松田産業は上値試す、24年3月期は再上振れ余地

 松田産業<7456>(東証プライム)は貴金属・環境・食品分野のソリューション提供企業として、貴金属関連事業および食品関連事業を展開している。成長に向けた基本方針として、積極投資継続による収益基盤強化と新規収益源創出、持続的成長を加速させる経営基盤の強化、ESG経営の推進による企業価値向上を掲げている。24年3月期は上方修正し、期初計画に比べて減益幅が縮小する見込みとしている。依然として保守的な印象が強く、通期会社予想に再上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で下期も収益改善基調を期待したい。株価は23年12月の直近安値圏から反発して順調に水準を切り上げている。そして23年11月の昨年来高値に接近してきた。低PERや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価して上値を試す展開を期待したい。

■貴金属リサイクルや農林水産品販売を展開

 貴金属・環境・食品分野のソリューション提供企業として、貴金属リサイクル(貴金属事業)や産業廃棄物処理(環境事業)などの貴金属関連事業、および農林水産品を扱う食品関連事業を展開している。

 貴金属リサイクルは、金・銀・白金族などの貴金属製品やめっき用化成品をエレクトロニクス業界へ販売するとともに、半導体や電子部品を製造する過程で規格外となった部品(スペックアウト品)などの貴金属含有スクラップを国内外のメーカーから回収・処理・製錬することで、貴金属をリサイクルする。粉砕・焼成する前処理工程から、貴金属を分離・抽出する製錬・精製工程までを一貫して行い、得られた高純度の金・銀・プラチナ・パラジウムなどから地金、各種加工品、化成品を製造する。海外はベトナム、タイ、フィリピン、シンガポール、中国・蘇州、マレーシア、台湾に展開している。

 産業廃棄物処理は、写真の感光材料からの銀の回収、廃酸や廃アルカリの無害化中間処理など、産業廃棄物の回収・処理を行っている。無害化処理技術に強みを持ち、全国47都道府県での収集運搬業許可を得ている。また太平洋セメントと共同でセメント製造設備を利用した大型リチウムイオン電池リサイクル事業を展開している。

 21年4月には、電池サプライチェーン(電池の材料、部品およびその原料に関わる産業)の健全な発展や国際競争力強化を推進することを目的として新たに設立された一般社団法人電池サプライチェーン協議会に正会員として参加した。設立時点の会員は関連企業約50社である。21年4月には韓国に現地法人の韓国松田産業を設立した。

 22年3月には、連結子会社の松田資源利用(蘇州)有限公司を解散すると発表した。中国における貴金属関連事業拡大を目的として07年4月に設立したが、現地の許認可制度による取引上の制約などから、今後の持続的な事業拡大が望めないと判断した。現地法令に従った手続きが完了次第、清算結了となる。連結業績に与える影響は軽微である。23年6月には、連結子会社ゼロ・ジャパンが「低濃度ポリ塩化ビフェニル廃棄物の無害化処理」に係る環境大臣認定を取得した。

 23年10月にはタイにおける外資規制事業を統括することを目的として、現地法人SEAM Holdings(Thailand)を設立した。出資比率は49%で、事業開始は23年12月予定としている。また23年12月15日(予定)で、連結子会社Matsuda Sangyo(Thailand)の株式の51%をSEAM Holdings(Thailand)に譲渡する。

 食品関連事業はグローバルネットワークで食材(水産品、畜産品、農産品)の調達・販売を展開し、新たな販売市場の開拓および現地における仕入強化を推進している。海外は中国、タイ、ベトナム、台湾、およびインドに展開している。

■貴金属関連事業が利益柱

 23年3月期は、貴金属関連事業の売上高(内部取引等調整前)が22年3月期比27.8%増の2465億78百万円でセグメント利益(営業利益)が16.4%増の120億43百万円、食品関連事業の売上高が31.6%増の1045億30百万円でセグメント利益が23.9%減の17億74百万円だった。収益面では半導体・電子部品などエレクトロニクス業界の生産動向、貴金属および食品市況の影響を受けやすい特性がある。

 貴金属関連事業の売上高の内訳は 金が42.0%増の1439億円(数量増加で22.0%増、価格上昇で20.0%増)、銀が5.9%増の166億円(数量増加で1.4%増、価格上昇で4.5%増)、白金族が19.1%増の634億円(数量増加で20.0%増、価格下落で0.9%減)、その他が0.1%減の225億円(産業廃棄物処理が19.0%増だが、電子材料等商品が減少)だった。

 食品関連事業の売上高の内訳は、水産品が28.4%増の422億円(数量増加で5.3%増、価格上昇で23.1%増)、畜産品が30.7%増の415億円(数量増加で5.6%増、価格上昇で25.1%増)、農産品が44.4%増の131億円(数量増加で21.8%増、価格上昇で22.6%増)、その他が35.0%増の74億円(数量増加で6.5%増、価格上昇で28.5%増)だった。

■事業領域拡大やグローバル展開を加速

 中期経営計画(23年3月期~26年3月期)では、最終年度となる26年3月期の目標値として売上高3000億円、営業利益130億円、営業利益率4.3%、ROE9.0%、ROA(総資産経常利益率)10.0%を掲げ、セグメント別の26年3月期目標値は、貴金属関連事業が売上高2000億円、営業利益105億円、営業利益率5.3%、食品関連事業が売上高1000億円、営業利益25億円、営業利益率2.5%としている。経営資源配分として4ヶ年累計で総額300億円規模の成長投資を計画し、株主還元については株主資本配当率1.5%以上の還元を目安としている。

 また、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、中期経営計画の着実な推進で経営目標の達成を目指すとともに、資本効率の向上と成長期待の醸成を重要課題として施策の実行に取り組むとしている。

 成長に向けた基本方針としては、貴金属関連事業と食品関連事業の両事業を牽引役に、積極投資継続による収益基盤強化と新規収益源創出、持続的成長を加速させる経営基盤の強化、ESG経営の推進による企業価値向上を推進する。

 貴金属関連事業では「資源循環(活用)を創造するリーディングカンパニー」をビジョンに掲げ、環境負荷低減型製品・サービスの提供や高機能電子材料の開発販売等を通じた資源リサイクルの総合力向上、国内シェアの拡大と海外の新たな市場開拓、電子デバイス業界への深耕と化学/自動車業界や二次電池/E―スクラップ市場の開拓を推進する。

 22年10月には北九州市若松区向洋町に貴金属のリサイクル機能を有した工場を建設することが正式決定した。第1期として工事は23年度着工、24年度竣工・稼働、投資金額は土地13億76百万円、建物・設備25億円前後、雇用人数は約30名の予定としている。第2期は市場動向や顧客ニーズにより適切な設備投資を順次展開予定としている。そして23年2月には北九州市との立地協定締結を発表した。

 23年6月には大同樹脂と技術提携し、関第2工場(岐阜県関市)において破砕分離設備を用いた廃PTP(Press Through Pack)シートのマテリアルリサイクルスキームの産業廃棄物処分業の許可を取得した。PTPは医薬品の錠剤・カプセル剤の包装形態の一つで広く普及しているが、製薬メーカーの製造工程では薬機法をはじめとする厳しい規格を遵守するため端材が多量に発生し、マテリアルリサイクルされていない現状にある。焼却処理を伴わないリサイクルスキームを構築することで、製薬業界におけるカーボンニュートラルに貢献する。

 食品関連事業では「お客様の商品開発のベストパートナー」をビジョンに掲げ、食品原材料の調達網・商品ラインナップの拡充による基幹事業(原料販売)の強化、顧客ニーズを捉えた安心・安全でサステナブルな商品の開発や商流の構築に取り組み、グローバル展開加速と販売領域拡大を推進する。

 経営基盤強化では、生産性向上、DX推進、経営人財創出、多様な人財活躍、職場環境作り、ガバナンス・リスク管理強化の6つの課題認識のもと、具体的施策に取り組む。

 ESGへの取り組みについては、貴金属関連事業と食品関連事業の拡大を通じて社会に貢献しているが、さらに環境負荷軽減と事業成長の両立、お客様満足の向上と社会の信用確保、多様な人財活躍による成長加速を重要課題と位置付けて、具体的施策化を進める。

 22年4月にはCSR活動推進に向けて、既存のIR部を改称してCSR・IR部とした。22年5月にはサステナビリティ委員会を設置した。22年11月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明し、パリ協定が定める目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標SBTを認定する機関SBTイニシアティブに対してコミットメントレターを提出した。

 23年3月には「松田産業グループ人権方針」を策定した。人権に関する国際規範である国際人権章典、国際労働機関(ILO)の労働における基本的原則および権利に関する宣言、ビジネスと人権に関する指導原則、国連グローバル・コンパクト10原則、およびRBA行動規範に規定された人権を最低限のものとして理解し、これらの人権を尊重し、これらの原則に基づいて事業活動を行うとしている。

 23年12月には、同社グループが目指す2030年度に向けた温室効果ガスの削減目標が、国際的イニシアティブであるSBTi(Science Based Targets Initiative)認定を取得した。

■24年3月期は上方修正して減益幅縮小、さらに再上振れ余地

 24年3月期の連結業績予想(23年11月10日付で上方修正)は売上高が23年3月期比2.6%増の3600億円、営業利益が27.6%減の100億円、経常利益が20.5%減の110億円、親会社株主帰属当期純利益が21.6%減の76億円としている。配当予想は23年3月期比10円増配の60円(第2四半期末30円、期末30円)としている。連続増配予想で予想配当性向は20.6%となる。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比1.6%増の1787億80百万円、営業利益が36.1%減の50億81百万円、経常利益が27.7%減の58億76百万円、親会社株主帰属四半期純利益が27.9%減の40億62百万円だった。

 前年比では貴金属関連事業における販売量減少などで減益だが、期初計画(売上高1580億円、営業利益40億円、経常利益41億円、親会社株主帰属四半期純利益28億円)比では価格上昇効果などにより上振れて着地した。なお営業外では持分法投資利益が増加(前年同期は2億96百万円、当期は4億43百万円)し、為替差損益が改善(前年同期は為替差損1億16百万円、当期は為替差益3億55百万円)した。

 貴金属関連事業は、売上高が3.3%減の1228億09百万円、セグメント利益(営業利益)が40.6%減の39億23百万円だった。前年同期比では減収減益だった。電子デバイス分野の生産活動低下に伴って貴金属リサイクル取扱量・製品販売量が減少した。品目別売上高は金が10.1%増の813億円、銀が11.9%減の81億円、白金族が28.9%減の239億円、その他が7.6%減の93億円だった。ただし計画比では、金価格上昇などによる価格影響、宝飾分野からの貴金属回収量増加などにより、計画を上回る水準で着地した。

 食品関連事業は、売上高が14.2%増の560億10百万円、セグメント利益が13.8%減の11億57百万円だった。前年同期比では、売上面は畜産品や農産品の販売量増加や販売価格上昇により増収だが、利益面は運送費や保管料の増加、仕入価格の上昇などの影響で減益だった。品目別売上高は水産品が0.2%増の200億円、畜産品が23.6%増の247億円、農産品が17.9%増の73億円、その他が40.4%増の37億円だった。ただし売上高、営業利益とも計画を上回る水準で着地した。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高が885億64百万円で営業利益が24億18百万円、第2四半期は売上高が902億16百万円で営業利益が26億63百万円だった。

 通期は期初計画に対して、売上高を300億円、営業利益を10億円、経常利益を17億円、親会社株主帰属当期純利益を11億円、それぞれ上方修正し、期初計画に対して減益幅が縮小する見込みとした。売上高と営業利益が想定を上回り、経常利益と親会社株主帰属当期純利益については営業外損益の改善も寄与する見込みだ。積極的な事業展開により下期も収益改善基調を期待したい。

 セグメント別の計画は、貴金属関連事業の売上高が1.4%増の2500億円で営業利益が35.2%減の78億円、食品関連事業の売上高が5.3%増の1100億円で営業利益が24.0%増の22億円としている。下期の見通しとして、貴金属関連事業については、電子デバイス分野の本格回復が来期以降となるが、宝飾業界からの貴金属回収量の増加や金価格の想定を超える上昇が寄与する見込みとしている。食品関連事業については、畜産品と農産品の数量が増加するが、販売価格に上昇一服感があり、緩やかな価格下落を想定している。

 24年3月期通期予想を上方修正したが依然として保守的な印象が強く、通期会社予想に再上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で下期も収益改善基調を期待したい。

■株主優待制度は毎年3月末の継続1年以上保有株主が対象

 株主優待制度については、毎年3月31日現在で1単元(100株)以上を継続1年以上保有する国内在住株主を対象に、株主優待品を贈呈(詳細は会社HP参照)している。

■株価は上値試す

 株価は23年12月の直近安値圏から反発して順調に水準を切り上げている。そして23年11月の昨年来高値に接近してきた。低PERや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価して上値を試す展開を期待したい。1月23日の終値は2621円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS291円42銭で算出)は約9倍、今期予想配当利回り(会社予想の60円で算出)は約2.3%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS3238円61銭で算出)は約0.8倍、そして時価総額は約705億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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