件、第3四半期92件、第4四半期98件、22年3月期第1四半期95件、第2四半期96件、第3四半期104件と順調に回復した。そして22年3月期第4四半期112件、23年3月期第1四半期107件、第2四半期117件、第3四半期131件、第4四半期127件と、コロナ禍前を上回る水準となっている。コロナ禍の影響緩和や政府の補助金終了によって新陳代謝が進み、成約数が増加基調である。転貸借物件数の純増につながる新規契約が高水準な一方で、解約数は低水準で推移している。
■転貸借物件数29年3月期5500件目標
23年5月に策定した中期経営計画(24年3月期~26年3月期)では、連結業績目標値として最終年度26年3月期の売上高191億11百万円、営業利益16億79百万円、経常利益17億09百万円、親会社株主帰属当期純利益11億66百万円、成約数700件、期末転貸借物件数3275件を掲げた。
また、東証プライム市場上場維持基準への早期適合を視野に、株主への利益還元の姿勢をより明確にするため配当方針を変更し、中期経営計画の各期においては配当性向40%を目途に配当を実施する方針とした。これにより、26年3月期の1株当たり配当は年間28円(配当性向40.9%)の計画としている。さらに中期経営計画終了後も同等の配当性向を目途とした株主還元を目指すとしている。
基本方針に店舗転貸借事業の拡大(転貸借契約件数と賃料差益の最大化)、テーマに専門特化・プロフェッショナル化、重点施策に継続的な営業組織の拡充とWEB(出店希望者の募集を行う自社サイト「居抜き店舗.com」)による集客力向上、営業採用のための組織強化やノウハウの体系化およびIT化による教育強化、不動産売買における仕入先・販売先のさらなる拡大と人員の増強、DX推進による業務系実務や営業マネジメントの効率化を掲げた。
中長期的な経営目標として、26年3月期までに営業部門100名体制を達成することにより、27年3月期に転貸借物件純増数600件/年、28年3月期に成約数1000件/年、さらに29年3月期に転貸借物件数5500件、売上高300億円規模、営業利益30億円規模を目指すとしている。営業力の増強に向けては、23年3月期営業人員数36名に対して、増員・教育・適性に応じた配置により営業体制の構築を推進する。26年3月期営業人員100名体制を目指すが、営業業務効率化が進んだ場合、80~90名程度での対応も視野に入れるとしている。
CSR活動としては、飲食店舗を活用した「子ども食堂」を19年6月から開催している。店舗の特性を活かして、子供達への食事提供にとどまらず、地域における居場所づくり、親御さんへの支援といった社会的インフラになることを目指している。またESG活動として、居抜き物件を活用するビジネススキームにより、産業廃棄物(造作物)の廃棄量削減に貢献している。
■プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書
22年4月の東京証券取引所の市場再編ではプライム市場に移行し、プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書を開示(21年12月15日付)した。28年3月期までに流通株式時価総額のプライム市場上場維持基準適合を図るため各種取組を推進する。
具体的には、継続的な業績向上の実現によって企業価値の向上(時価総額の上昇)を図るとともに、法定開示・適時開示にとどまらない積極的なIRによって市場に情報発信する。また必要に応じて、流通株式比率の向上に向けたテクニカルな取組も検討する。
継続的な業績向上の実現では、市場開拓余地が大きく競合優位性も高い店舗転貸借事業に専門特化し、転貸借契約件数の最大化を通じてストック型収益である賃料差益の最大化を推進することで、継続的な業績向上(目途として前期比10%~20%程度の増収増益継続)の実現を図る方針だ。
23年3月には上場維持基準適合に向けた計画に基づく進捗状況を公表した。移行基準日(21年6月30日)時点で流通株式時価総額がプライム市場上場維持基準を充たしていなかったが、22年12月31日時点で新たに1日平均売買代金が上場維持基準を充たしていないことを確認した。このため1日平均売買代金に関して、23年12月31日までに上場維持基準を充たすための各種取組を進めるとした。また、業績の向上やIR活動の強化など各種取組により、時価総額については21年11月30日時点の146億円から23年2月28日時点で222億円と大幅に上昇した。
上場維持基準に関する経過措置の終了時期が定められたことを踏まえ、計画期間終了時期に変更はないものの、新たな中期経営計画で掲げた各種施策への取組や業績目標の達成により、早期の基準適合を視野に入れて時価総額の上昇を実現すべく、企業価値の向上および株主価値の向上を図る方針としている。
なお、自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)によって、23年2月13日付で自己株式65万株、23年5月19日付で自己株式25万株を取得している。
■24年3月期も増収増益で連続増配予想
23年3月期の連結業績(店舗家賃保証事業を行う子会社の店舗セーフティーを設立して連結決算に移行のため前期比増減率は非記載)は、売上高が130億70百万円、営業利益が12億12百万円、経常利益が12億66百万円、親会社株主帰属当期純利益が8億85百万円だった。配当は22年3月期比4円増配の16円(期末一括)とした。配当性向は31.8%となる。
22年3月期非連結業績(売上高114億15百万円、営業利益9億09百万円、経常利益9億86百万円、当期純利益6億62百万円)との単純比較で見ると、売上高は14.5%増収、営業利益は33.3%増益、経常利益は28.4%増益、親会社株主帰属当期純利益は33.7%増益だった。
実質的に大幅増収増益だった。店舗転貸借事業において、ウィズコロナにおいても旺盛な個人・小規模飲食事業者の出店需要に対応して積極的な仕入を実施し、転貸借物件数および契約件数が順調に増加した。子会社の店舗家賃保証事業や不動産売買事業も寄与した。
店舗転貸借事業(店舗家賃保証事業含む)は、売上高が121億93百万円(22年3月期の104億45百万円との単純比較で16.7%増収)で、セグメント利益(営業利益)が9億61百万円(同7億23百万円との単純比較で32.9%増益)だった。転貸借物件数および契約件数が順調に増加し、増収効果で販管費の増加を吸収した。重点施策として、営業力増強に向けた採用・教育や、転貸借物件数増加に対応するための物件管理の質的・量的強化を推進した。転貸借契約件数(新規契約件数および後継付け件数の合計)は29.6%増加して407件、期末の転貸借物件数は245件増加して1951件となった。
不動産売買事業は売上高が8億76百万円で、セグメント利益が2億50百万円だった。5物件を売却、8物件を取得して期末保有物件数は6件となった。なお22年3月期(5物件売却、6物件取得して期末保有物件数3件)は、売上高が9億70百万円でセグメント利益が1億86百万円だった。
なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が30億04百万円で営業利益が2億86百万円、第2四半期は売上高が30億99百万円で営業利益が2億68百万円、第3四半期は売上高が37億71百万円で営業利益が4億68百万円、第4四半期は売上高が16億55百万円で営業利益が3億03百万円だった。
24年3月期連結業績予想は売上高が23年3月期比13.6%増の148億44百万円、営業利益が5.3%増の12億76百万円、経常利益が3.2%増の13億06百万円、親会社株主帰属当期純利益が0.7%増の8億91百万円としている。配当予想は23年3月期比4円増配の20円(期末一括)としている。連続増配で予想配当性向は38.2%となる。中期経営計画を策定するとともに、配当方針も変更して配当性向を引き上げる方針とした。
24年3月期も転貸借物件数および契約件数が順調に増加して増収増益予想としている。成約数は88件増加の570件、期末転貸借物件数は311件増加の2527件の計画としている。
重点施策として、営業活動面では継続的に物件仕入を強化し、出店ニーズに合致した物件の確保を推進する。教育面では業界経験の浅い担当者でも早期に戦力化できる教育の仕組みづくりを推進する。採用面では営業活動での経験やノウハウを採用活動にも活かし、精度の高い採用活動を実現する方針だ。集客面では、出店希望者の募集を行う自社サイト「居抜き店舗.com」を強化する。業務効率化面では物件増や社員増に向けて、DXの推進により事務効率化を図り、質が必要な仕事に打ち込める体制を強化する。不動産売買では、安定的に仕入や売却ができる取引先を増やしつつ、組織強化にも着手する方針としている。
24年3月期は不透明感や人材投資などを考慮して各利益は小幅増益にとどまる見込みとしているが、保守的な印象が強く会社予想に上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株主優待制度は毎年3月末、23年3月末から優待内容拡充
株主優待制度については毎年3月31日時点の株主を対象として実施している。そして23年3月末対象から保有株式数に応じた株主優待内容拡充(詳細は会社HP参照)を実施した。
変更後は、毎年3月31日時点で300株以上500株未満を保有し、且つ100株以上保有を1年以上継続している株主に対してジェフグルメカード5000円分、毎年3月31日時点で500株以上を保有し、且つ100株以上保有を1年以上継続している株主に対してジェフグルメカード7000円分を贈呈する。
■株価は売られ過ぎ感
株価は3月の上場来高値圏から反落し、24年3月期予想に対してもネガティブ反応となって水準を切り下げたが、やや売られ過ぎ感を強めている。好業績や中期成長力を評価して出直りを期待したい。5月29日の終値は1061円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS52円37銭で算出)は約20倍、今期予想配当利回り(会社予想の20円で算出)は約1.9%、前期実績PBR(前期実績の連結BPS187円69銭で算出)は約5.7倍、そして時価総額は約188億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)