【編集長の視点】「シルバーウイーク」を控え「安・近・短」をキーワードにテーマパーク株に株価防衛関連の先取りも一考=浅妻昭治
- 2015/9/7 09:51
- 編集長の視点
中国景気の減速懸念を震源地とした世界的な株価乱高下が、もう半月も続いてなお収まらない。この中国ファクターを「前面の虎」とすれば、「後門の狼」は、米国の金利引き上げ動向である。前週末4日に発表された8月の米雇用統計で、非農業部門の雇用者数の増加数が、市場予想(22万人)を下回って17万3000人増となる一方、失業率が、5.1%に低下するなど強弱マチマチとなり、FRB(米連邦準備制度理事会)が、9月16日から開催するFOMC(公開市場委員会)で金利引き上げに踏み切るのか、それとも見送るのかが、またまた撹乱要因となる。中国ファクターだけでも持て余しているのに、FRBがどう動くか即断しろと無理難題を突き付けられたようでまことに厄介である。
その中国の2015年4~6月期のGDP(国内総生産)の実質成長率は、前年同期比で7.0%のプラスと発表されたが、実は5.0%程度のプラスではなかったのかとの憶測がシキリである。成長率が、7%を割ると雇用問題が起こって社会不安を引き起こし、共産党一党支配の政治体制そのものが揺らぎ兼ねないから経済データを操作しているのではないかという統計不信である。人民元の実質切り下げ、追加金融緩和策、さらに下げ止まらない中国・上海株などをみると、この憶測は、時が時だけに当たらずとも遠からずではないかと不安に輪をかけている。
国が、経済統計を操作することはそう珍しいことではないようだ。例のギリシャ危機も、2009年10月の政権交代時に財政赤字が公表数字より大幅に膨らむことが明らかにされたことが発端となった。GDP比で5%程度とされていた財政赤字が、実は13.6%にまで達する粉飾操作であったことが判明し、欧州委員会から緊縮財政を迫られ、これが、同国のデフォルト(債務不履行)懸念を強めて世界的な大事となったことは、記憶に新しい。
翻って、わが日本は、さすがに統計操作などは存在しないが、それでも政策当局者による「上から目線」の景気見通しと、庶民レベルの「下から目線」の景気実感にはかなりのギャップがありそうだ。例えば日本の4~6月期の実質GDP成長率は、3四半期ぶりに年率で1.6%のマイナスと落ち込み、7~9月期には輸出や個人消費の持ち直しでプラス転換するとコメントされたが、本当にそうかなと疑問が先に立つ。安倍晋三首相は、自民党の総裁選挙で無投票再選が予想されるなど「アベノミクス」効果は、自民党内ではなお強力のようだが、こと経済改革効果では賞味期限切れムードも否定できない。さらに日銀の黒田東彦総裁は、2%上昇の物価目標を堅持しインフレ・マインドの喚起は可能としているが、足元の消費者物価の動向などは、デフレ・マインドへの先祖返りを示唆しているとも受け取れる。
7~9月期GDPのプラス転換期待の一翼を担うのは、個人消費である。賃上げや夏のボーナス支給などの取得環境の向上、猛暑特需、地方自治体で発行が相次ぐプレミアム付き商品券による政策効果、さらに9月の大型連休「シルバーウイーク」のレジャー需要などが、持ち直し要因に数えられている。このうち猛暑特需は、首都圏では猛暑日の連続記録が途絶えた途端に気温を急降下して秋の気候の気配を強め、所得環境の向上も、7月の実質賃金は、前年同月比0.3%増と2年3カ月ぶりにプラス転換したものの、ボーナスの伸びが低く渋いもので、さらに今夏の天候不順による野菜価格の上昇などと綱引きとなっている。節約志向、生活防衛意識の強まりも想定される。
そこでこの個人消費持ち直しを占うキーワードとして注目したいのが、「シルバーウイーク」中の「安・近・短」である。懐かしい流行語である。「失われた20年」のデフレ経済下では、レジャー消費が、費用が安く、距離が近く、日程が短いところに集中したことを表しており、高速道路料金をETF利用に限定して1回1000円で乗り放題とした「1000円高速」も加わって、景気下支え効果を発揮した。今年の「シルバーウイーク」は、日並びが良く6年ぶりの5日連休となり、夏休みからシフトした海外旅行向けに航空会社の交際線予約が好調で、北陸新幹線などの座席予約も倍増以上などと報道されているが、果たしてそれだけだろうかというのが、当コラムの問題提議である。またしても、生活防衛意識や節約志向が高まるなか、「安・近・短」のレジャー需要が浮上するのではないかと推測するのである。
9月16日には日本政府観光庁が、8月の訪日外客数推定値を発表する予定で、中国人旅行客の「爆買い」が一巡するのかインバウンド(外国人観光客)消費の動向が焦点となる一方、仮に「爆買い」が一巡したとても、日本自体の正味のレジャー需要として「シルバーウイーク」中の「安・近・短」消費が、個人消費持ち直しをサポートするか注目されることにもなる。株式市場にとっては、期待のカジノ法案の可決・成立がまたまた見送りとなるなどやや逆風となるなか、節約志向・生活防衛意識と歩調を合わせて、株価防衛意識を高めて「安・近・短」消費の先取りも一考余地が出てくることになる。(本紙編集長・浅妻昭治)