【小倉正男の経済コラム】日銀「出口戦略」マイナス金利解除=正常化を塞ぐ壁

日本銀行 日銀

■植田総裁のマイナス金利解除(利上げ)への意向は強い

 1月22日~23日の日銀・金融政策決定会合は、マイナス金利解除(利上げ)に向かうには重要な日程になる。政策金利をマイナス0・1%からゼロ(0%)にするにしても、利上げには周到な地ならしを行うというのが通例である。

 仮に4月にマイナス金利解除を行うとすれば、1月金融政策決定会合を起点に何らかの地ならしの号砲を撃ち鳴らす可能性が高まる。利上げのスケジュールとしては、地ならしの時期に入ることになる。

 植田和男総裁は、“チャレンジング発言”もあったが、事後に「一般的な仕事に対する姿勢」を語ったものだと発言している。マイナス金利解除の示唆、利上げの地ならしを意図した発言ではないという釈明である。ただし、“チャレンジング発言”を素直に受け取れば、植田総裁がマイナス金利解除に取り組む意向・意思は強いとみられる。

■「金融政策決定会合」マイナス金利解除の議論

 昨年12月の日銀・金融政策決定会合でもマイナス金利解除の議論が行われている。
 「マイナス金利やイールドカーブ・コントロールの枠組み解除を検討するためには、賃金と物価の好循環を確認し、これをベースに、2%の目標の持続的・安定的な実現が見通せるようになる必要がある」

 新年の賃金上昇(賃上げ)動向を「見極めてから判断しても遅くはない」という意見である。これが多数派とみられる。植田和男総裁もこの立ち位置を表明している。賃上げ動向が見えるのは4月、マイナス金利解除はおそらくこの時期がターニングポイントになる。

 「2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現の確度はさらに高まっており、金融正常化のタイミングは近づいている。拙速はよくないが、巧遅は拙速に如かず、という言葉もある。物価高が消費の基調を壊し、物価安定目標の実現を損なうリスクを避けるためにも、タイミングを逃さず金融正常化を図るべきである」

 こちらはやや少数派だが、「ともあれ金融正常化=マイナス金利解除を急げ」という意見である。金融政策決定会合での意見はほぼ出尽くしている。昨年12月後半は、利上げの地ならしでいえばそれに踏み込む一歩手前の直前段階ということになる。

■米欧は利下げ、日本は利上げという逆行リスクの壁

 日銀、あるいは植田総裁の意向・意思は強いとしても、「マイナス金利解除は困難」、あるいは「早期には困難」という見解・分析が海外有力メディア、あるいは国内調査機関などから打ち出されている。

 米連邦準備制度理事会(FRB=政策金利5・5%)、欧州中央銀行(ECB=政策金利4・5%)が極致だが、新年はこぞって利下げに向かう趨勢となっている。世界の中央銀行は、「インフレの最困難な時期は終わった」(ECB・ラガルド総裁)というのが合意になっている。FRBなどは昨年末に「新年には年3回の利下げを行う」といち早く示唆している。

 年初の米国は経済指標が底堅さをみせており、FRBの利下げは市場サイドの期待に比べて遅れるという観測が強まっている。ただ、利下げに向かっている方向性は変わっていない。加えて先行きは何とも見えない。一般には、FRBは4月に最初の利下げを行うとみられている。景気が悪化するとすれば、矢継ぎ早に利下げを断行する可能性は否定できない。

 そうした世界の趨勢に逆らって日銀は利上げを行うリスクに果たして耐えられるか、という見方である。胆力に加えて運がなければ、おそらく世界の利下げ圧力に逆行して利上げするのは至難とみられている。

 さらに焦点となるのは、物価高を上回る賃上げが実現できるのかという点だ。大企業の賃上げはある程度進捗するとしても、中小企業の賃上げは簡単ではない。政府、経済団体が口先で賃上げを盛り上げてもおいそれと実現できるわけではない。日銀のマイナス金利解除、金融正常化という「出口戦略」を塞ぐ壁といえるものはかなり分厚い。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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