TACは調整一巡、25年3月期収益改善期待

 TAC<4319>(東証スタンダード)は「資格の学校」運営を主力として、出版事業や人材事業も展開している。中期成長に向けて、主力の教育事業では事業環境変化に対応した新サービスの提供、出版事業では新規領域への展開、人材事業では医療事務関連の子会社を統合してサービス向上と業務効率性向上を推進している。24年3月期は赤字予想としている。個人教育事業において大学生を主な受講層とする講座が低調なことに加え、法人研修事業における地方の個人を主な顧客としている提携校事業の低迷も影響する見込みだ。ただし積極的な事業展開で25年3月期の収益改善を期待したい。株価は年初来安値を更新したが、高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。なお5月15日に24年3月期決算発表を予定している。

■「資格の学校」を運営

 財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営する個人教育事業、法人研修事業を主力として、出版事業や人材事業(会計系、医療系)も展開している。さらに成長戦略として新事業領域への展開も推進している。

 23年3月期のセグメント別構成比(調整前)は、売上高が個人教育事業52%、法人研修事業23%、出版事業23%、人材事業3%で、営業利益が個人教育事業▲91%、法人研修事業82%、出版事業103%、人材事業6%だった。

■教育事業は事業環境変化に対応して新サービス提供を推進

 23年3月期の教育事業受講者数は22年3月期比4.1%減の19万6706人(個人が4.7%減の11万2628人、法人が3.3%減の8万4078人)だった。

 分野別売上高(前受金調整後)構成比は財務・会計分野が19.5%、経営・税務分野が16.1%、金融・不動産分野が23.4%、法律分野が6.5%、公務員・労務分野が20.0%、情報・国際分野が8.2%、医療・福祉分野が1.3%、その他分野が5.0%だった。

 コロナ禍による事業環境変化に対応し、オンライン学習環境の強化(WEB SCHOOLの機能拡充など)や、法人向け研修における多様な受講方法の整備、新たなサービスの提供、オンライン受講の増加に伴う直営校の床面積の適正化などに取り組んでいる。法人研修分野ではWEB会議システムを利用した研修が多くの企業で定着している。

 さらに新たな取り組みとして、プロeスポーツチーム「忍ism Gaming」とスポンサー契約を締結し、プロeスポーツ選手が資格取得にチャレンジする「シカチャレ」を22年11月より開始した。引退者のセカンドキャリアについても、資格という側面から貢献したいとしている。また22年11月には人生100年時代に役立つ「実用講座」を開講した。当複業(副業、起業、兼業)や、知っておきたい知識シリーズ(株式投資、介護等)など6分野で開講し、順次拡大予定としている。

 23年1月には「TAC CBT(Computer Based Testing=コンピュータ試験)およびIBT(Internet Based Testing=インターネット試験)システム」によるテスト配信サービスを開始した。21年3月より日本全国の主要都市に直営校舎を持つ強みを生かした「TACテストセンター」サービスを行っているが、さらにCBTおよびIBTシステムを用いた試験問題の配信や採点等を行う「TAC CBTおよびIBT配信」サービスを加えることで、これまで培ってきた試験の申込受付や運営管理等のノウハウをパッケージ化した総合的なサービスを提供する。

 24年2月には会計士や税理士をはじめとする士業の方のサポートを中心とする結婚相談所サービス「TACマリッジコンシェルジュ」運営の開始を発表した。これまでに培ってきた人材ネットワークを生かし、士業の方のサポートを中心とする結婚相談所を開設し、士業同士の婚活をサポートする。なお「TACマリッジコンシェルジュ」はIBJ<6071>が運営する日本最大級の結婚相談所ネットワークの正規加盟店である。

■出版事業は事業領域拡大

 出版事業はTAC出版と早稲田経営出版(W出版)が展開している。両社の合算売上高の5億81百万円(TAC出版が5億02百万円、W出版が78百万円)は出版業界12位規模(出典:2022年度丸善ジュンク堂書店出版社売上ベスト300)で、資格書籍を主力とする出版社としては有数の規模となっている。

 事業領域拡大に向けて、高等学校商業科で使用する文部科学省検定済教科書(高校1年生で履修する簿記およびビジネス基礎)分野に参入した。22年4月には高等学校商業科教科書「簿記」および「ビジネス基礎」を刊行、23年4月には高等学校商業科教科書「原価計算」および「財務会計Ⅰ」を刊行した。

 また24年3月には、国内旅行ガイド書「おとな旅プレミアム 第4版」全32点を2024~2025年版に改定の上、発売すると発表した。

■人材事業は会計系・医療系人材紹介などを展開

 人材事業は、子会社のTACプロフェッションバンクが会計系の人材紹介・派遣事業、医療事務スタッフ関西が関西エリアで医療事務に関する労働者派遣事業、診療報酬請求業務請負、診療報酬請求明細書(レセプト)点検業務を展開している。

 なお23年4月に、医療事務スタッフ関西が、診療報酬請求明細書点検業務を展開するクボ医療を吸収合併した。業務の関連性が高いため、人的資源やノウハウを共有することにより、サービス向上と業務の効率性を高める方針だ。

■四半期業績に季節変動要因

 四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7~9月)と第3四半期(10~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。

 また第4四半期(1~3月)から第1四半期(4~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。

■24年3月期赤字予想だが25年3月期収益改善期待

 24年3月期連結業績予想(2月6日付で下方修正)は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が23年3月期比3.0%減の191億13百万円、営業利益が2億10百万円の損失(23年3月期は3億19百万円の利益)、経常利益が2億48百万円の損失(同3億24百万円の利益)、親会社株主帰属当期純利益が1億71百万円の損失(同2億14百万円の利益)としている。配当予想は据え置いて23年3月期と同額の6円(第2四半期末3円、期末3円)としている。

 第3四半期累計は売上高が前年同期比3.9%減の143億69百万円、営業利益が3億21百万円の損失(前年同期は3億41百万円の利益)、経常利益が3億53百万円の損失(同3億52百万円の利益)、親会社株主帰属四半期純利益が2億36百万円の損失(同2億04百万円の利益)だった。各利益は赤字で着地した。個人教育事業において大学生を主要な受講層とする講座が低調だった。

 個人教育事業は現金ベース売上高が2.5%減の76億04百万円、現金ベース営業利益が6億83百万円の損失(同5億25百万円の損失)だった。法人研修事業は現金ベース売上高が2.9%増の35億02百万円、現金ベース営業利益が4.8%増の8億16百万円だった。

 受講者数は、個人受講者が1.2%減の9万2925人、法人受講者が7.7%増の7万6088人で、合計が2.6%増の16万9013人だった。講座別の受講者数(個人・法人合計ベース)には、税理士講座が4.5%増、宅地建物取引士講座が6.5%増、FP講座が13.1%増、情報処理講座が17.8%増となった一方で、簿記検定講座が7.6%減、公認会計士講座が5.2%減、マンション管理士講座が6.3%減、公務員(国家一般職・地方上級)講座が8.6%減となった。

 出版事業(TAC出版、W出版)は売上高が5.6%減の29億41百万円、営業利益が30.5%減の5億03百万円だった。第3四半期は回復傾向となったが、巣ごもり需要の反動減があった第1四半期、第2四半期の影響をカバーするまでには至らず減収減益だった。人材事業は売上高が1.2%減の4億40百万円、営業利益が6.3%減の96百万円だった。会計系人材事業は堅調だったが、医療系人材事業における新型コロナウイルス感染症関連業務の減少、営業費用の増加などにより減収減益だった。

 全社ベースの業績を四半期別に見ると第1四半期は売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が52億06百万円で営業利益が1億23百万円、第2四半期は売上高が49億19百万円で営業利益が1億29百万円、第3四半期は売上高が42億44百万円で営業利益が5億73百万円の損失だった。なお、同社が重視している前受金調整前の現金ベースの売上高は第1四半期が前年同期比6.3%減の44億43百万円、第2四半期が2.3%減の55億46百万円、第3四半期が3.7%増の44億69百万円だった。第3四半期は売上が回復傾向となった。

 通期は前回予想に対して売上高を5億07百万円、営業利益を5億90百万円、経常利益を5億78百万円、親会社株主帰属当期純利益を3億81百万円、それぞれ下方修正した。個人教育事業において大学生を主な受講層とする講座が低調なことに加え、法人研修事業における地方の個人を主な顧客としている提携校事業の低迷も影響する見込みだ。ただし積極的な事業展開で25年3月期の収益改善を期待したい。

■株価は調整一巡

 株価は年初来安値を更新したが、高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。4月24日の終値は184円、前期推定配当利回り(会社予想の6円で算出)は約3.3%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS341円58銭で算出)は約0.5倍、そして時価総額は約34億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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