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【アナリスト水田雅展の銘柄分析】イードは売り一巡して底打ちの可能性、16年6月期も増収増益基調
- 2015/9/3 06:48
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
イード<6038>(東マ)は多数の専門Webメディアを運営して広告収入やコンテンツ収入を主力としている。株価は地合い悪化も影響して8月25日に上場来安値1155円まで急落する場面があったが売り一巡感を強めている。急落場面で長い下ヒゲをつけて底打ちした可能性がありそうだ。一旦は戻り売りが優勢になる場面もあるが、16年6月期増収増益基調であり、中期成長力を評価して切り返し展開だろう。
■多数の専門Webメディアを運営するメディアコングロマリット
00年4月設立で、15年3月東証マザーズに新規上場した。M&Aや新規事業開発などで獲得した多数のバーティカルメディア(専門分野に特化した情報を扱うWebメディア)を運営し、顧客にマーケティングサービスやコンテンツを提供するメディアコングロマリットである。
コンテンツマーケティング企業として、Webメディア運営ノウハウの集合体である自社プラットフォーム「iid-CMP(イード・コンテンツ・マーケティング・プラットフォーム)」をビジネス基盤と位置付けている。
事業セグメント区分としては、多数の専門Webメディアを運営するコンテンツ・マーケティング・プラットフォーム(CMP)事業、およびアンケートなどのリサーチ結果を企業に提供するコンテンツ・マーケティング・ソリューション(CMS)事業を展開している。
CMP事業では、M&Aや新規事業開発などで獲得した多数の専門Webメディア(サイト)を運営し、ポータルサイトや各業界専門サイトに対してコンテンツ(ニュース記事)やサイト上で収集したビッグデータを提供している。
また、三越伊勢丹のオウンド・メディア「FASHION HEADLINE」など、オウンド・メディアを運営する企業に対してWebメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」を提供するオウンド・メディア支援も展開している。
オウンド・メディアとは、企業が自社で所有するメディアのことで、自社のプレスリリースだけでなく、対象となる業界の情報を幅広く扱い、その業界全体に興味のあるユーザーを集めることを目的としている。
CMP事業では、15年6月期末時点で合計19ジャンル・40サイト(ニュースサイト21、コンテンツサイト10など)の専門Webメディア、およびオウンド・メディア6サイトを運営し、紙媒体のパズル(クロスワード)雑誌8誌も発行している。
またビッグデータ収集に関しては、クルマ関連の「e燃費」サイトで燃費データ6.4万件/月、IT関連の「RBB TODAY SPEED TEST」サイトで速度計測数115万回/月、家庭関連の「ダイエットクラブ」サイトでダイエット日記投稿7万件/月などがある。
CMS事業では、リサーチソリューション(開発支援調査)や、ECソリューション(ECシステムの開発・運用受託)を提供している。
各専門Webメディアによる取材活動から始まり、顧客企業に対して、CMP事業における広告などのマーケティング支援、ビッグデータなどのコンテンツ提供、CMS事業におけるリサーチソリューション、ECソリューションを提供するビジネスモデルだ。
収益は、CMP事業では各専門Webメディア対象業界関連企業からのインターネット広告掲載料・手数料、データ・コンテンツ料金、各種専門サイトへの記事提供料、紙出版収入、CMS事業ではリサーチソリューション収入、ECソリューション収入などである。
■Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」に強み
Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の特徴としては、SEO対策やSNS対応などで売上増加に繋げる集客機能、システムの共同利用やフォーマットの共有化によって各Webサイトのローコストオペレーションが可能になるコスト最適化機能、ユーザーから取得したデータを蓄積してビッグデータとして活用できるデータ管理機能、ニュース記事の文章校正システムなど編集を効率化するコンテンツマネジメント機能がある。
こうした強みを活かして、WebサイトのPV(ページビュー)数の大幅増加や早期収益化を実現している。Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」への移行に伴い、M&Aによる取得後概ね24ヶ月以内に単月黒字化を達成し、運用期間が長くなるほど利益率が上昇しているようだ。
■専門Webサイトおよびオウンド・メディアの増加戦略を加速
中期成長戦略として、既存事業におけるM&Aや新規事業開発の加速、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」提供によるオウンド・メディア支援の強化などで専門Webサイト数を増加させ、PV数増加によって売上拡大に繋げる方針を掲げている。
15年5月にはインプレスが運営する「東京IT新聞」事業を譲り受けた。新聞の発行を継続するともに、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」上に「東京IT新聞」のコンテンツを搭載する。またパズル雑誌8誌の発売および広告営業を委託しているマイナビの一部株式を取得(出資比率1%未満)した。
今後はM&Aの対象範囲を出版社が発行している雑誌・書籍にも広げる方針だ。有用だがデータベース化されていない出版コンテンツを当社のWebメディア運営ノウハウを活用してネット上のコンテンツとして再生する。
また15年5月には絵本・児童書のメディアサイト「絵本ナビ」を運営する絵本ナビを子会社化した。当社の保護者・教育関係者向けニュースサイト「リセマム」と「絵本ナビ」を保有することになり、幅広い年齢層に対応した子育てメディアとしてのポジションを確保し、約13兆円の子育て関連市場に事業展開する。
15年6月には、オウンド・メディアを運営する企業に対するWebメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の提供について、文具・雑貨・家具のニュース情報サイト「inspi」を運営するコクヨS&T、および国際ニュース・海外旅行・世界のグルメ・世界を旅する情報サイト「タビル」を運営するグルヤクに対して提供を開始した。
また15年6月、ゲームアプリ雑誌「月間アプリスタイル」を発行しているアプリスタイルと業務提携し、スマートフォン向けゲームに特化したアプリメディア「Appフェス(スマホゲームのお祭り会場)」を立ち上げた。スマートフォン時代に最適なゲーム情報発信を行う。そして8月28日には「Appフェス」のグランドオープンを発表した。
15年7月には電通<4324>と中小企業ビジネスの領域拡大と生産性の向上を通じて日本経済と各地域の活性化に貢献するため、ビジネス情報プラットフォーム「HANJO HANJO(ハンジョー ハンジョー)」を本格始動した。またAOI Pro.<9607>グループのビジネス・アーキテクツとマネー関連Webメディア「マネーゴーランド」を本格始動した。いずれもWebメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」を提供する。
■16年6月期も増収増益基調
前期(15年6月期)の連結業績は、売上高が前々期比15.6%増の37億06百万円、営業利益が同12.1%増の5億円、経常利益が同12.9%増の5億05百万円、純利益が同22.9%増の3億21百万円だった。配当予想は無配継続とした。
概ね計画水準の増収増益で、売上高、各利益とも過去最高を記録した。原稿料、外注費、人件費の増加で売上総利益率(48.3%)が同0.2ポイント低下し、人件費の増加で販管費比率(34.8%)が同0.2ポイント上昇したが、増収効果で吸収した。
セグメント別(連結調整前)に見ると、CMP事業は売上高が同31.4%増の29億12百万円、営業利益が同24.1%増の4億79百万円だった。広告収入、データ・コンテンツ提供収入が伸長し、M&Aで取得した出版ビジネスの通期連結も寄与した。
保有Webメディアは同10サイト増の40サイト、Webメディア全体の月平均PV(ページビュー)数は同35.5%増の1億23百万PV、月平均UU(ユニークユーザー)数は同34.6%増の27百万UUとなった。
なおクルマ関連「レスポンス」、IT関連「RBB TODAY」、ゲーム関連「インサイド」の主要3サイト合計で、CMP事業全体のPV数の59%、UU数の54%、売上高の32%を占める安定収益源となっている。
CMS事業は、リサーチソリューションの受注減少、ECソリューションの受注単価低下などで、売上高が同18.6%減の8億43百万円、営業利益が同50.7%減の35百万円だった。
今期(16年6月期)の連結業績予想(8月13日公表)は、売上高が前期比20.6%増の44億69百万円、営業利益が同10.4%増の5億52百万円、経常利益が同8.4%増の5億47百万円、純利益が同8.4%増の3億48百万円としている。配当予想は無配継続としている。
セグメント別(連結調整前)の計画は、CMP事業の売上高が同27.1%増の37億円、営業利益が同14.6%増の5億50百万円、CMS事業の売上高が同4.1%減の8億09百万円、営業利益が同9.6%減の32百万円としている。
15年5月子会社化した絵本ナビの影響で利益率がやや低下するが、主要3サイトを中心にCMP事業が順調に伸長する。オウンド・メディアの増加も寄与する。なお今期(16年6月期)業績の会社予想には新たなM&A増加分を織り込んでいないため増額余地がありそうだ。またCMS事業に関しては、CMP事業との連携を深めて来期(17年6月期)以降の収益拡大に繋げる方針だ。
■中期的に収益拡大基調
中長期ビジョンとしては、既存事業におけるM&Aや新規事業開発の加速、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」提供によるオウンド・メディア支援の強化で、20年に各種専門Webサイト100の運営、売上高200億円程度をイメージしているようだ。
CMP事業においてはインターネット広告市場の拡大、CMS事業においてはインターネット調査市場の拡大も追い風であり、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の強みを活かして中期的に収益拡大基調が期待される。
なお15年6月に、島根県松江市に開発拠点「松江ブランチ」を開設するため、島根県および松江市との三者で事業所等の立地に関する覚書を締結した。島根県および松江市の協力を得て、島根県へのUターン・Iターンを希望するエンジニアを積極採用し、Webメディア運用プラットフォーム「iid-CMP」の機能強化を図る方針だ。
■株価は売り一巡して底打ちの可能性
主要株主のうち、三越伊勢丹ホールディングス<3099>、エキサイト<3754>、マイナビ、博報堂DYメディアパートナーズなど、シナジー効果が見込める事業パートナーが安定株主となっている。
なお15年7月に博報堂DYメディアパートナーズが、Globis Fund ⅢおよびGlobis Fund Ⅲ(B)が保有する当社株式の合計27万6700株を取得した。これに伴って博報堂DYメディアパートナーズの議決権数に対する所有割合が4.94%から10.62%に増加し、当社の第3位株主となった。
株価の動きを見ると、7月末に1800円台を回復して戻り歩調の展開に見えたが、8月13日の決算発表で材料出尽くしの形となり、さらに地合い悪化も影響して8月25日の上場来安値1155円まで急落した。ただし28日には1590円まで戻して売り一巡感を強めている。
9月2日の終値1411円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS71円57銭で算出)は19~20倍近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS586円90銭で算出)は2.4倍近辺である。
週足チャートで見ると13週移動平均線が戻りを押さえる形となったが、8月の急落場面で長い下ヒゲをつけて底打ちした可能性がありそうだ。一旦は戻り売りが優勢になる場面もあるが、16年6月期増収増益基調であり、中期成長力を評価して切り返し展開だろう。