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【小倉正男の経済コラム】JBS 日本一の社員食堂をつくったクラウド企業
- 2024/4/11 14:34
- 小倉正男の経済コラム
企業はなぜ上場するのか。案外、経営者にとって需要な問である。以前は「社会的信用」を挙げる経営者が多かった。「社会的信用」をテコに企業をさらに成長させる。上場はあくまで通過点ということになる。
ある創業経営者は上場時に「(正直にいうと)盆栽のため」と語っている。ちなみにその経営者は、日本一の盆栽コレクター(当時)で盆栽美術館を創設した人物だった。盆栽のために上場を果たした。盆栽のために自社の事業を大きく拡大する。それはそれで経営者の思いであり、事業発展のエンジンとなっていればよい。
■マイクロソフト「アジュール」最上位パートナー
そんなことを考えたのは、『なぜ最先端のクラウド企業は、日本一の社員食堂をつくったのか』(日刊現代発行・講談社発売)という新刊本に触発されてのものだ。
そのクラウド企業とは、日本ビジネスシステムズ(以下JBS・証券コード5036)。2022年8月に東証スタンダードに上場を果たしている。いわば新進気鋭なのだが、この24年9月期業績計画は売り上げ1268億円(前期比12・4%増)、営業利益51億円(同21・6%増)。売り上げ・収益規模はかなりのものである。ROE(自己資本利益率)16・0%、収益を稼ぐ力も高い。
牧田幸弘社長は、1979年日本アイ・ビー・エムに入社し、トップセールスとして活躍。1990年JBSを創業した。JBSがたったの33年でここまで急成長を遂げたのは、クラウドインテグレーターの先駆企業だったことが大きい。JBSが創業した1990年あたりからシステムインテグレーションへの需要が高まり、その幸運に恵まれた。いまではマイクロソフト「アジュール」最上位パートナー企業の認定を受けている。最高品質のソリューションを提供できるパートナーとして存在感を示している。
■上場したのは「人」の強化
牧田社長がJBSを上場させたのは、「人」の強化にあった。牧田社長の思いは、「人」が絶対的に足りない。さらにそれだけではない。優秀でプロフェッショナルな人材を集めなければならない。そのためには非上場のままではいけない。牧田社長の思い、それは危機意識に近いものにほかならない。
これまでのシステムインテグレーターの仕事というのは、顧客から「こういうシステムをつくってくれ」と受注、顧客の要望・ニーズに沿ったシステムをつくって納入する――。しかし、クラウドが一般化したいまは、そうしたやり方では時代のスピードについていけない。最新機能を持ったクラウドを顧客にリアルタイムに提供するとしたら、「受注したからつくる」では遅い。それでは他社との競争で優位に立てない。
JBSはエキスパートスタッフを顧客企業に常駐させシステム運用サポートを行っている。そうした顧客サービスを展開するにはプロフェッショナルな人材を一人でも多く集めなければならない。社員は2534名(23年12月末)だが、早急に3000名に拡大する意向を固めている。
さらに先を睨むと5000名、中期的には7000~8000名が必要だ。「絶対的に人が足りない。優秀な人材、とくにキャリヤ採用には上場企業でないと話にはならない」。牧田社長のそうした危機意識が、JBS上場の根底にある。
■「社員への投資はコストではない」
現在のJBS本社は、虎ノ門ヒルズ森タワーにある。森タワーでは2フロア合計2000坪を賃借しているのだが、業務で使用しているのは1600坪。400坪は社員食堂「ルーシーズ・カフェ&ダイニング」のスペースとなっている。家賃の高い森タワー、なんとそのフロアの20%は社員食堂が占めている。(24年5月には虎ノ門ヒルズステーションタワーに移転予定)
「ルーシーズ」は、社員限定のカフェ&ダイニングだから「社食」なのだが、「社員食堂の割には」というレベルではない。森タワーの外の美味しい飲食店と勝負して料理の質、値段、雰囲気とも優れたものにするというのが牧田社長のコンセプトである。しかも夜は気軽に一杯飲めるという狙いを貫いている。
社員食堂は福利厚生で利益を追求する必要はない。人件費、材料費、光熱費など諸費用を差し引いて赤字を出さない。しかし、その範囲で外の一流店に負けない美味しい料理をリーズナブルに提供している。(JBSは社宅が凄い。東京都内一等地の神宮前、麻布十番、東麻布、神山町、白金台、湯島、五反田などに一棟借り、あるいは一棟買いしたマンションを社宅にしている)
社員食堂、あるいは社宅、住宅手当などは「法定外福利費」の範疇らしいが、昨今は一般に年々抑制されるトレンドにある。だが、JBSはそのトレンドに逆行して社員の福利厚生に並々ならぬ投資を行っている。「社員への投資はコストではない」というのが牧田社長の考えだ。「人財」を集めれば、企業は成長できるという楽観論が「ルーシーズ・カフェ&ダイニング」に体現されている。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)