【アナリスト水田雅展の銘柄分析】サンバイオは日本発・世界初の再生細胞薬の開発目指す創薬ベンチャー

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 サンバイオ<4592>(東マ)は日本発・世界初の再生細胞薬の開発を目指す創薬ベンチャーである。株価は地合い悪化も影響して上場来安値圏で調整局面だが売られ過ぎ感を強めている。そして25日は取引時間中に前日比41円高の999円まで戻す場面があった。調整の最終局面のようだ。再生細胞薬「SB623」の超大型新薬としての期待感は強く反発のタイミングだろう。

■脳神経分野で日本発・世界初の再生細胞薬の開発を目指す

 01年2月米国サンバイオ設立、13年2月日本法人サンバイオ設立、14年1月日米親子逆転の企業再編を実施、15年4月東証マザーズに新規上場した。

 脳神経に係る疾患(眼科含む)分野で、慢性期脳梗塞(発症後6ヶ月経過した脳梗塞)、外傷性脳損傷、加齢黄斑変性、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病など、アンメットメディカルニーズ(未だ有効な治療法がない治療ニーズ)を充たす再生細胞薬の開発・販売を目指している。

 再生医療とは損傷を受けた生体の機能を、幹細胞などを用いて復元または活性化させる医療である。そして再生細胞薬は、病気・事故等で失われた身体機能の自然な再生プロセスを誘引ないし促進させ、運動機能・感覚機能・認知機能を再生させる効能が期待される医薬品である。従来なし得なかった根治治療を可能にする。

 日本発・世界初の再生細胞薬という全く新しい分野の創出と、同分野でのグローバルリーダーを目指して、01年2月に米国カリフォルニア州のシリコンバレーで米国サンバイオを創業した。創業科学者は脳神経領域の再生医療・iPS研究で世界第一人者の慶応義塾大学の岡野栄之教授で、主な提携研究機関は米スタンフォード大学、米ピッツバーグ大学、米ノースウェスタン大学である。

 その後、日本で13年5月公布「再生医療推進法」の理念のもとで、14年11月に「医薬品医療機器等法(旧薬事法の改正)」および「再生医療等安全性確保法」の再生医療関連2法が施行された。これによって日本が再生医療において、世界で最も早く製品認可を取得できる事業環境となった。

 このため日本市場での展開も視野に入れて、14年1月に日本法人サンバイオを親会社、米国サンバイオを子会社とする日米親子逆転の企業再編を実施して日本を中心とした経営体制に移行した。

■神経再生作用を持つ再生細胞薬「SB623」

 そして14年、米国において慢性期脳梗塞を適用疾患とする当社の再生細胞薬「SB623」のフェーズⅠ・Ⅱa臨床試験が終了した。再生細胞薬「SB623」は神経再生作用を持つ細胞からなる医薬品である。これまで全く治療薬の無かった慢性期脳梗塞という疾患で、再生細胞薬「SB623」のヒトでの安全性・有効性が確認され、14年6月に米国FDA(食品医薬品局)からフェーズⅡb臨床試験開始の承認を取得した。

 一般的に再生医療は、自家移植(患者の細胞を採取・調整して再度患者本人に戻す形態の治療法)と、他家移植に分けられる。自家移植の場合は細胞の均質性が低い、量産化を目的としていない、費用が高額化するなど、実用化に当たっての課題が指摘されている。

 これに対して当社の再生細胞薬「SB623」は、他家移植による均質の細胞を量産化した医薬品で、量産化して同一の製品で多くの患者を治療できるメリットがある。健康なドナー(細胞提供者)から骨髄液を採取し、大量に培養して均質な製品を製造する。これを凍結保存して輸送し、融解して患者に投与(定位脳手術により細胞を脳内に直接移植)する。投与は局所麻酔で翌日退院も可能である。量産技術が確立されているため、従来の製薬企業モデルを適用でき収益性も高い。

 また当社の再生細胞薬「SB623」は、グループにおいて基礎段階から研究開発を行ってきた独自製品のため、上市後の製品供給権を保有している。当社グループが非臨床試験・臨床試験などを実施し、安全性と有効性を確認する段階まで開発を進めたうえで、医薬品の販売網を有するパートナー製薬会社に開発権および販売権をライセンス許諾する。

 開発段階では契約一時金収入、開発マイルストン収入、開発協力金収入、上市後は製品売上高に比例したロイヤルティ収入、製品供給収入、販売マイルストン収入を得るビジネスモデルだ。

 そして再生細胞薬「SB623」の慢性期脳梗塞を適用疾患として、09年10月帝人<3401>に日本における開発・販売権のライセンス許諾、14年9月大日本住友製薬<4506>に米国およびカナダにおける開発・販売権のライセンス許諾契約を締結した。

 大日本住友製薬との契約に基づくシミュレーションでは、フェーズⅠ~Ⅲの研究開発段階で合計40百万ドルの収入(契約一時金および開発段階ごとのマイルストン収入)を得る。そして上市後は販売マイルストン収入、ロイヤルティ収入、および製品供給収入(定額単価×供給量)を得る。

■16年1月期はフェーズⅡb臨床試験開始で費用増加

 今期(16年1月期)の連結業績見通し(4月8日公表)は、事業収益(売上高)が前期比35.7%減の20億74百万円、営業利益が10億91百万円の赤字(前期は22億48百万円の利益)、経常利益が11億09百万円の赤字(同22億28百万円の利益)、純利益が9億20百万円の赤字(同17億36百万円の利益)としている。

 米国において再生細胞薬「SB623」慢性期脳梗塞用途フェーズⅡb臨床試験を開始するため、大日本住友製薬との契約に基づく開発協力金収入(当社グループが負担する開発費総額の50%相当額)および開発マイルストン収入(フェーズⅡ開始時10百万ドル)が見込まれる。想定為替レートは1米ドル=120円で、開発協力金収入は上期に3億77百万円、下期に4億97百万円、開発マイルストン収入は下期に12億円を売上計上する予定だ。

 費用面では、再生細胞薬「SB623」慢性期脳梗塞用途の臨床試験で、フェーズⅠ・Ⅱa(被験者18人)に比べて規模の大きいフェーズⅡb(被験者150人規模)を15年半ばに開始するため、17億33百万円の臨床開発費を計上する。脳梗塞用途以外への適用拡大についても8億66百万円の臨床開発費等を計上する。なお米国子会社を主たる研究開発拠点としているため、事業収益および費用の多くは米ドル建てとなる。

■「SB623」適用拡大も推進して超大型新薬への期待高まる

 当社グループが手掛ける再生細胞薬は、世界的に旧来の治療では対応できなかった中枢神経系領域の疾患を対象としているため対象患者数が極めて多く、たとえば脳卒中(脳梗塞を含む)の患者数は日本では約123万人、米国では約680万人と推計され、このうち一定割合が慢性期脳梗塞の患者と見込まれている。

 今後は「SB623」の適用疾患を慢性期脳梗塞から、外傷性脳損傷、加齢黄斑変性(ドライ型)、網膜色素変性、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病に広げる。慢性期脳梗塞用途の臨床試験において安全性が確認されたため、外傷性脳損傷用途についてはフェーズⅡから臨床試験を開始する。そして「SB623」の慢性期脳梗塞用途の他地域(欧州など)での開発・販売権、外傷性脳損傷・その他用途の開発・販売権について、パートナー製薬会社との提携を検討していく方針だ。

 さらに新薬候補として、末梢神経障害を適用疾患とする「SB618」や筋ジストロフィーを適用疾患とする「SB308」の研究開発も推進する。なお再生細胞薬「SB623」「SB618」「SB308」については、米国、日本、欧州、中国、カナダ、オーストラリアなど世界の主要国で基本特許を自社保有しているため、他社へのロイヤルティ支払は不要である。

 大日本住友製薬は20年に「SB623」の上市を目指している。米国での脳卒中(脳梗塞を含む)患者数約680万人のうち5%を取り込み、販売額を保守的に想定しても1兆円規模の売上が試算されている。当面の収益は費用が先行するが、超大型新薬に育つことが期待される。

■株価は地合い悪化も影響して売られ過ぎ感

 株価の動きを見ると水準を切り下げて調整局面が続いている。地合い悪化も影響して8月25日には上場来安値となる855円まで調整した。ただし取引時間中には前日比41円高の999円まで戻す場面があった。調整の最終局面だろう。

 25日の終値は886円だった。日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が25%程度まで拡大して売られ過ぎ感を強めている。再生細胞薬「SB623」の超大型新薬としての期待感は強く、調整が一巡して反発のタイミングだろう。

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