【どう見るこの相場】「貯蓄から投資へ」と「投資から貯蓄へ」が交錯も証券株、銀行株の呉越同舟相場に好循環

■「ノルム(社会規範)」解凍の序章か?植田新総裁の金融政策正常化

 日本銀行の黒田東彦前総裁が、手こずっていた「ノルム」は、もう心配しないでいいのだろうか?「失われた30年」で根雪のように固まった節約志向、生活防衛意識が、物価は上がらないし上がるべきではないとする社会規範(ノルム)となったとの見立てで、2013年の異次元金融緩和策の発動でも2017年のマイナス金利の導入でも、ついに11年間も物価安定目標2%を達成できなかった言い訳にされた。

 それが、植田和男新総裁が就任して1年、アッという間にマイナス金利政策が解除された。植田総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で、解除の理由を「賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきた」と説明した。物価は上昇するものの、その上昇分を上回る賃上げが進み、さしもの「ノルム」も氷解するとの金融政策正常化シナリオである。黒田前総裁は、円安・ドル高が進んで輸入物価上昇で値上げラッシュとなった2021年に「日本の家計の値上げ許容度は高まっている」と不規則発言をして釈明に追われたことがあった。今回の金融政策正常化は、マーケットはもちろん日経平均株価の4万円台の最高値を更新し、経済界からも金利復活は、日本経済の構造改革の好機とコメントが発出されており、「歓迎ムードである。

■円安・ドル高のジレンマ:日銀のマイナス金利解除と市場の反応

 ただ正常化シナリオにも一部、違和感があることは拭えない。その一つは、円安・ドル高の進行である。日本の政策金利が引き上げられれば、利下げのタイミング待ちとなっている米国との日米金利差の縮小から円高・ドル安となってしかるべきである。FRB(米連邦準備制度理事会)は、日銀の金融政策決定会合に続いて開催したFOMC(公開市場委員会)で政策金利の据え置きを決定したが、4月、あるいは6月のFOMCで利下げをしなお年内3回の利上げが市場コンセンサスとなっている。日銀の利上げも、今回の1回限りにとどまらないとの観測もあり、為替動向の先行きにカゲを落とす。

 またマーケットの個別株動向にも違和感がある。日銀の金融政策決定会合を前に不動産株が軒並み高となった。金利復活で銀行預金の預金金利は、メガバンクを先頭に直ちに引き上げらたが、この貸出先の住宅ローン金利も引き上げられ家計の住宅ローン負担増にもつながり不動産購入にはマイナスになるはずなのにである。円安・ドル高にしろ不動産株高にしろ、日銀がマイナス金利解除後も緩和的な金融環境は継続すると強調されたことが引き金となった。なかでも為替相場は、1ドル=151円台後半と為替介入レベルまで円安・ドル高となっており、輸入物価の上昇とともにまたまた「ノルム」を刺激しないか取り越し苦労もさせられそうだ。

■資金運用スタンスの先取り:証券・銀行の両セクター株に注目

 岸田内閣が進めている「資産所得倍増プラン」にも、やや気迷いが生じるかもしれない。同プランでは「貯蓄から投資へ」をキャッチコピーにNISA(少額投資非課税制度)口座を1700万口座から3400万口座、NISA買付額を28兆円から56兆円にそれぞれ倍増させることを目標にしているが、メガバンク、地銀各行が揃って預金金利を0.001%から0.02%に20倍に引き上げた。「ノルム」にどっぷりつかってきた家計では、銀行サイドの預金獲得キャンペーンなどが起こってくれば「投資から貯蓄へ」の逆流が起きないとも限らない。

 このチグハグさは、前週末22日のマーケットにも垣間見えた。証券株と地銀株に昨年来高値を更新する銘柄が続出したのである。直接のカタリストは、3月期の期末接近とともにNISA資金呼び込みのために期末配当の増配などの発表が相次いだことだが、「投資」サイドの証券株と「貯蓄」サイドの地銀株のライバルが呉越同舟となったことになる。要するにある時は投資、またある時は貯蓄へと回流する資金運用スタンスの先取り、いいところ取り、好循環にもみえる。そこで今週の当コラムでは、最高値を更新した銘柄のうちでもなおPER・PBR評価や配当利回り基準で割安水準にある証券・銀行の両セクター株にインカムゲイン・キャピタルゲイン込みの順張り投資に的を絞り、リサーチすることにした。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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