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冨士ダイスは急伸してモミ合い上放れ、25年3月期大幅増益・大幅増配予想
- 2024/5/28 10:02
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
冨士ダイス<6167>(東証プライム)は超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、中期方針に「変化に対応できる企業体質への転換」を掲げ、成長戦略として経営基盤の強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業の確立に取り組むとしている。24年3月期は自動車関連の需要低迷や、熊本工場冶金棟建設に伴う一時的費用などで減益だったが、25年3月期は需要回復や原価低減などにより大幅増益予想としている。積極的な事業展開で収益回復基調だろう。なお配当方針を変更して25年3月期大幅増配予想とした。株価は急伸してモミ合いから上放れの形となった。高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、基調転換して上値を試す展開を期待したい。
■超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカー
超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。23年3月期末時点で、グループは同社および子会社7社(国内2社、海外5社)で構成され、海外はタイ、中国・上海、インドネシア、インド、マレーシアに展開している。なおインドについては、現地の経済環境などを鑑みて16年8月から事業を休眠しているが、今後は市場調査を行い、事業再開を予定している。24年3月には、中国の現地子会社である富士摸具貿易(上海)有限公司が広東省・東莞市に新たな営業拠点を開設し、営業を開始した。また24年4月にはマレーシアの現地子会社であるフジロイ・マレーシアが、営業活動の中心を従来のペナン事務所から首都クアラルンプール事務所へ移し、カバーエリアを拡大した。
生産拠点は、国内が郡山製造所・郡山第2工場(福島県郡山市)、秦野工場・秦野第2工場(神奈川県秦野市)、名古屋工場(愛知県名古屋市)、岡山製造所(岡山県倉敷市)、熊本製造所(熊本県玉名郡)、子会社の新和ダイス(山梨県甲州市)、冨士シャフト(福島県二本松市)で、海外がタイとインドネシアとなっている。23年9月には岡山製造所に新たなCIP装置を導入して本格稼働した。岡山製造所の生産能力を増強するとともに、次世代自動車への対応強化を図る。23年11月には熊本製造所の冶金棟のリニューアルが完了した。DX化による省人化やレイアウトの最適化による生産性向上と粉末冶金技術(粉末・成形・焼結)の向上により、背生産能力の最大化を目指す。
■超硬合金とは
超硬合金というのは、炭化タングステンに代表される硬質の金属炭化物と、コバルトなどの鉄系金属を粉末状にして混ぜ合わせ、型に入れて圧縮・成型し、粉末冶金法(融点より低い温度で焼いて固める方法)によって製造される金属材料である。ステンレスや鋼鉄を凌ぐ硬さを持ち、耐摩耗性に優れるという特性があり、高い精度が求められる金型や工具の材料として適しているため、輸送用機械、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電気・電子部品など幅広い産業分野で使用されている。
製品としては精密加工が施されて、主に塑性(切屑の出ない)加工に用いられる高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金製耐摩耗工具となるほか、一部は中間製品である超硬合金チップとしても販売される。なお、超硬合金製耐摩耗工具の性能や寿命に関しては、顧客の設計思想や生産プロセスが色濃く反映されるため、超硬合金製耐摩耗工具の大部分は顧客ごとのカスタムメイドとなっている。
■幅広い産業分野に多品種少量の高付加価値製品を提供
同社の製品分類は、超硬製工具類(線材やパイプの生産用工具として使用されるダイス・プラグ、鉄鋼向けの熱間圧延ロール、人工ダイヤモンドやcBNの生産用工具として使用される超高圧発生用工具など)、超硬製金型類(自動車部品製造用金型、飲料缶や食用缶などの製缶金型、車載電池用金型、ガラスレンズ生産用の光学素子成形用金型、半導体・電子部品用金型など)、その他の超硬製品(超硬合金チップなど)、超硬以外(鋼製品、セラミック製品など)としている。
24年3月期の製品別売上高は、超硬製工具類が47億88百万円、超硬製金型類が39億20百万円、その他超硬製品が40億04百万円、超硬以外の製品が39億64百万円だった。主力製品は超硬製工具類のダイス・プラグ、熱間圧延ロール、超高圧発生用工具、超硬製金型類の自動車部品製造用金型、製缶金型、車載電池用金型、超硬製品の超硬合金チップなどとなっている。
また23年3月期の顧客産業分類別売上高構成比は輸送用機械が18.0%、鉄鋼が17.3%、非鉄金属・金属製品が15.2%、生産・業務用機械が13.8%、電機・電子部品が12.3%、その他が7.9%、金型・工具向け素材が15.5%だった。取引社数は約3000社に達し、国内の超硬耐摩耗工具市場で長期に亘ってトップシェア(同社推定30%以上)を維持している。なお地域別売上高構成比は日本が80.9%、アジアが17.1%、その他が2.1%だった。
同社は顧客ニーズを的確に捉えて、個別カスタマイズの多品種少量生産に対応する研究開発~生産~営業体制を構築し、高品質の製品を顧客に提供している。そして、超々微粒から中粒や超粗粒まで顧客ニーズに最適な粒子径や硬さの材種を提供できる新材料開発・粉末冶金技術・加工技術・品質対応力、設計~原料粉末調粉~焼結~機械加工~製品検査の一貫生産体制、豊富な製品ラインナップ、特定の業界・顧客に依存しない収益安定性などを特長・強みとしている。
さらに同社は、競合が少ない超硬合金製耐摩耗工具で多品種少量の高付加価値製品を提供しているため、切削工具・素材メーカーが多い業界平均に比べて販売単価が高く、販売価格が安定的に推移していることなども特長としている。また財務面では、23年3月期末の自己資本比率77.7%と盤石の財務基盤を構築していることも特長だ。
23年11月には、日本機械工具工業会主催の「2023年度日本機械工具工業会大賞」において高熱膨張ガラス成形用新硬質材料「フジロイTR05」が「技術功績大賞」を受賞、廃棄物削減・再資源化率向上の取り組みが「環境特別賞」を受賞、モノづくり日本会議/日刊工業新聞主催の「2023年度超モノづくり部品大賞」において「フジロイTR05」が「奨励賞」を受賞、24年1月には日刊工業新聞社主催の「2023年第66回十大新製品賞」において「フジロイTR05」が「モノづくり賞」を受賞した。
■中期経営計画(25年3月期~27年3月期)
24年5月策定した中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、中期方針に「変化に対応できる企業体質への転換」を掲げ、成長戦略として経営基盤の強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業の確立に取り組むとしている。
目標数値には最終年度27年3月期の売上高200億円、営業利益20億円、ROE7.0%を掲げた。また、成長投資と株主還元の両方を追及する観点から配当方針を見直し、中期経営計画2026の期間における配当を、株主資本配当率(DOE)4%を目途とすることに加え、積極的かつ機動的な自己株式取得を行うことで利益還元を強化する方針とした。また5月23日には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」をリリースした。
なお同社は22年4月の東証の市場区分見直しに伴い、21年12月16日付で新市場区分の上場維持基準適合に向けた計画書を策定していたが、24年2月27日に計画の進捗状況を公表し、23年12月末時点でプライム市場上場維持基準に適合していることを確認した。そして今後も安定的にプライム市場上場維持基準に適合していけるよう、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に努めていくとしている。
■24年3月期減益だが25年3月期大幅増益・大幅増配予想
24年3月期の連結業績は売上高が23年3月期比2.9%減の166億78百万円、営業利益が29.7%減の8億09百万円、経常利益が28.0%減の8億82百万円、親会社株主帰属当期純利益が45.1%減の7億09百万円だった。配当は創業75周年記念配当10円を実施し、23年3月期と同額の32円(期末一括、普通配当22円+記念配当10円)とした。配当性向は89.6%となる。
自動車部品関連金型などの需要が低調に推移し、熊本工場冶金棟建設に伴う一時的費用なども影響した。
製品別売上高は、超硬製工具類が4.8%増の47億88百万円、超硬製金型類が7.1%減の39億20百万円、その他超硬製品が6.0%減の40億04百万円、超硬以外の製品が3.9%減の39億64百万円だった。超硬製工具類は海外向け溝付きロールや一部の鋼管用引抜工具が好調だった。超硬製金型類はモーターコア用金型が好調だったが、二次電池向け金型が顧客の生産地変更の影響で大幅に減少したほか、自動車部品関連金型が自動車部品メーカーの在庫調整の影響で低調だった。その他超硬製品は半導体製造装置向けが堅調だったが、中国向け素材販売が低調だった。超硬以外の製品は、一部の鋼製自動車部品用工具・金型が堅調だったが、引抜鋼管が低調だった。
なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が41億07百万円で営業利益が2億90百万円、第2四半期は売上高が41億03百万円で営業利益が1億51百万円、第3四半期は売上高が41億13百万円で営業利益が1億49百万円、第4四半期は売上高が43億55百万円で営業利益が2億19百万円だった。
25年3月期の連結業績予想は売上高が24年3月期比7.9%増の180億円、営業利益が26.1%増の10億20百万円、経常利益が30.4%増の11億50百万円、親会社株主帰属当期純利益が17.0%増の8億30百万円としている。配当予想は24年3月期比8円増配の40円(期末一括)としている。24年3月期の32円には記念配当10円が含まれているため、普通配当ベースでは18円増配の形となる。予想配当性向は95.7%となる。
25年3月期は需要回復や原価低減などにより大幅増益予想、そして大幅増配予想としている。積極的な事業展開で収益回復基調だろう。
■株価は急伸してモミ合い上放れ
株価は急伸してモミ合いから上放れの形となった。高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、基調転換して上値を試す展開を期待したい。5月27日の終値は793円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS41円78銭で算出)は約19倍、今期予想配当利回り(会社予想の40円で算出)は約5.0%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1039円32銭で算出)は約0.8倍、時価総額は約159億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)