【アナリスト水田雅展の銘柄分析】イーブックイニシアティブジャパンは電子書籍事業の中期成長力を見直し

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 イーブックイニシアティブジャパン<3658>(東1)は電子書籍のリーディングカンパニーである。M&Aを活用して事業領域を拡大し、グローバル展開も加速している。株価は悪地合いに9月8日発表の16年1月期利益予想減額修正も嫌気して水準を切り下げたが、その後は下げ渋り感を強めている。電子書籍事業の中期成長力を見直して反発のタイミングだろう。

■電子書籍配信サービスの大手

 電子書籍書店「eBookJapan」を運営し、パソコン・モバイル向け電子書籍配信サービスなどを展開している。漫画コミックの分野で世界最大級の品揃えに強みを持ち、00年創業以来の累計販売数は15年4月に5000万冊を突破した。電子書籍のリーディングカンパニーである。

 なおM&A子会社の新規連結などに伴って、事業セグメント区分を16年1月期から、電子書籍事業(電子書籍配信、電子書籍提供)およびクロスメディア事業とした。

 電子書籍事業における電子書籍配信は自社電子書籍配信サイト「eBookJapan」での電子書籍販売、書籍の電子化受託、電子書籍配信プラットフォームの受託開発、eBook図書券の販売など、電子書籍提供はパートナー企業(海外含む)への電子書籍配信システム、書籍データ提供(航空機内向けサービス等を含む)などである。

 クロスメディア事業では、コンテンツ/キャラクターを活用した販促プロモーション、中華圏向けプロモーション支援、知育アプリの開発・販売、紙書籍やDVDのオンライン販売、各種システムの受託開発などを展開する。

 総合電子書店NO.1の確立に向けて総合図書などの取扱冊数を大幅に増加させている。15年6月末のジャンル別取扱冊数は、男性マンガが前年同期比22.7%増の6万6490冊、女性マンガが同33.8%増の6万6430冊、総合図書が同87.4%増の23万3780冊、その他が同65.3%増の1万8980冊、合計が同60.7%増の38万5680冊となった。登録会員数は同17.2万人増加の112.6万人となった。

■中期成長に向けてクロスメディア展開とグローバル展開を推進

 中期目標値としては5年後に売上高300億円(電子書籍配信100億円、電子書籍提供100億円、クロスメディア100億円)および売上高経常利益率10%、日本発作品のグローバル電子書籍売上に占める当社電子書籍シェア7%を掲げている。

 中期成長に向けた重点戦略としては、ブランド力向上、品揃え充実、基盤システム刷新によるサイトの使い易さ向上、販促強化による新規会員獲得などで既存事業(自社直販)を一段と成長させるとともに、M&Aやアライアンスも積極活用して、クロスメディア展開による事業領域拡大や、取扱言語拡大によるグローバル展開で業容を拡大する方針だ。

 14年6月にはアニメキャラクターを活用した企業向けタイアッププロモーションなどを展開するトキオ・ゲッツを子会社化、14年10月にはスマートフォンアプリを中心とした童謡・童話など知育コンテンツ企画・開発のフォーリーを子会社化した。

 15年2月には、中国最大級のソーシャルメディア「微博(weibo.com)」の日本にける総括代理店で、日本企業に対する中華圏向けプロモーション支援事業を展開するFind Japanを子会社化した。さらに当社、Find Japan、および中国・上海世紀出版集団グループの出版会社である上海故事会文化伝媒有限公司の3社共同出資で上海に合弁会社(上海漫客)を設立した。中国においてコミックを中心とした電子書籍配信ビジネスを開始する。

 15年4月にはクックパッド<2193>と資本業務提携し、第三者割当増資でクックパッドが第1位株主(保有比率10.39%)となった。クックパッドの有するマーケティング・ノウハウの当社への提供など、業務提携の詳細については今後両社間で協議のうえ決定する。そしてクックパッドの子会社で漫画家・作家向け制作・配信システム構築を手がけるマグネットの第三者割当増資を引き受けて子会社化(保有比率50.98%)した。

 15年5月には本やDVDなどをインターネットで販売するブークスを完全子会社化した。同社運営のオンライン書店「boox」への電子書籍提供事業を拡大するとともに、両社で新たなBtoB展開(紙と電子のハイブリッド書店)の共同開発を推進する。なお16年5月1日付で当社へ吸収合併の予定(9月8日公表)とした。

 15年6月には、邦訳アメリカンコミック出版会社SparklightComics社の作品の電子書籍化と独占先行配信を開始すると発表した。また15年8月には、オリジナル描き下ろし作品で構成された無料webアプリ雑誌「みんなのコミック」(略称:みんコミ)を15年10月から提供すると発表した。30名以上の漫画家が定期的に新作を発表する新雑誌としている。

 9月8日には、インドネシア国内最大手の総合メディア企業グループであるコンパス・グラメディアグループ傘下のELEX社およびM&C社と事業提携して、15年11月からインドネシア語に翻訳されたマンガを中心に電子書店「MangaMon」をオープンすると発表した。

■16年1月期の利益減額だが、中期成長に向けた先行投資期間

 なお15年1月期の四半期別推移(第2四半期から連結)を見ると、売上高は第1四半期(2月~4月、非連結)10億65百万円、第2四半期(5月~7月)13億01百万円、第3四半期(8月~10月)13億53百万円、第4四半期(11月~1月)14億10百万円、営業利益は第1四半期1億02百万円、第2四半期1億10百万円、第3四半期90百万円、第4四半期11百万円だった。15年1月期のROEは8.6%、自己資本比率は59.3%だった。

 9月8日に発表した今期(16年1月期)第2四半期累計(2月~7月)の連結業績は、売上高が前年同期比24.5%増の29億44百万円、営業利益が75百万円の赤字(前年同期は2億12百万円の黒字)、経常利益が76百万円の赤字(同2億13百万円の黒字)、純利益が76百万円の赤字(同1億26百万円の黒字)だった。

 セグメント別売上高は電子書籍事業が同12.4%増の14億61百万円、クロスメディア事業が1億52百万円(前年同期は実績なし)だった。電子書籍事業の伸長や新規連結などで大幅増収だったが、先行投資に伴う人件費や広告宣伝費の増加、のれん償却の増加で減益だった。

 通期連結業績予想は9月8日に売上高を増額、利益を減額修正した。前回予想(3月12日公表)に対して、売上高は5億円~10億円増額して70億円~75億円(前期比36.5%増~46.2%増)、営業利益は0億円~1億円減額して2億円の赤字~0億円(前期は3億13百万円の黒字)、経常利益は0億円~1億円減額して2億円の赤字~0億円(同3億16百万円の黒字)、純利益は0億円~80百万円減額して1億28百万円の赤字~0億円(同1億83百万円の黒字)のレンジ予想とした。配当予想は無配継続としている。

 売上面では、子会社化したブークスとマグネットの収益を第3四半期(8月~10月)から取り込み、中国・上海の合弁会社(上海漫客)も新規連結して12億円~13億円程度の増収要因となる。一方で、販路拡大のために注力しているBtoB展開(紙と電子のハイブリッド化など)において、システム開発および営業活動に遅延が生じていることが2億円~3億円程度の減収要因となる。またその他の新規事業においても立ち上げ遅れが生じる可能性もあるため、合計の増額幅を5億円~10億円とした。

 利益面では、16年1月期と17年1月期を中期成長に向けた先行投資期間と位置付けているため、基盤システムのリニューアル、中期注力領域への投資などを推進し、開発費・人件費・広告宣伝費の増加、新規連結会社ののれん償却費増加などで期初時点において減益予想としていたが、さらに新規連結した子会社の損失計上、第2四半期に開始予定だったBtoB展開の遅延も影響するため減額修正した。

 16年1月期は先行投資期間で減益予想だが、電子書籍市場の拡大も背景として、収穫期と位置付ける18年1月期以降の収益改善が期待される。

■株価は悪地合いや減額修正に対する売り一巡の可能性

 株価の動きを見ると、悪地合いの影響で8月25日の年初来安値750円まで急落した後に一旦は反発したが、16年1月期利益予想の減額修正を嫌気して9日に再び750円まで調整した。ただしその後は下げ渋る展開だ。悪地合いや減額修正に対する売りが一巡した可能性がありそうだ。

 9月25日の終値780円を指標面で見ると、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS463円27銭で算出)は1.7倍近辺である。なお時価総額は約42億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線が戻りを押さえ、1000円近辺でのモミ合いから下放れて水準を切り下げた。ただし下げ渋り感も強めている。電子書籍事業の中期成長力を見直して反発のタイミングだろう。

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