【小倉正男の経済羅針盤】GDP600兆円、後から中身は付いてくるか

■GDP600兆円=饅頭の皮としては十分

神戸の「豚マン」は、包んでいる皮の部分も中身の具も旨い。味は個人個人のものだから、論じてはいけないのだが、一般に関東の「肉マン」は具も皮も豚マンに及ばないのではないか。餃子も「豚マン」と同じことで具、それに具を包んでいる皮が旨くないとお客の評判は上がらない。

さて新しいステージのアベノミクス、「ニューアベノミクス」だが、GDP600兆円(2014年度490兆円)を実現するとしている。GDPを20%以上増加させるというのだから、野心的な目標を掲げたのは間違いない。

饅頭を包んでいる皮としては、「GDP600兆円」というのは悪いものではない。チマコマ実現可能な数字では夢も希望もない。目標というものは、これは無理ではないか、論拠は何か、策はあるのか、と頭を傾げるくらいでよい。

■具の具体化は後から付いてくる?

それでは饅頭の具のほうはどうか。「子育て支援」については、現役世代を応援して人口増加を図るのだから、それはそれで理にかなっている。
現役世代の所得に余裕が生じれば、消費や住宅投資におカネが廻っていく。現役世代は、消費が旺盛な層であり、消費余力を生み出すことになる。

人口増は経済のベースを広げることになる――。トヨタ自動車など経済界各社も子供手当てなどを分厚くする動きをとっている。共働きが一般化して「配偶者控除」の代わりに「子供手当て」に重点が移っている。子育て支援=人口増には経済界も動き出している。

ニューアベノミクスでは、子育て支援の新たな中身=具体策は打ち出されていない。饅頭の具のほうの注文はこれからだ。具の具体化は、後から付いてくるということか。おそらく何らかの政策が出されるだろう。これは待つしかない。

■GDP600兆円の新味の具はあるか

GDP600兆円の実現ということになれば、さらにインパクトを持つ新味の具が必要になる。はたしてそんな具はあるのか。

「ケイタイ電話代が高い」などという話もあった。だが、政治権力がマーケット経済にいちいち口を出すのは、背景に消費を拡大したいということがあるのだろうがどうなのだろうか。そうではなくテレビ業界など儲かっている各分野で規制緩和を行い、新規参入・マーケット活性化を図っていくべきではないか。

「経団連に働きかけて広告を出さないようにしろ」「ケイタイ電話代が高い」――、そうしたことは社会主義経済というか、それ以前の中世権力の経済のやり方だ。マーケット経済に即したやり方で改革を進めれば、新しい具を見つけられるのではないか。

そうした具が後から付いてこないと、皮は旨いが中身の具が乏しいということになる。「GDP600兆円」に見合う中身を手早く打ち出さないと、それこそ再びデフレの暗黒に逆戻りになりかねない。

(経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社で編集局記者・編集者、金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。)

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