【どう見るこの相場】市場改革とNISA拡大で加速する上場企業の株主還元策ラッシュ

■上場企業、株主還元策でサバイバル競争!

 株主還元策の大盤振舞いである。5月15日にほぼ一巡した3月期決算会社の決算発表では、上場各社の業績ガイダンスより目立ったのが、増配、自己株式取得、株式分割などの資本政策のオンパレードであった。トヨタ自動車<7203>(東証プライム)の自己株式取得の取得総額は1兆円に達し、ユー・エス・エス<4732>(東証プライム)は、上場以来24期連続の増配をさらに25期に伸ばすとアピールした。トヨタの1兆円は、同業他社のマツダ<7261>(東証プライム)のほぼ時価総額並みで、同社1社をそのまま丸ごと買い付けることができるほどに巨額である。

■新NISA資金獲得狙い、配当増や分割加速

 この大盤振舞いは、東証が、グローバル市場としての競争力を強化するために上場会社へ「資本コストと株価を意識した経営」を要請する市場改革を進め、さらに岸田内閣が、「資産所得倍増プラン」で今後5年間でNISA(少額投資非課税制度)の総口座数を現在の1700万口座から3400万口座へ、NISA買付額も同じく28兆円から56兆円へそれぞれ倍増させることを目指していることが背景となっている。今年4月1日から新NISAが導入され、年間投資額は一般NISAで120万円から240万円、非課税保有限度額は600万円から1200万円へ倍増され、非課税保有期間も5年から無期限に緩和された。

 この新NISA資金の自社呼び込みに後手を踏まないために上場会社は、株式還元のサバイバル競争を演じているようなもので、株主還元方針変更の発表が相次ぎ、増配・自己株式取得・株式分割などのラッシュとなっている。業績下方修正でも増配、減益転換予想業績でも増配、業績赤字転落でも配当据え置、さらに業績下方修正をカバーするための自己株式取得などのケースもあって、個人株主を繋ぎとめるためにあの手この手を駆使する必死さが伝わってくる。

 新NISA資金を呼び込むためには、個人投資家が投資しやすい投資単位金額とすることが前提となる。このため株式分割による投資金額の引き下げが続き、NTT<9432>(東証プライム)は、2023年6月30日を基準日に1株を25株に分割する大幅株式分割を実施してサプライズとなったが、その後も任天堂<7974>(東証プライム)、富士通<6702>(東証プライム)、三菱重工業<7011>(東証プライム)なども1対10の大幅分割を実施した。この株式分割銘柄の権利落ち後の株価は、大幅分割のあとだけに即権利落ち埋めとはなっていず、落ち理論価格水準での推移にとどまっており、あとは投資しやすくなった株価を業績実態や株主還元策、テーマ性などが支える展開となっている。

 今年9月26日を権利付き最終売買日とする株式分割銘柄は48社に達し、その中でも、5月27日と6月26日に権利付き最終売買日を控える19社は、権利行使の判断が迫られる。これらの銘柄は、すでに分割を発表しており、増配や自己株式取得などの株主還元策を予定している銘柄も多く、権利取りや値幅取りによる「ビフォー・アフター」戦略が有効と期待されている。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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