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【小倉正男の経済コラム】中国経済のデフレ化 人類史上空前のバブル破裂の予兆
- 2023/8/29 17:08
- 小倉正男の経済コラム
■中国=設備投資が止まっている
射出成形機、プラスチックを金型に流し込んで成型加工する工作機械である。日用品、食品、自動車、スマホなど情報機器用などの製造に使われる。“最も納期が短い工作機械”である。射出成形機への需要は、端的に設備投資動向、もっといえば景気の良し悪しを示すといわれている。
日本の射出成形機は、長らく中国向け需要で潤ってきた。中国の製造業が増産投資、設備増強に明け暮れてきたためである。しかし、いまや中国の射出成形機需要はパッタリと止まっている。
工作機械業界に聞くと、22年後半には「ゼロコロナで低迷しているが、23年には需要が回復する」。現在は「需要回復の兆しがなく、底打ちが遅れている。24年前半には需要が戻ると期待している」と。要するに射出成形機への需要回復は遅れるばかりである。回復のメドがほとんど立っていない。
ちなみに、いま射出成形機需要が旺盛なのがインドである。インドのほうは好景気で設備投資が活発化している。中国からインド、ベトナムなどに工場を移転する動きがあるが、いまでは射出成形機などの工作機械の需要先はインドに移っている。
■デフレが深化、中国は失速状態
中国の生産者物価指数だが、5月マイナス4.6%、6月マイナス5.4%、7月マイナス4.4%と大幅下落が続いている。10カ月連続の下落であり、5~7月は底割れに近い。特に5月のマイナス5%台乗せは凄まじい。製造業などの出荷価格の下落が止まらない。22年にはもっぱら「ゼロコロナ」が原因とされていた。しかし、いまでは原因は明白、内需、輸出とも低迷している。需要が不足している。
消費者物価指数のほうは、5月0.2%アップ、6月0.0%、7月マイナス0.3%という推移である。消費者物価は家計経済を現す指数だが、7月についにマイナスに転落している。いわば経済の最大ファクターである消費も極端な低迷に陥っている。とりわけ7月の消費者物価がマイナスに転じたことは衝撃的だ。民間経済の低迷は雇用不安を生じさせている。
このコラムでは、以前から中国のデフレ化を指摘してきたが、デフレ化はより深化している。世界は米国を筆頭にインフレに苦しんでいるのに、中国はその対極のデフレに喘いでいる。中国は、GDP(国内総生産)で米国に追付き追い抜く勢いをみせたが、現状はそれどころか失速状態である。バイデン大統領には、「(中国経済は)時限爆弾だ」と揶揄される事態となっている。
■人類史上空前のバブルが破裂する
中国経済の失速の根底にあるのが不動産バブル崩壊である。あまりにも巨大すぎるバブルで手が付けられない。バブルをつぶすのは恐怖にほかならない。先送りで手をこまねいて、傍観しているうちにバブルはさらに巨大化、いや極大化――、それが現状である。
そのシンボルが実質的に破産している不動産大手・恒大集団などの処理である。恒大集団の債務超過額は13兆円、負債総額は48兆円といわれる。販売のメドがつかない開発用不動産が13兆円と報道されている。「恒に大きい」とはこのことか。
あまりにも巨大化しており、つぶすにつぶせない。つぶせば不良債権が顕在化し、カネを貸し付けている銀行倒産など金融システムが崩壊しかねない。まさに典型的なバブル、バブル崩壊の構図にほかならない。
中国は、日本の不動産バブル崩壊を徹底的に“学習”してきた面がある。しかし、それはまったく生かされていない。3期目に入った習近平主席だが、最高指導部を側近で固めすぎており、過去の“学習”など完全に忘却している。“バブルとおできは大きくなったらつぶれる”。しかも、このバブルは、人類史上空前のスケールであることは間違いない。「時限爆弾」程度の騒ぎで済むような生やさしいものではない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)