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神鋼商事は上値試す、25年3月期も収益拡大基調
- 2024/4/9 11:20
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
神鋼商事<8075>(東証プライム)はKOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、機械・情報、溶接材料・機器などに展開している。成長戦略としては、重点分野と位置付けているEV・自動車軽量化関連および資源循環型ビジネス関連の拡大を推進するとともに、サステナビリティ経営も強化している。24年3月期は鋼材取扱量減少、半導体市場の需要低迷、販管費の増加などを考慮して減益予想としている。ただし第1四半期がボトムだった可能性などを勘案すれば通期利益予想に再上振れの可能性がありそうだ。さらに25年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価はやや上値が重くなったものの高値圏で堅調に推移している。高配当利回りや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価材料であり、利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。なお5月9日に24年3月期決算発表を予定している。
■KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社
神戸製鋼所<5406>系で、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品(鋼板製品、線材製品など)、鉄鋼原料(輸入鉄鋼原料、合金鉄、コークスブリーズなど)、非鉄金属(銅製品、アルミ製品、非鉄金属地金・スクラップなど)、機械・情報(ゴム・タイヤ機械、製鉄・非鉄機械、化学機械、環境関連機器、電池用材料、液晶用材料、PC部品など)、溶接材料・機器(溶接材料、溶接関連機器、溶接ロボットシステムなど)などに展開している。成長戦略としては、重点分野と位置付けているEV・自動車軽量化関連および資源循環型ビジネス関連の拡大を推進するとともに、サステナビリティ経営も強化している。
21年9月には、日新イオン機器(NIC)から半導体・FPD用イオン注入装置の製造を手掛ける中国・NIHY(揚州)の株式を買い取り、社名を神商精密器材(揚州)に変更して子会社化した。21年11月には子会社の神鋼商事メタルズがベトナムにアルミ切断加工販売会社を設立した。21年12月には子会社のSCWが、日本エア・リキード合同会社から大半の溶接関連資機材事業を譲り受けた。23年2月には、子会社の神鋼商事メタルズがシンクスコーポレーションと共同で、ベトナムにアルミ厚板切断加工販売会社を設立(神鋼商事メタルズの出資比率60%)した。23年9月には稲垣商店より、同社の非鉄金属卸売事業に関する権利義務を会社分割により承継させた新・稲垣商店の全株式を取得して連結子会社化した。またタイの現地法人TEMSがフィリピンに事務所を開設した。
23年3月期のセグメント利益(経常利益)は、鉄鋼が22年3月期比24.4%増の51億40百万円、鉄鋼原料が108.5%増の14億98百万円、非鉄金属が11.8%減の26億75百万円、機械・情報が37.1%増の21億70百万円、溶材が148.0%増の8億04百万円、その他(不動産賃貸事業等)が3億78百万円(22年3月期は65百万円の損失)だった。鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属の収益は取扱数量と市況の影響で変動しやすい特性がある。
■収益力・商社機能の強化および投資の促進を推進
中期経営計画(22年3月期~24年3月期)では「明日のものづくりを支え社会に貢献する商社」を目指し、目標数値に最終年度24年3月期経常利益95億円(鉄鋼41億円、鉄鋼原料13億円、非鉄金属23億円、機械・情報13億円、溶材5億円)以上、ROE9%以上、ROA3%以上、自己資本比率20%以上、D/Eレシオ1.0倍程度を掲げている。22年4月にはDX推進の方向性を示す「DXビジョン」を策定した。
基本戦略としてM&Aも積極活用し、収益力の強化(関係会社の機能最適化と戦略的活用、事業ポートフォリオ見直し)、商社機能の強化(グループビジネスの深化の追求、SDGsを意識した環境リサイクルビジネスの拡大、海外拠点主導のビジネス開拓、新事業開発の強化、DX時代に適したビジネスモデルの創出・提案)、投資の促進(北米・アジアでのサプライチェーンの深化と創造、事業投融資の加速、製造拠点の設備投資)などの戦略を推進している。
投資額は3年合計200億円としている。内訳は自動車向け鋼材加工事業(中国、北米)に20億円、環境リサイクル事業(日本、東南アジア)に30億円、アルミ加工事業(北米、中国、東南アジア)に80億円、M&Aによる流通再編(日本、東南アジア)に20億円、その他・海外チャンネル拡大・サプライチェーン強化に50億円としている。
鉄鋼は海外(中国、米国など)拡販や海外現地需要取り込み、鉄鋼原料は鉄スクラップとバイオマス燃料の取り扱い拡大、非鉄金属は半導体・自動車向け部材やエアコン用銅管の取り扱い拡大、機械・情報は建設機械部品の海外取り扱い拡大、溶材はM&Aによる流通再編や販売機能の強化を推進する。
株主還元の基本方針は、財務体質の強化と将来の事業展開に必要な内部留保等を考慮しつつ、連結配当性向30%を目標に安定的な配当を維持するとしている。
■サステナビリティ戦略も推進
重点分野としてはEV・自動車軽量化関連と資源循環型ビジネス関連を掲げ、サステナビリティ戦略として、リサイクル事業(鉄スクラップのグローバル拡販)、バイオマス事業(バイオマス燃料の安定供給、供給事業化)、雑電線屑の再資源化などを推進している。
22年4月には、サステナビリティ基本方針と重要課題(マテリアリティ)を制定するとともに、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置した。22年6月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同するとともに、TCFDコンソーシアムに参画した。22年10月にはダイバーシティ推進プロジェクトチームを発足し、女性およびグローバル人材活躍に向けて30年までの目標を設定した。22年12月には、経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」への賛同を発表した。
23年1月には、ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)が設立したUMI3号脱炭素投資事業有限責任組合(UMI脱炭素ファンド)へ出資した。出資を通じて優れた脱炭素分野技術への支援や新規事業創出を推進する。
23年2月には光変換光合成促進農法社(長野県岡谷市、以下:光変換社)への資本参加と業務提携を発表した。光変換社は、光変換光合成促進農法による農作物栽培用資材および農作物の生産販売を目的として09年に設立された農業法人で、高麗人参を短周期で収穫する短期促成栽培システム(19年に特許登録)を開発している。SDGsを推進している企業であり、本件を開発投資と位置付けて経営支援を行うとともに、新領域となる農業分野への足掛かりとする方針だ。
23年9月には、ちとせグループの統括会社であるCHITOSE BIO EVOLUTION(シンガポール)に出資し、藻類基点の新産業を構築する「MATSURIプロジェクト」に参画した。同グループと協業し、微細藻類によるカーボンリサイクルや微細藻類を使った新規事業開津など、新たな資源循環型ビジネスモデルの構築を目指す。また、東京理科大学創域理工学研究科が23年4月に設置したサステイナブルアーバンシティセンターに対して協賛した。
23年10月には、ESGや人権に関する問題意識の高まりと企業の社会的責任を踏まえて「神鋼商事グループ人権基本方針」を制定した。また「神鋼商事 統合報告書2023」を発刊した。
23年12月には、奥村組<1833>、丸紅クリーンパワー、大成建設<1801>とともに、北海道石狩市における早生樹の植樹実証事業の開始を発表した。植樹した早生樹を石狩市内のバイオマス発電所で燃料の一部として使用することを見据えており、地産地消によるエネルギー事業の可能性を検討する。
24年2月には、環境情報開示システムを提供する国際環境非営利団体であるCDPによる「気候変動」に対する取り組みや情報開示の評価において、咲くエンドに続いて「B」評価を取得した。
24年3月には経済産業省と日本経営会議が選定する健康経営優良法人認定制度において、23年に続いて「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)」に認定された。
■24年3月期利益は再上振れの可能性、25年3月期も収益拡大基調
24年3月期の連結業績予想(2月7日付で売上高を下方、各利益を上方修正)については、売上高が23年3月期比0.7%増の5890億円、営業利益が9.4%減の122億円、経常利益が6.1%減の119億円、親会社株主帰属当期純利益が4.3%減の88億円としている。配当予想(23年11月8日付で第2四半期末5円上方修正、2月7日付で期末50円上方修正)については、23年3月期比15円減配の300円(第2四半期末125円、期末175円)としている。予想配当性向は30.0%となる。
第3四半期累計は売上高が前年同期比0.3%減の4335億30百万円、営業利益が5.7%減の92億82百万円、経常利益が11.5%減の85億63百万円、親会社株主帰属四半期純利益が6.9%減の65億29百万円だった。
自動車や半導体向けの非鉄金属の取扱量減少などで全体として売上高が横ばいにとどまり、各利益は販管費増加なども影響して減益だった。営業外収益では受取配当金が2億35百万円増加、デリバティブ評価益が7億19百万円増加、持分法投資利益が5億27百万円減少、営業外費用では支払利息が6億38百万円増加、為替差損が5億57百万円増加した。特別利益では前期計上の固定資産売却益4億29百万円が剥落、投資有価証券売却益が3億53百万円増加した。
セグメント利益(経常利益)を見ると、鉄鋼は10.4%増の45億27百万円だった。米国子会社の金融収支悪化の影響があったが、国内自動車生産台数の緩やかな回復や造船・建築分野の堅調推移により取扱量が横ばいとなり、鋼材価格上昇効果も寄与した。鉄鋼原料は10.4%減の10億60百万円だった。重点分野と位置付けている資源循環型ビジネスにおいてバイオマス燃料などの取扱量が堅調に推移して増収だが、神戸製鋼所の粗鋼生産減産に伴って主原料の取扱量が減少し、原料価格下落も影響した。
非鉄金属は48.1%減の11億53百万円だった。車載用コネクター関連の銅製品が堅調だったが、空調向け銅製品や自動車向けアルミ製品の取扱量減少などにより減収減益だった。機械・情報は11.4%増の13億50百万円だった。増収増益だった。国内では電池関連材料が減少したものの、メンテナンスビジネスや建機部品関連が好調に推移し、海外では韓国において建機部品輸出が増加した。
溶材は14.7%減の4億90百万円だった。国内の造船・建築向けが堅調で価格も上昇して増収だが、中国向け輸出の減少により減益だった。その他(不動産賃貸事業等)は17百万円の損失(前年同期は3億86百万円の利益)だった。
全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が1365億86百万円で経常利益が21億46百万円、第2四半期は売上高が1428億25百万円で経常利益が28億67百万円、第3四半期は売上高が1541億19百万円で経常利益が35億50百万円だった。経常利益の前年比を見ると第1四半期は46.5%減だったが、第2四半期は20.6%増、第3四半期は7.9%増となる。第1四半期がボトムとなった可能性が高いだろう。
通期は、前回予想に対して売上高を630億円下方修正したが、営業利益を14億円、経常利益を19億円、当期純利益を17億円、それぞれ上方修正した。非鉄金属の取扱量減少などにより売上高は計画を下回るが、利益面は前回予想に比べて減益幅が縮小する見込みとした。鋼材価格の上昇や円安効果などに加えて、販管費の増加が想定を下回ることも寄与する見込みだ。
修正後のセグメント別経常利益計画は、鉄鋼が16億円上方修正して前期比9億円増益の60億円、鉄鋼原料が前回計画を据え置いて前期比横ばいの15億円、非鉄金属が7億円下方修正して前期比12億円減益の15億円、機械・情報が8億円上方修正して前期比1億円減益の21億円、熔材が1億円上方修正して前期比1億円減益の7億円、その他が1億円上方修正して前期比3億円減益の1億円としている。
第1四半期がボトムだった可能性などを勘案すれば通期利益予想に再上振れの可能性がありそうだ。さらに25年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は上値試す
株価はやや上値が重くなったものの高値圏で堅調に推移している。高配当利回りや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価材料であり、利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。4月8日の終値は6970円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS1000円00銭で算出)は約7倍、前期推定配当利回り(会社予想の300円で算出)は約4.3%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS8235円14銭で算出)は約0.8倍、そして時価総額は約618億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)