星光PMCは調整一巡、23年12月期2Q累計減益だが通期は営業増益予想

 星光PMC<4963>(東証プライム)は製紙用薬品事業、印刷インキ用・記録材料用樹脂事業、化成品事業を展開している。成長戦略として、製品/事業地域/事業領域の全てにおけるポートフォリオ変革推進による稼ぐ力の強化を掲げ、次世代素材セルロースナノファイバー(CNF)などの拡販も推進している。なお9月20日~22日に東京ビックサイトで開催される「INCHEM TOKYO 2023」にバイオフィルムコントロール剤を出展する。23年12月期第2四半期累計は原料価格上昇に対応して製品価格への転嫁を進めたが、国内外の軟調な需要環境に伴う販売数量の減少などで減収減益だった。ただし通期の営業増益予想を据え置いた。第2四半期累計の売上高と営業利益の進捗率は低水準の形だが、積極的な事業展開で下期の挽回を期待したい。株価は地合い悪化も影響して年初来安値圏だが、1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■製紙用薬品、印刷インキ用・記録材料用樹脂、化成品を展開

 DIC<4631>の連結子会社で、製紙用薬品事業、樹脂事業(印刷インキ用樹脂、記録材料用樹脂、次世代素材CNF、および台湾・新綜工業の粘着剤)、化成品事業(子会社KJケミカルズの機能性モノマー)を展開している。

 22年1月には新綜工業(台湾)の株式を追加取得して出資比率を92.80%に引き上げた。先進精密産業において需要が拡大基調の粘着剤事業の海外展開を強化する。22年11月には製紙用薬品事業においてベトナム新工場が稼働した。

 23年1月には、キチンナノファイバーの研究開発・製造販売を展開する鳥取大学発ベンチャーであるマリンナノファイバー(鳥取県鳥取市)の株式85.4%取得が完了して子会社化した。ナノファイバー技術をコアとしたさらなる事業ポートフォリオ拡大を推進する。

 22年12月期セグメント別業績は、製紙用薬品事業の売上高が21年12月期比14.1%増の200億33百万円でセグメント利益(全社費用等調整前営業利益)が30.6%減の8億28百万円、樹脂事業の売上高が14.8%減の68億88百万円でセグメント利益が56.0%減の3億53百万円、そして化成品事業の売上高が1.9%増の54億97百万円でセグメント利益が20.5%減の10億43百万円だった。

■中期経営計画「OPEN 2024」

 長期ビジョン「VISION 2030」を達成するためのアクションプラン新中期経営計画「OPEN 2024」(22年2月策定)では、目標数値として最終年度24年12月期売上高390億円、営業利益37.5億円、営業利益率9.6%、EBITDA(営業利益+減価償却費)57.5億円、ROE8.4%、海外売上高比率40%以上、New Green Index(同社の環境戦略製品の売上指標、21年の当該製品売上高を100として指数化)130以上を掲げている。

 セグメント別は、製紙用薬品事業の売上高が210億円でセグメント利益(全社費用等調整前営業利益)が15億円、樹脂事業の売上高が110億円で利益が17.5億円、化成品事業の売上高が70億円で利益が9億円としている。

 基本方針として、製品/事業地域/事業領域の全てにおけるポートフォリオ変革推進による稼ぐ力の強化、ESG経営(GHG排出量削減、環境戦略製品の拡販)、人財育成・組織づくり、DXを推進する。

 製紙用薬品事業では国内シェア拡大、アジア地域での製造・販売拡大、バイオフィルムコントロール剤等の新事業、樹脂事業では製品ポートフォリオ変革、UV硬化型粘着剤拡販、アジア地域での市場拡大、CNFの用途拡大・採用拡大、AgNW(銀ナノワイヤインク)の新規採用、化成品事業では生産キャパ拡充、海外販路・市場開拓パートナーの拡充、機能性溶剤の拡販を推進する。

 サステナビリティに関する取り組みでは、22年2月にサステナビリティ委員会を設置するとともに、サステナビリティ基本方針を策定した。22年5月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明するとともに、同提言に賛同する企業・金融機関等で構成されるTCFDコンソーシアムに加入した。23年3月には、TCFD提言に基づく情報開示について「SEIKO PMC REPORT 2022」に追記する形で公開した。23年8月には子会社KJケミカルズがEcoVadis社のサステナビリティ格付において上位5%以内の企業が認定されるゴールドメダルを2年連続で獲得したとリリースしている。

 長期ビジョン「VISION 2030」における戦略投資枠としては、22年~30年の9年間合計300億円を設定している。内訳は成長投資枠150億円、協業やM&A等による事業規模拡大を図るための投資枠150億円としている。

■CNF配合樹脂や脱プラ製品の拡販を推進

 次世代素材CNFは、すべての植物の植物細胞壁の骨格成分であるセルロースをナノサイズまで細かくほぐすことによって得られる繊維である。鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上強く、熱による変形が少ないなどの特徴がある。樹脂の補強材として機能させることで、自動車用樹脂の強度向上や金属部材からの置き換え、家電・モバイル機器の軽量化などでの需要が期待されている。

 18年1月CNF配合樹脂「STARCEL」ブランドでの商業生産・製品出荷を開始した。18年6月には世界初のCNF強化樹脂応用製品の商品化として、アシックス<7936>の高機能ランニングシューズ製品のミッドソール部材の原材料に「STARCEL」が採用され、全世界で累計500万足以上販売されている。19年10月には環境省NCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクト製作のコンセプトカーに採用された。

 20年8月にはNEDO助成事業の「革新的CNF製造プロセス技術の開発」の助成先に採択された。事業期間は20年度~24年度である。さらに自動車用部材への採用を目指して検討を継続している。

 この他の新製品・注目製品として、脱プラスチック・包装材料の紙化を推進する紙塗工用耐水・耐油オールアクリルエマルションなどの拡販も推進している。

 紙の包装に耐水性、耐油性、バリア性、シール性を持たせる機能性コート剤の「SEIKOATシリーズ」については、食品包装材用として生産ライン試験が進んでおり、食品包装材用途やカップ用途などで23年3月期中の実績化を目指している。造水膜などに発生するバイオフィルムの形成を抑えるバイオフィルムコントロール剤「BRシリーズ」については、実証試験で有効性が確認され、実用化に向けて製造設備のスケールアップを進めている。化成品事業の低毒性アミド溶剤「Kohshylvent」についてはEV材料、半導体用コート剤、農薬原体合成など幅広い分野での利用を検討中である。

 22年12月には、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/カーボンリサイクル・次世代火力推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発」の委託先として採択され、九州大学・東北大学との共同研究を実施すると発表している。九州大学と東北大学が木材や二酸化炭素を原料とした新たなバイオリファイナリーの確立、東北大学と同社がバイオリファイナリーで得られた原料からのバイオポリマー合成と新たな用途開拓に取り組む。事業期間は22年度~24年度としている。

 23年2月には、医療機器開発ベンチャーであるニューロシューティカルズと共同開発したバイオフィルム除去剤「BAKU」について、ニューロシューティカルズのジョイント・ベンチャーであるSCOPIONから発売した。バイオフィルムとは、微生物が産出する粘性の膜、いわゆる「ぬめり」である。この「ぬめり」は水回りの様々な基材表面に発生し、生理的な不快感のみならず、金属部材の腐食や悪臭、感染症の原因など、経済や衛生面において実害を引き起こしている。医療器具や内視鏡は使用後に院内洗浄して繰り返し使用するが、洗浄で除去できなかったバイオフィルムについて、バイオフィルム除去剤「BAKU」は細胞外マトリクスの形成(凝集)を阻止して、バイオフィルムを脱離(コントロール)する機能がある。

 23年6月には食品添加物(アメリカ食品医薬品局FDAの食品添加物ポジティブリストに収載の物質)で構成されるバイオフィルムコントロール剤「BR-201」および「BR-202」の開発を発表した。バイオフィルムコントロール剤は殺菌効果に依存する従来の薬剤とは異なり、細菌の生理機能に作用することでバイオフィルムの形成を抑制する機能を有する製品である。既存のバイオフィルムコントロール剤「BR-109」「BR-110」は非殺菌性・非酸化性・中性液体であり、安全に取り扱えることを特徴としていたが、食品加工工場や飲料設備など、より高い安全性が求められる場面でも使用できる製品として「BR-201」「BR-202」を開発した。なお同社のバイオフィルムコントロール剤は日本テレビ「カズレーザーと学ぶ」の6月13日放送分でも取り上げられた。また9月20日~22日に東京ビックサイトで開催される「INCHEM TOKYO 2023」にバイオフィルムコントロール剤を出展する。

■プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書

 22年4月に実施された東京証券取引所の市場見直しではプライム市場を選択し、移行基準日(21年6月30日)時点で流通株式時価総額が基準を充たしていなかったため、21年11月に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示している。新中期経営計画「OPEN 2024」の着実な遂行による業績の向上、IR・ガバナンス機能の強化、安定的な配当政策などで企業価値の向上(時価総額の増大)に取り組むとともに、取引先等の事業会社との株式保有関係解消などを通じて流通株式比率の向上、流通株式時価総額の増大を図り、24年12月期末までにプライム市場の上場維持基準適合を目指すとしている。

 23年3月には計画の進捗状況をリリースした。22年12月31日時点で流通株式時価総額が基準を充たしていないため、引き続き新中期経営計画の着実な遂行による業績の向上、IR・ガバナンス機能の強化など、企業価値の向上に向けた各種施策に取り組むとしている。

■23年12月期2Q累計減収減益だが通期営業増益予想据え置き

 23年12月期の連結業績予想は、売上高が22年12月期比8.8%増の352億80百万円、営業利益が6.7%増の20億10百万円、経常利益が9.8%減の21億60百万円、親会社株主帰属当期純利益が5.9%減の15億50百万円としている。配当予想は22年12月期と同額の16円(第2四半期末8円、期末8円)としている。

 第2四半期累計連結業績は売上高が前年同期比3.8%減の153億28百万円、営業利益が35.3%減の7億24百万円、経常利益が30.1%減の12億19百万円、親会社株主帰属四半期純利益が27.9%減の9億41百万円だった。

 原料価格上昇に対応して製品価格への転嫁を進めたが、国内外の軟調な需要環境に伴う販売数量の減少、ベトナム工場の減価償却費増加などで減収減益だった。営業利益▲3億96百万円の要因分析は販売要因▲3億46百万円(うち販売数量減▲4億11百万円、構成改善・他+65百万円)、製品価格変動+5億97百万円、原料価格変動▲3億66百万円、製造経費▲2億05百万円(うちベトナム償却費▲1億75百万円)、販管費▲77百万円だった。営業外収益では、海外子会社へのグループ内貸付金に対する評価替えによって為替差益が減少(前年同期は4億90百万円計上、当期は3億59百万円計上)した。

 製紙用薬品事業は売上高が5.8%増の97億67百万円、営業利益(全社費用等調整前)が0.6%減の4億38百万円、EBITDAが12.7%増の8億87百万円だった。売上面は、国内が需要減少の影響を受けたが、中国・東南アジアでの拡販、原料価格上昇に対応した製品価格への転嫁などで増収だったが、利益面はベトナム子会社の償却負担増の影響で減益だった。

 樹脂事業は売上高が15.3%減の29億93百万円、営業利益が92.9%減の12百万円、EBITDAが48.0%減の1億83百万円だった。原料価格上昇に対応した製品価格への転嫁を進めたが、国内の印刷インキ用樹脂の需要減少、中国の景気回復遅れに伴う粘着剤の需要減少などで販売数量が減少した。

 化成品事業は売上高が19.1%減の25億68百万円、営業利益が34.1%減の4億49百万円、EBITDAが25.9%減の5億79百万円だった。欧米の景気減速の影響で主力製品の輸出数量が減少し、原材料価格上昇なども影響した。

 なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が74億57百万円で営業利益が3億11百万円、第2四半期は売上高が78億71百万円で営業利益が4億13百万円だった。第2四半期は回復傾向となった。

 通期の連結業績予想は据え置いている。差別化製品の市場投入を積極推進するとともに、原材料価格高騰に対して遅れていた製品価格への転嫁進展や一層の合理化などにより増収・営業増益予想としている。なおEBITDA(営業利益+減価償却費)は18.4%増の39億30百万円の計画で、過去最高だった21年12月期の41億59百万円に近い水準まで回復する見込みとしている。経常利益と親会社株主帰属当期純利益については為替差益を見込まず減益予想としている。

 営業利益+1億26百万円要因分析(計画)は、販売要因(主にベトナム工場の本格稼働を足掛かりとした製紙用薬品事業の海外での販売数量増)で+5億68百万円、製品価格変動で+9億02百万円(うち価格ギャップで6億47百万円)、原料価格変動で▲2億55百万円、製造経費で▲8億58百万円(うち減価償却費増加で▲4億51百万円)、販管費で▲2億31百万円としている。

 製紙用薬品事業は売上高が9.1%増の218億50百万円、営業利益(全社費用等調整前)が47.3%増の12億20百万円、EBITDAが29.6%増の21億20百万円としている。差別化製品拡販と価格転嫁効果に加えて、前期後半に本格稼働したベトナム子会社が1年を通じて安定稼働することも寄与する見込みだ。

 樹脂事業は売上高が10.5%増の76億10百万円、営業利益が30.1%増の4億60百万円、EBITDAが22.0%増の8億70百万円としている。製品価格への転嫁に加えて、中国を中心とする粘着剤の拡販、水性インキ用樹脂ラインナップ拡充やUV硬化型粘着剤拡販など製品ポートフォリオ転換を推進する。

 化成品事業は売上高が5.9%増の58億20百万円、営業利益が32.0%減の7億10百万円、EBITDAが0.7%増の12億70百万円としている。生産性改善を目的とした大型設備投資に伴う減価償却費の増加が一時的減益要因となるが、機能性モノマーの拡販や製品価格への転嫁を推進する。

 第2四半期累計の進捗率は売上高が43.4%、営業利益が36.0%、経常利益が56.4%、親会社株主帰属当期純利益60.7%である。売上高と営業利益の進捗率は低水準の形だが、積極的な事業展開で下期の挽回を期待したい。

■株価は調整一巡

 株価は地合い悪化も影響して年初来安値圏だが、1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。8月25日の終値は561円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS51円12銭で算出)は約11倍、今期予想配当利回り(会社予想の16円で算出)は約2.9%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1015円10銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約170億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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