朝日ラバーは下値切り上げ、24年3月期減益予想だが保守的

 朝日ラバー<5162>(東証スタンダード)は自動車内装LED照明光源カラーキャップを主力として、医療・ライフサイエンスや通信分野の事業拡大も推進している。2030年を見据えた長期ビジョンではSDGs・ESG経営を意識して経営基盤強化を目指している。6月16日には、人に寄り添ったインテリジェントHCL照明システムに関する共同研究成果が、日本設計工学会2022年度武藤栄次賞優秀設計賞を、埼玉大学大学院理工学研究科の綿貫啓一教授と同社が受賞(5月27日に表彰会開催)したと発表している。24年3月期は減益予想としている。上期は半導体不足による自動車関連の受注調整の影響継続を見込み、下期は回復基調として下期偏重の計画としている。通期ベースで減益予想だが保守的な印象が強い。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は急騰・急落と乱高下する場面があったが、5月の直近安値圏から反発して下値を切り上げている。高配当利回りや1倍割れのPBRなど指標面の割安感も評価して戻りを試す展開を期待したい。

■自動車内装LED照明の光源カラーキャップが主力

 シリコーンゴムや分子接着技術をコア技術として、自動車内装照明関連、卓球ラケット用ラバー、RFIDタグ用ゴム製品などの工業用ゴム事業、およびディスポーザブル用ゴム製品などの医療・衛生用ゴム事業を展開している。車載用LED照明の光源カラーキャップASA COLOR LEDなどを主力としている。

 23年3月期は工業用ゴム事業の売上高が22年3月期比1.1%減の57億65百万円で全社費用等調整前営業利益が24.4%減の4億円、医療・衛生用ゴム事業の売上高が20.6%増の14億39百万円で営業利益が26.4%増の1億24百万円だった。地域別売上高は国内が1.7%増の54億02百万円、海外が5.4%増の18億02百万円(アジアが6.0%増の16億75百万円、北米が1.5%減の1億16百万円、欧州が2.0%増の10百万円)だった。

 なお20年11月には、白河工場が自動車産業の国際的な品質マネジメントシステム規格であるIATF16949の認証を取得した。さらに22年7月には、白河第2工場で医療機器に関する国際的な品質マネジメントシステム規格であるISO13485の認証を取得した。品質を高めて事業拡大を加速させる方針だ。

■重点分野は光学、医療・ライフサイエンス、機能、通信

 2030年を見据えた長期ビジョンを「AR-2030VISION」として、SDGs・ESG経営を意識して経営基盤強化を目指している。

 中期事業分野を、光学事業(ASA COLOR LED、ASA COLOR LRNS、白色シリコーンインキなど)、医療・ライフサイエンス事業(薬液混注用ゴム栓、プレフィルドシリンジ用ガスケット、ARチェックバルブ、マイクロ流体デバイスなど)、機能事業(車載スイッチ用ラバー、同社独自のペルチェデバイス「F-TEM」、卓球ラケット用ラバー、風力発電関連など)、通信事業(RFIDタグ用ゴム製品、やわらか保護カバー、伸縮配線など)として、それぞれの製品群を成長させるコア技術や工場の役割を整理し、これまで整えてきた生産環境を最大限に生かす取り組みを推進する。

 23年3月期の中期事業分野別の売上高は光学事業が22年3月期比16.0%減の26億07百万円、医療・ライフサイエンス事業が20.4%増の14億83百万円、機能事業が14.8%増の24億74百万円、通信事業が20.2%増の6億39百万円、主要製品の売上高はASA COLOR LEDが16.6%減の23億88百万円、医療用用ゴム製品が20.6%増の14億23百万円、卓球ラケット用ラバーが48.1%増の6億25百万円、RFIDタグ用ゴム製品が23.9%増の3億86百万円だった。

 前中期経営計画の最終年度23年3月期の目標数値は、コロナ禍の影響による市場環境の急激な変化などで未達成となったが、第2ステージとなる第14次三カ年中期経営計画(23年5月公表)では数値目標に26年3月期売上高85億円以上、営業利益率5%以上を掲げている。基本戦略として、売上構成の転換(ゴム単品からモジュール・完成品へ、OEMからODMへ)によって収益力の向上を図る方針だ。

 光学事業(売上高23年3月期実績26億円、26年3月期計画30億円)では、テーマに「再構築と挑戦」を掲げた。標準製品の付加価値向上と複合モジュールの開発・展開などにより、光の可能性を追求した高付加価値製品による市場への貢献を目指す。

 医療・ライフサイエンス事業(売上高23年3月期実績15億円、26年3月期計画20億円)では、テーマに「第2の柱へ成長させる」を掲げた。ODM設計・複合デバイスやシステム機器への挑戦により、診断・治療機器の製造販売を目指す。

 機能事業(売上高23年3月期実績25億円、26年3月期計画29億円)では、テーマに「新たな柱を創る」を掲げた。サーモモジュール応用製品の開発・ものづくり体制の確立(23年2月に相互製品販売特約店契約を締結したフェローテックマテリアルテクノロジーズとの販売連携活動強化)や、子会社で研究開発・実証実験を行ってきた風力発電のO&M(Operation and Maintennance)事業化に向けた製品開発を推進する。

 通信事業(売上高23年3月期実績6億円、26年3月期計画6億円)では、テーマに「基礎基盤を固める」を掲げた。モノ・センサ・通信規格・情報処理アプリケーションを駆使して、新たな社会価値への取組に参画するなど、スマート社会の発展に貢献することを目指す。

 成長基盤整備とWell-beingへの取組では、人材育成や社内環境整備など無形資産価値の向上、ものづくり自動化・合理化・省人化などスマートファクトリーの実践、従業員の声を聞き反映させていく環境・体制整備などWell-beingの向上、さらに地域社会貢献を推進する。

■新技術・新製品

 20年1月には、切り紙構造とゴムの複合により低応力で伸長し、耐久性に優れた新しい伸縮配線の開発を発表した。ゴムの復元力と立体的な構造によって生体センシング分野での活用が見込まれ、早稲田大学と北里大学の共同研究で発表されたウェアラブル筋電計測デバイスの一部に採用された。20年10月にはレンズの光学設計受託ビジネス開始を発表した。

 20年11月には独自の配合技術と表面改質およびマイクロ加工技術を活かして、シリコーンゴムに親水性に優れた処理を施す技術の開発を発表した。またウイルス不活性化のための深紫外線LEDシステムの研究開発および実証実験が、さいたま市令和2年度イノベーション技術創出支援補助金に採択された。

 23年3月にはフェローテックマテリアルテクノロジーズとの相互製品販売特約店契約締結(23年2月)を発表した。やわらかいサーモモジュール「F-TEM」を共同開発した両社の協業により、多様な分野の製品開発において新たな可能性を提案する方針としている。

 6月16日には、人に寄り添ったインテリジェントHCL照明システムに関する共同研究成果が、日本設計工学会2022年度武藤栄次賞優秀設計賞を、埼玉大学大学院理工学研究科の綿貫啓一教授と同社が受賞(5月27日に表彰会開催)したと発表している。

■SDGsへの取り組みを強化

 21年8月には「サステナビリティビジョン2030」を策定した。SDGsへの取り組みを強化し、持続可能な社会の実現に貢献する。

 21年12月には、福島県にある生産4拠点の購入電力をCO2フリー電力に転換した。年間約3000tの温室効果ガス排出削減を見込んでいる。また、みずほ銀行のホームページに、SDGs推進サポートローン実行事例として、同社の取り組みが紹介された。

 23年3月には未来を拓くパートナーシップ構築推進会議の趣旨に賛同して「パートナーシップ構築宣言」を宣言した。

■24年3月期減益予想だが保守的

 24年3月期の連結業績予想は、売上高が23年3月期比0.1%減の71億95百万円、営業利益が15.2%減の1億57百万円、経常利益が23.0%減の1億50百万円、そして親会社株主帰属当期純利益が47.8%減の1億06百万円としている。配当予想は23年3月期と同額の20円(期末一括)としている。予想配当性向は85.6%となる。

 セグメント別売上高の計画は、工業用ゴム事業が1.5%減の56億79百万円、医療・衛生用ゴム事業が5.4%増の15億百万円としている。中期事業分野別売上高の計画は、光学事業が1.2%減の25億77百万円、医療・ライフサイエンス事業が3.1%増の15億30百万円、機能事業が0.9%増の24億96百万円、通信事業が7.5%減の5億92百万円、主要製品の売上高はASA COLOR LEDが2.7%減の23億23百万円、医療用ゴム製品が5.1%増の14億95百万円、卓球ラケット用ラバーが6.7%増の6億67百万円、RFIDタグ用ゴム製品が3.9%減の3億71百万円としている。

 上期と下期に分解すると、上期は売上高が前年同期比4.1%減の34億31百万円、売上総利益が9.5%減の8億02百万円、営業利益が79.3%減の28百万円、経常利益が81.2%減の27百万円、純利益が84.9%減の17百万円、下期は売上高が3.8%増の37億64百万円、売上総利益が7.3%増の9億37百万円、営業利益が158.1%増の1億29百万円、経常利益が141.5%増の1億23百万円、純利益が1.3%減の89百万円の見込みとしている。

 上期は半導体不足による自動車関連の受注調整の影響が継続することを見込み、下期は回復基調として下期偏重の計画としている。通期ベースでは減益予想だが保守的な印象が強い。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。

■株価は下値切り上げ

 株価は急騰・急落と乱高下する場面があったが、5月の直近安値圏から反発して下値を切り上げている。高配当利回りや1倍割れのPBRなど指標面の割安感も評価して戻りを試す展開を期待したい。6月28日の終値は553円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS23円37銭で算出)は約24倍、今期予想配当利回り(会社予想の20円で算出)は約3.6%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1077円92銭で算出)は約0.5倍、そして時価総額は約26億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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