ゼリア新薬工業は売られ過ぎ感、24年3月期経常・最終2桁増益予想、さらに上振れの可能性

ゼリア新薬工業<4559>(東証プライム)は消化器分野が中心の医療用医薬品事業、および一般用医薬品のコンシューマーヘルスケア事業を展開している。第11次中期経営計画では、好調な欧州事業に加えて、アジア地域での事業展開も推進する方針としている。24年3月期は海外の好調が牽引して営業小幅増益、経常・最終2桁増益予想としている。第1四半期の利益進捗率が高水準だったことを勘案すれば、通期会社予想は上振れの可能性が高く、積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化の影響で年初来安値を更新する形となったが売られ過ぎ感を強めている。目先的な売りが一巡して出直りを期待したい。

■医療用医薬品事業とコンシューマーヘルスケア事業を展開

消化器分野が中心の医療用医薬品事業、および一般用医薬品のコンシューマーヘルスケア事業を展開している。収益面では薬価改定、ライセンス収入・ロイヤリティ収入、研究開発費、広告宣伝費などの影響を受けやすい。

23年3月期は医療用医薬品事業の売上高が22年3月期比16.6%増の431億45百万円で営業利益(全社費用等調整前)が26.2%増の87億21百万円、コンシューマーヘルスケア事業の売上高が12.1%増の250億85百万円で営業利益が23.1%増の49億70百万円、その他(保険代理業・不動産賃貸収入)の売上高が2.8%減の1億52百万円で営業利益が7.2%減の2億42百万円だった。地域別売上高は日本53%、イギリス11%、欧州29%、その他7%だった。

■医療用医薬品事業は潰瘍性大腸炎治療剤アサコールなどが主力

医療用医薬品事業は、潰瘍性大腸炎治療剤アサコールを主力として、炎症性腸疾患治療剤Entocort(エントコート、国内販売名ゼンタコート)や、機能性ディスペプシア治療剤アコファイドなども拡大している。20年9月に国内で販売開始した鉄欠乏性貧血治療剤フェインジェクトについては、消化器科・産婦人科を中心に市場構築を推進している。

また、アステラス製薬の英国子会社が欧州を中心に販売しているクロストリジウム・ディフィシル感染症治療剤ディフィクリア錠(英名DIFICLIR)については、20年11月に欧州、中東、アフリカおよび独立国家共同体(CIS)における製造販売承認を承継する資産譲渡契約を締結し、21年6月に欧州テリトリーでの製造販売権承継をほぼ完了した。残る地域についても順次承継予定である。

23年4月には、アステラス製薬が日本において製造販売しているクロストリジウム・ディフィシルによる感染性腸炎治療剤「ダフクリア錠200mg」(一般名:フィダキソマイシン、以下:ダフクリア)について製造販売承認を継承した。

23年3月期の主要製品の売上高は、アサコールが22年3月期比11.6%増の195億11百万円、ディフィクリアが60.2%増の83億45百万円、エントコートが27.0%増の56億88百万円、アコファイドが1.4%減の31億08百万円、その他が2.9%減の64億91百万円だった。アコファイドについては、アステラス製薬<4503>との日本での共同販促を21年3月で終了し、21年4月以降は単独プロモーションに切り替えている。

海外展開については、アサコールは欧州を中心に高用量製剤の販売国数を拡大中である。競合する高用量製剤の処方獲得を目指してプロモーションを展開している。またイタリアのMenariniグループの中国現地法人に独占的販売権を供与して、中国で21年5月販売開始した。

アコファイドについては、Meiji Seika ファルマとタイおよびインドネシアにおける独占的開発・販売ライセンス契約、スペインのFAES社とラテンアメリカにおける独占的開発・販売ライセンス契約を締結している。

子会社のTillotts Pharma(ティロッツ社、スイス)は、アストラゼネカ社からエントコートの米国を除く全世界における権利を取得(国内ではゼンタコートカプセルとして販売)し、アサコールとともに海外での拡販を推進している。また20年11月に、アステラス製薬の英国子会社からクロストリジウム・ディフィシル感染症治療剤ディフィクリア錠(英名DIFICLIR)の欧州、中東、アフリカおよび独立国家共同体(CIS)における製造販売承認を承継し、販売を拡大している。

■コンシューマーヘルスケア事業はヘパリーゼ群などが主力

コンシューマーヘルスケア事業はヘパリーゼ群、コンドロイチン群、ウィズワン群を主力として、日本で初めて月経前症候群の効能を取得した西洋ハーブ・ダイレクトOTC医薬品プレフェミン、連結子会社イオナ インターナショナルの「イオナ」ブランド化粧品なども全国の薬局・薬店・ドラッグストアなどに販売している。

23年3月期の主要製品の売上高はヘパリーゼ群が22年3月期比26.7%増の98億48百万円、コンドロイチン群が5.6%増の54億21百万円、ウィズワン群が6.8%減の12億66百万円、その他(殺菌消毒薬など)が5.5%増の85億48百万円だった。

事業拡大に向けて、西洋ハーブ群の開発・育成、ヘパリーゼ群およびコンドロイチン群に続く新規主力製品の開発・育成、既存製品(OTC医薬品プレバリン群、オーラルケアのマスデント群やイオナ化粧品など)の育成を推進している。20年4月にはヘパリーゼ群の主原料である肝臓加水分解物の安定調達とコンシューマーヘルスケア事業拡大を目的として、日水製薬<4550>から日水製薬医薬品販売の全株式を譲り受けて子会社化(現社名:健創製薬)した。

西洋ハーブ関連では21年12月に、軽度の静脈還流障害による足のむくみを改善する内服薬「ベルフェミン」(要指導医薬品)を発売した。欧州において下肢の静脈疾患(慢性静脈不全症)の治療に伝統的に使用されてきたセイヨウトチノキ種子の乾燥エキスを主成分としている。22年3月には、過敏性腸症候群(IBS)改善薬「コルペルミン」(要指導医薬品)を発売した。ペパーミントのオイルを有効成分とする医薬品である。ティロッツ社によって開発され、1981年に英国で発売されて以降、スイスやドイツをはじめ十数ヶ国でIBSの諸症状を改善する一般用医薬品として販売されている。国内で実施された過敏性腸症候群患者を対象とした臨床試験において有効性と安全性が確認された。

■消化器分野を最重点領域として新薬開発を推進

消化器分野を最重点領域と位置付けて新薬開発を推進している。新薬パイプラインの状況(23年8月3日現在)は以下の通りである。

Z-338(自社品、一般名アコチアミド)は、日本では小児機能性ディスペプシアを適応症として第3相段階、低活動膀胱を適応症(開発コードZG-802)として第2相段階、食道胃接合部通過障害を適応症として第2相(九州大学で医師主導治験)段階、欧州では機能性ディスペプシアを適応症として第3相段階である。なお九州大学における医師主導治験は日本医療研究開発機構(AMED)の助成事業に採択されている。

Z-338の海外導出では、Faes Farmaが機能性ディスペプシアを適応症としてメキシコ、ホンジュラス、ドミニカ共和国、エクアドル、チリで承認を取得し、コロンビア、ペルー、コスタリカ、グアテマラ、パナマ、ニカラグア、エルサルバドルにおいて承認申請中である。またMeiji Seikaファルマが機能性ディスペプシアを適応症としてタイにおいて承認取得、インドネシアにおいて承認申請中である。さらにPharmaceutical Joint Stock Company of February 3rdが機能性ディスペプシアを適応症としてベトナムにおいて承認申請中である。

高カリウム血症を適応症とするZG-801(ビフォーファーマ社から導入、パチロマーソルビテクスカルシウム)については、日本において申請準備中である。米国では15年12月販売開始し、欧州では17年7月EMA(欧州医薬品庁)から承認取得している。

なお23年7月には、子会社のTillotts Pharmaが世界的ベンチャーキャピタル大手TVMと共同で、潰瘍性大腸炎に対する経口抗体療法開発を目的として、米国のバイオベンチャーMage Bioに対して最大28百万USドル出資した。

■好調な欧州事業に加えてアジア地域での事業展開も推進

第11次中期経営計画(24年3月期~26年3月期)では経営目標値に、最終年度26年3月期連結売上高900億円、海外売上比率50%以上を掲げている。

重点戦略としては、欧州地域における継続的な市場形成(アサコール、ディフィクリア)に加えて、アジア地域への展開(ゼリア新薬工業の輸出拡大、ベトナムFTファーマの新工場建設や東南アジア近隣諸国への輸出拡大)を推進する。また国内の医療用医薬品事業では、自社創薬品であるアコファイド、フェインジェクト、ダフクリアの拡販に加えて、第11次中期経営計画中に上市が見込まれる高カリウム血症治療剤ZG-801の投入などにより、国内医療用医薬品市場におけるプレゼンスを確保する。コンシューマーヘルスケア事業では、コンドロイチン群やヘパリーゼ群などの主力製品群に加えて、ローヤルゼリー群、西洋ハーブ群、化粧品群など多くの製品群において市場拡大を図る。

■上場維持基準適合に向けた計画書

なお23年3月31日時点で流通株式比率がプライム市場の上場維持基準に適合しない状況となったため、23年6月29日付で上場維持基準への適合に向けた計画を策定・公表した。

基本方針としてステークホルダーの期待に応えて持続的な企業価値の向上を図るとともに、流通株式比率を引き上げるために株主との対話による保有目的の確認や資本政策(自己株式消却など)など各種取組を総合的に検討し、25年3月末までに上場維持基準の適合を目指すとしている。

■24年3月期経常・最終2桁増益予想、さらに上振れの可能性

24年3月期の連結業績予想は売上高が23年3月期比6.8%増の730億円、営業利益が0.9%増の91億円、経常利益が18.7%増の90億円、親会社株主帰属当期純利益が13.0%増の70億円としている。配当予想は23年3月期比4円増配の44円(第2四半期末22円、期末22円)としている。連続増配で予想配当性向は27.7%となる。

第1四半期は、売上高が前年同期比12.3%増の183億04百万円、営業利益が0.2%減の29億70百万円、経常利益が12.8%増の33億55百万円、親会社株主帰属四半期純利益が12.1%増の29億15百万円だった。

売上面は医療用医薬品事業の海外の好調が牽引し、コンシューマーヘルスケア事業も回復基調となって2桁増収だった。営業利益は販売促進費、研究開発費、減価償却費の増加などで微減益だったが、営業外における為替差損益の改善(前年同期はスイスフラン高の影響で為替差損1億03百万円計上、当期は為替差益1億64百万円計上)により、経常利益と親会社株主帰属四半期純利益は2桁増益だった。

医療用医薬品事業は売上高が16.2%増の119億47百万円、セグメント利益(全社費用等調整前営業利益)が1.5%増の28億74百万円だった。潰瘍性大腸炎治療剤アサコールは国内が薬価改定の影響で苦戦したが、海外市場において高用量製剤アサコール1600mgを中心に伸長した。クロストリジウム・ディフィシル感染症治療剤ディフィクリアは海外市場において営業リソースを積極投入して売上拡大した。炎症性腸疾患(IBD)治療剤エントコート(国内販売名ゼンタコート)は、海外の一部の国における後発医薬品の上市の影響を受けて苦戦した。なお23年4月にアステラス製薬から製造販売承認を承継したダフクリアの販売を開始した。

主要製品の売上高は、アサコールが7.4%増の51億89百万円、ディフィクリアが113.8%増の32億38百万円、エントコートが29.3%減の10億92百万円、アコファイドが0.4%減の7億70百万円、その他が2.6%増の16億56百万円だった。

コンシューマーヘルスケア事業は売上高が5.5%増の63億17百万円、利益が1.5%増の13億67百万円だった。コロナ禍の影響が和らいでヘパリーゼ群、医薬品ヘパリーゼ群、コンビニエンスストア向けヘパリーゼW群が回復基調となった。コンドロイチン群も積極的な広告宣伝投資の効果で堅調だった。22年10月に販売開始した滋養強壮保健剤ハイゼリー顆粒EXについては、認知度向上や拡販に努めている。

主要製品の売上高は、ヘパリーゼ群が9.5%増の25億57百万円、コンドロイチン群が5.9%増の14億07百万円、ウィズワン群が1.1%減の2億93百万円、その他(殺菌消毒薬など)が1.7%増の20億59百万円だった。

その他(保険代理業・不動産賃貸収入)は売上高が6.5%増の38百万円、利益が10.9%増の64百万円だった。

通期の連結業績予想は据え置いている。医療用医薬品事業は海外市場におけるアサコールやディフィクリアの伸長で増収、コンシューマーヘルスケア事業はヘパリーゼ群やコンドロイチンの売上増加などで増収を見込んでいる。利益面は、研究開発費の増加などを考慮して営業利益が小幅増益だが、経常利益と純利益は2桁増益予想としている。

第1四半期の進捗率は売上高が25%、営業利益が33%、経常利益が37%、親会社株主帰属当期純利益が42%だった。第1四半期の利益進捗率が高水準だったことを勘案すれば、通期会社予想は上振れの可能性が高く、積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株主優待は年2回、9月末と3月末の株主対象

株主優待制度は毎年9月末および3月末現在の株主を対象として、保有株式数に応じて自社グループ商品を贈呈(詳細は会社HP参照)している。なお9月4日付で株主優待品コース内容の変更を発表している。23年9月末対象から実施する。

■株価は売られ過ぎ感

株価は地合い悪化の影響で年初来安値を更新する形となったが売られ過ぎ感を強めている。売り一巡して出直りを期待したい。10月26日の終値は1963円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS158円80銭で算出)は約12倍、今期予想配当利回り(会社予想の44円で算出)は約2.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1484円79銭で算出)は約1.3倍、時価総額は約1043億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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