【アナリスト水田雅展の銘柄分析】きちりは地合い悪化の売り一巡、16年6月期増収増益予想で自己株式取得も評価

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

きちり<3082>(東1)は自社ブランド飲食店チェーン事業、および飲食店運営プラットフォーム提供・他社ブランド活用事業を展開している。15年6月期は減益だったが16年6月期は積極的な事業戦略で増収増益予想だ。株価は700円台でモミ合う展開だったが、地合い悪化の影響で8月25日の年初来安値589円まで急落した。ただし28日は698円まで戻して売り一巡感を強めている。自己株式取得も評価してモミ合い上放れの展開が期待される。

■飲食店直営と飲食店プラットフォーム提供・他社ブランド活用(PFS)事業

カジュアルダイニング「KICHIRI」、ハンバーグ業態「いしがまや」、オムライス業態「3Little Eggs」を主力業態とする直営店の自社ブランド展開事業、および飲食店運営のプラットフォーム提供や他業種企業のブランド・コンテンツ活用のプラットフォームシェアリング(PFS)事業を展開している。

15年6月期末時点の店舗数は77店舗(関西エリア41店舗、関東エリア36店舗)だった。新業態開発にも取り組みながら出店余地の大きい首都圏への新規出店戦略を強化している。

15年4月には米国子会社KICHIRI USAを設立した。日本から発信する「和食」および当社独自の「おもてなし」を強みとした日本食業態を米国で展開する。

PFS事業は、ITやクラウドを駆使して構築した外食特化型インフラ(購買・物流などのバックヤード機能、会計・労務管理・教育・デザインなどのバックオフィス機能、取引先紹介などのバックアップ機能といった本部機能)を活用する事業だ。

PFS事業を大別すると、ブランド・コンテンツ活用型(優れたブランド・コンテンツを持つ企業と業務提携し、当社のプラットフォームを活用して新しいレストランビジネスを創造する)、およびクラウドサービス展開型(当社が構築した外食特化型インフラを他の飲食店チェーンなどに提供してアウトソーシング受託する)を展開している。

ブランド・コンテンツ活用型では独自性ある新業態が開発できる、クラウドサービス展開型では参画企業・店舗数の増加に伴ってスケールメリットが得られるという強みがある。そしてクラウドサービス展開型では約400店舗の外食店舗と契約している。

■PFS事業展開を加速

ブランド・コンテンツ活用型では13年2月精米機トップメーカーで「ギャバライス」ブランドのサタケ、13年4月イタリアのバッグブランド「オロビアンコ」、13年5月福岡県「はかた地どり」生産者の農業組合法人福栄組合と業務提携した。

15年1月にはPFS事業の一環として、健康長寿県として注目されている長野県との間で、食を通じた健康長寿発信の推進に関して戦略的連携協定を締結した。長野県の食材の魅力と健康長寿のライフスタイルと食文化を広く発信することを目的に、協業の第一弾としてJR長野駅に直結した駅ビル「MIDORI長野」内で「長野県長寿食堂」を3月にオープンした。

15年6月には当社、三井物産<8031>、イタリアの小売・外食事業大手EATALY(イータリー)社の3社で設立したイータリー・アジア・パシフィック(15年3月、出資比率は三井物産63.5%、きちり34.0%、イータリー社2.5%)において、日本・アジア太平洋地域でイタリア食材の小売・外食・輸入卸売事業(EATALY事業)をスタートすると発表した。

イータリー・アジア・パシフィックをフランチャイジーとするフランチャイズ契約を締結し、日本における「EATALY」商標の独占的使用権を保有する。そしてイータリー社の日本法人が運営していた日本国内の直営店のうち2店舗を譲り受け、さらに20年東京夏季五輪に向けて330平方メートル程度の中規模店と、1000平方メートル程度の旗艦店を東京都心に順次出店する計画だ。

■15年6月期減益だったが、16年6月期は増収増益基調

前期(15年6月期)の非連結業績(7月31日に減額修正)は、売上高が前々期比6.6%増の73億71百万円、営業利益が同7.3%減の4億45百万円、経常利益が同14.8%減の4億39百万円、純利益が同60.7%減の1億16百万円だった。

配当予想については前々期から記念配当2円50銭を落として年間7円50銭(期末一括)とした。配当性向は65.3%となる。またROEは14年6月期比12.7ポイント低下して7.3%、自己資本比率は同4.6ポイント低下して47.6%となった。

売上高、利益とも計画を下回り、営業減益、経常減益となった。純利益は減損損失2億23百万円の計上も影響した。なお自社ブランド展開事業の既存店売上高は99.0%、新規出店は8店舗、退店は1店舗だった。

新規出店計画10店舗のうち2店舗が今期(16年6月期)にズレ込んだこと、全体的に新規出店が期後半に偏ったため出店経費を期中に回収できなかったこと、14年11月オープンの新宿エリア3店舗目の「KICHIRI MOLLIS 新宿通り」の収益化に時間を擁していること、さらに米国子会社設立や「EATALY」事業への参画で新規事業経費が嵩んだ。

15年6月期の四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(7月~9月)17億03百万円、第2四半期(10月~12月)18億85百万円、第3四半期(1月~3月)18億13百万円、第4四半期(4月~6月)19億70百万円、営業利益は第1四半期1億04百万円、第2四半期1億87百万円、第3四半期75百万円、第4四半期79百万円だった。

今期(16年6月期)の非連結業績予想(8月7日公表)は、売上高が前期比15.3%増の85億円、営業利益が同68.5%増の7億50百万円、経常利益が同70.8%増の7億50百万円、純利益が同3.9倍の4億50百万円としている。配当予想は前期と同額の年間7円50銭(期末一括)で予想配当性向は16.9%となる。

前提として、自社ブランド展開事業の既存店売上高は98.0%、新規出店は12店舗、PFS事業の新規ブランド・コンテンツ活用3案件、クラウドサービス提供累計500店舗の計画としている。

月次レポート(前年同月比、速報値)を見ると、15年7月の売上高は既存店(対象69店舗)が98.2%、全店(対象77店舗)が115.6%だった。概ね計画水準のようだ。

15年6月期は新規出店遅れなどで減益だったが、自社ブランド展開事業の新規出店、PFS事業でのブランド・コンテンツ活用型の新規案件などで16年6月期は増収増益基調だろう。

■中長期ビジョンで配当性向30%目標

中長期ビジョンでは、自社ブランド展開事業およびPFS事業を2本柱として展開し、目標値として18年6月期売上高100億円、営業利益15億円、経常利益16億円、純利益10億円、配当性向30%(当面は20%)を掲げている。事業別には自社ブランド展開事業が100店舗で売上高94億円、PFS事業が契約店舗数500店舗(契約売上規模300億円)で営業利益6億円を目標としている。

自社ブランド展開事業の新規出店加速に加えて、PFS事業でのブランド・コンテンツ活用型の新規案件の展開が加速し、クラウドサービス展開型の提供店舗数も拡大する。米国での本格事業展開も寄与して中期的に収益拡大基調が期待される。

■株価は地合い悪化の売り一巡、自己株式取得も評価

株主優待制度については毎年12月31日現在で1単元(100株)以上保有株主を対象として実施している。優待内容は14年12月31日現在の対象株主から「当社運営店舗で利用できる優待券3000円分、または近隣に店舗がない等の理由で優待券を利用しない方は当社事業における関連商品を選択できる」とした。

なお7月31日に自己株式取得を発表した。取得株式総数の上限12.5万株(自己株式除く発行済株式総数に対する割合1.24%)、取得価額総額の上限1億円で、取得期間は15年8月10日~15年12月30日としている。

株価の動きを見ると、700円台の小幅レンジでモミ合う展開だったが、地合い悪化の影響を受けて8月25日の年初来安値589円まで急落した。ただし28日は698円まで戻して売り一巡感を強めている。

8月28日の終値695円を指標面で見ると、今期予想PER(会社予想のEPS44円50銭で算出)は15~16倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間7円50銭で算出)は1.1%近辺、前期実績PBR(前期実績のBPS155円05銭で算出)は4.5倍近辺である。

週足チャートで見ると長い下ヒゲをつけてモミ合いレンジに回帰した。そして52週移動平均線が接近してモミ合い煮詰まり感も強めている。自己株式取得も評価してモミ合い上放れの展開が期待される。

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