【アナリスト水田雅展の銘柄分析】ラクーンの16年4月期第1四半期は大幅増益、売られ過ぎ感強く中期成長力を見直し

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 ラクーン<3031>(東マ)はアパレル・雑貨分野の企業間電子商取引サイト運営を主力として事業領域拡大戦略を加速している。16年4月期第1四半期(5月~7月)は大幅増益だった。株価は悪地合いで水準を切り下げたが売られ過ぎ感の強い水準だ。16年4月期増収増益基調や中期成長力を見直して切り返しのタイミングだろう。

■アパレル・雑貨分野の企業間ECサイト「スーパーデリバリー」運営が主力

 アパレル・雑貨分野の企業間(BtoB)電子商取引(EC)サイト「スーパーデリバリー」運営を主力に、クラウド受発注ツールの「COREC(コレック)」事業、そしてBtoB掛売り・請求書決済代行サービスのPaid(ペイド)事業、売掛債権保証事業など周辺分野にも事業領域を広げている。15年4月期から事業セグメント区分を「スーパーデリバリー」と「COREC」のEC事業、およびPaid事業、売掛債権保証事業の3区分とした。

 15年4月期末の「スーパーデリバリー」経営指標は、会員小売店数が14年4月末期比3929店舗増加の4万4370店舗、出展企業数が同117社増加の1065社、そして商材掲載数が同3234点増加の45万6349点だった。14年12月にはアパレル大手のワールド、15年5月には多数の有名スポーツブランドアイテムを扱うゼットが出展した。

 15年3月にはPaid加盟企業数が1200社を突破した。当初はアパレルや雑貨の卸メーカーが中心だったが、サービス改良によって業種・業態を問わず、あらゆるBtoB向けサービスに導入できるようになり、グラフィックが運営する「印刷の通販グラフィック」(15年1月現在で27万件の法人・個人会員登録)、GMOコマースが運営するO2O事業、三菱自動車工業の「三菱自動車 電動車両サポート」にも導入された。

 15年6月にはスーパーデリバリーにおける越境ECサービス(海外販売)の詳細を発表し、8月25日からサービス開始した。商品を販売するメーカー側の配送業務を簡潔にするため、ディーエムエス(DMS)の物流代行サービスを利用し、日本最大級の輸出販売サービス「SDexport」としてサービスを提供する。約134ヶ国以上の小売店・企業への卸販売が可能となる。

 またサービス開始に先立って、販売側のメーカー約500社、仕入側の海外小売店および企業約1000社の集客を行い、取扱商品数約7万点でのスタートとなった。

■M&A・アライアンスも積極活用

 M&Aやアライアンスも積極活用している。14年10月にSquare社と業務提携して「スーパーデリバリー」および「COREC」とPOSレジアプリ「Squareレジ」がシステム連携した。

 14年11月には子会社トラスト&グロースがスタンドファームと業務提携した。スタンドファームのクラウド請求書管理サービス「Misoca」登録業者に対して売掛保証サービスを提供する。

 14年12月にはトラスト&グロースがトラボックスと業務提携した。荷物を運んで欲しい人とトラック運送業者を結ぶオンライン物流サービス「トラボックス」登録会員に対して運賃全額保証サービスを提供する。

 15年6月にはロックオンと業務提携した。ロックオンのECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」のユーザー向け決済ツールとして、Paidが標準搭載される。

 15年7月にはトラスト&グロースが信用交換所大阪本社に対して、同社と商品設計した同社会員向け専用の売掛保証サービス「シンコー保証」の提供を開始した。これによってクライアント増加による保証残高の拡大、および売上高の増加を狙うとしている。

■クラウド受発注ツール「COREC」のユーザー数が急増

 15年4月にはクラウド受発注ツール「COREC」が「Yahoo!ショッピング」と連携した。発注にかかる作業時間や手間が大きく改善されるため「Yahoo!ショッピング」出店者のショップ運営業務が効率化される。またCOREC利用頻度向上にも繫がるとしている。

 15年4月には「COREC」ユーザー数が2000社(バイヤー1191社、サプライヤー809社)を突破した。会員ユーザーの業種別構成比は雑貨20%、アパレル13%、飲食料14%、IT12%、建築・設備3%、その他38%だった。

 15年7月には「COREC」ユーザー数が3000社(バイヤー1836社、サプライヤー1164社)を突破した。2000社突破から4ヶ月弱での達成だ。アパレル企業(サプライヤー)による取引先(バイヤー)の積極的な誘致で、数十店規模でチェーン展開している企業のチェーン全店舗が登録する事例や、農園(サプライヤー)による取引先(バイヤー)の誘致で、レストランが数十店舗まとめてユーザー登録する事例もあるようだ。

 8月27日には「COREC」が、リクルートライフスタイルが運営する飲食・美容・小売店舗運営に役立つサービス提案サイト「Airマーケット」と連携したと発表している。

■16年4月期第1四半期は大幅増益、通期も増収増益基調

 企業間ECサイト・スーパーデリバリー流通に係る売上高に関して、従来は出展企業と会員小売店がスーパーデリバリーを通じて取引した金額を売上高計上(総額表示)し、商品仕入高も売上原価に計上していたが、15年4月期から商品仕入高を売上高と相殺して表示する方法(純額表示)に変更した。この変更によってスーパーデリバリー流通に係る売上高は出展企業から徴収するシステム利用料売上となっている。従来の総額表示に比べて見掛け上の売上高は減少するが利益に変更はない。

 なお15年4月期の四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(5月~7月)4億90百万円、第2四半期(8月~10月)5億06百万円、第3四半期(11月~1月)5億22百万円、第4四半期(2月~4月)5億38百万円で、営業利益は第1四半期57百万円、第2四半期93百万円、第3四半期1億04百万円、第4四半期82百万円だった。

 また配当性向は19.7%だった。ROEは14年4月期比4.5ポイント上昇して13.1%、自己資本比率は同12.2ポイント低下して35.6%となった。

 8月27日に発表した今期(16年4月期)第1四半期(5月~7月)の連結業績は、売上高が前年同期比8.8%増の5億33百万円で、営業利益が同52.2%増の87百万円、経常利益が同48.7%増の86百万円、純利益が同54.2%増の54百万円だった。

 売掛債権保証事業における営業力強化のための人員増に伴う人件費の増加、15年8月開始の「スーパーデリバリー」越境ECサービス「SDexport」の準備費用・プロモーション費用などのコストアップ要因があったが、増収効果で吸収して大幅増益だった。なお売上総利益率は同3.8ポイント低下の80.9%、販管費比率は同8.4ポイント低下の64.5%となった。

 セグメント別(連結調整前)に見ると、EC事業は売上高が同1.9%増の3億82百万円、営業利益が同65.6%増の57百万円だった。客単価の低下などで「スーパーデリバリー」流通額は同1.4%減の22億74百万円となったが、会員小売店数が順調に増加し、月額課金の小売店月会費や企業出展基本料が増加した。コスト削減効果も寄与した。また「COREC」ユーザー数も順調に増加した。

 15年7月末時点の「スーパーデリバリー」会員小売店数は15年4月末比794店舗増加の4万5164店舗、出展企業数は同7社減の1058社、商材掲載数は同1万7353点増加の47万3702点となった。また「COREC」ユーザー数は3035社となった。

 Paid事業は売上高が同33.3%増の79百万円、営業利益が0.9百万円の赤字(前年同期は7.1百万円の赤字)だった。グループ内を含む取引高が同28.7%増加して赤字が大幅に縮小した。売掛債権保証事業は売上高が同20.6%増の1億60百万円、営業利益が同20.3%増の23百万円だった。グループ内を含む保証残高が同5.9%増加して収益化が本格化してきた。

 通期の連結業績予想は前回予想(6月10日公表)を据え置いて売上高が前期比10.4%増の22億70百万円、営業利益が同23.5%増の4億15百万円、経常利益が同25.4%増の4億10百万円、純利益が同29.4%増の2億60百万円としている。配当予想は未定としている。

 売上面では「スーパーデリバリー」に加えて、越境ECサービス「SDexport」を開始して一段の規模拡大に取り組む。スーパーデリバリー運営におけるコスト構造見直しも進める。また「COREC」の収益寄与本格化、Paid事業と売掛債権保証事業の一段の収益改善も期待される。

 通期会社予想に対する第1四半期の進捗率は売上高が23.5%、営業利益が21.0%、経常利益が21.0%、純利益が20.8%である。やや低水準の形だが、期後半に向けて収益が積み上がるストック型構造であることを考慮すれば特にネガティブ要因とはならない。通期ベースでも増収増益基調が予想され、中期的にも収益拡大基調だろう。

■株価は売られ過ぎ感、中期成長力を見直し

 株価の動き(15年8月1日付で株式3分割)を見ると、株式分割も好感しした7月の年初来高値599円から反落し、その後の悪地合いも影響して水準を切り下げた。9月7日には322円まで調整する場面があった。ただし売られ過ぎ感の強い水準だ。

 9月7日の終値344円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS15円05銭で算出)は22~23倍近辺、前期実績連結PBR(前期実績に株式3分割を考慮した連結BPS90円29銭で算出)は3.8倍近辺である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線を割り込んで調整局面だが、日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が20%を超えて売られ過ぎ感の強い水準だ。16年4月期増収増益基調や中期成長力を見直して切り返しのタイミングだろう。

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