ファーストコーポレーションは調整一巡、25年5月期収益拡大基調

 ファーストコーポレーション<1430>(東証スタンダード)は造注方式を特徴として分譲マンション建設などを展開するゼネコンである。将来像である年商500億円企業の実現に向けて中核事業強化の継続、再開発事業への注力、事業領域拡大による新たな価値創出、人材の確保・育成および働き方改革などを推進している。24年5月期は期ズレの影響で減益見込みだが、受注残高が高水準であり、25年5月期は造注による特命工事の増加による完成工事総利益率の向上を目指すとしている。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。株価は年初来安値圏で軟調だが、高配当利回りなど指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■造注方式が特徴のゼネコン

 東京圏(1都3県)中心に分譲マンション建設などを展開するゼネコンである。造注方式による大手マンション・デベロッパーからの特命受注と高利益率、品質へのこだわりによる安心・安全なマンション供給を特徴としている。

 造注方式というのは、当社がマンション用地を開発し、マンション・デベロッパーに対して土地・建物を一体とする事業プランを提案し、マンション・デベロッパーから特命で建築を請け負うという受注方式である。入札方式に比べて好条件での請負が可能となる。

 品質に関しては「安全と品質の最優先」を掲げて、施工品質管理標準・マニュアル類の整備、階層別研修会の実施、施工検討会による安全で堅実な施工計画の策定、巡回検査による正確性の担保など、良質で均一な品質を維持するための取り組みを推進している。また第三者機関による検査導入については、施主が第三者機関による検査を実施しない場合でも、建造物の安全性を確保するために重要な杭工事、配筋工事、レディーミクストコンクリートを対象として、当社が自前で第三者機関による検査を導入するなど、安心・安全なマンション供給に向けた体制を整備している。

 20年10月には、東京理科大学の認定ベンチャーであるサイエンス構造と、新たな免震集合住宅の工法として「ジーナス(ZENAS)工法」を開発し、建築構造物の「新構造システム」に関する特許および実用新案を共同出願した。

■年商500億円企業目指す

 23年5月期は建設事業の売上高が197億96百万円で営業利益(全社費用等調整前)が22億42百万円、不動産事業の売上高が49億94百万円で営業利益が6億83百万円、その他(設計業務、不動産賃貸、マンション管理運営など)の売上高が7億52百万円で営業利益が3百万円だった。不動産売上は大型案件によって変動する可能性がある。

 建設事業の受注高は8件合計355億08百万円(うち造注が94億71百万)だった。なお22年11月に受注した仮称:千葉駅東口西銀座B地区優良建築物等整備事業新築工事(26年3月完成予定)については、補助事業として入札手続を経たため一般請負にカウントしている。期末受注残高は366億78百万円で過去最高となった。

 中期経営計画「Innovation2023」の目標値には、26年5月期の売上高372億円(完成工事高245億円、不動産売上102億70百万円、共同事業収入20億円、その他売上4億30百万円)、売上総利益42億28百万円、売上総利益率11.4%(完成工事総利益率10.0%、不動産売上総利益率13.2%、共同事業収入総利益率18.5%)、営業利益26億35百万円(建設事業23億75百万円、不動産事業13億58百万円、その他▲42百万円、調整額▲10億56百万円)、経常利益25億60百万円、親会社株主帰属当期純利益17億50百万円、受注高200億円(うち造注65億円)を掲げている。

 24年5月期は特命工事減少や資材価格上昇の影響により完成工事総利益率の低下を見込むが、25年5月期以降は造注による特命工事の増加により完成工事総利益率の向上を目指す。ROE(自己資本純利益率)は20%以上、自己資本比率は50%以上、配当性向は30%以上を目指す。

 将来像である年商500億円企業の実現に向けて、基本方針として中核事業(造注方式、建築事業)強化の継続、再開発事業への注力、事業領域拡大(大規模修繕や収益不動産等の周辺事業、M&A、新たな建築技術開発など)による新たな価値創出、人材の確保・育成および働き方改革を推進し、業容の拡大と利益水準の向上に継続的に取り組む。

 中核事業の造注方式の強化では、東京郊外の好立地アクティブ・シニア向けマンションなどを推進するほか、九州エリアへ進出した。再開発事業への注力では、JR前橋駅北口地区第一種市街地再開発事業に共同施工者として参画し、20年11月に施設建築物新築工事を着工(JV受注、24年完成予定)した。

 21年9月には、新ジャンルの分譲マンション「CANVAS」ブランドを立ち上げた。暮らす方々の身体的・精神的・社会的な健康状態がバランス良く調和の取れた状態であることを意味する概念「ウェルビーイング」をブランドコンセプトとして、20年11月設立した子会社ファーストエボリューションが竣工後の管理・販売代理・入居者サービス提供を行う。第一弾として中央住宅および中央日本土地建物との共同事業「ウェルビーイングシティ構想」を始動し、分譲マンション「CANVAS南大沢」(東京都八王子市)が22年11月に竣工した。

 23年9月には小林工業(群馬県前橋市)と共同住宅建設に係る請負工事受注に関して業務提携した。また23年12月には吉田組(群馬県桐生市)と共同住宅建設に係る請負工事受注に関して業務提携した。

 サステナビリティ経営に関しては、業務執行取締役をメンバーとするサステナビリティ委員会、および下部組織として気候変動対策部会、人的資本対策部会などを設置し、取り組みを強化している。

■資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応

 23年4月1日施行の東証証券取引所の規則改正に伴い、23年10月20日付で東証スタンダード市場に移行した。

 22年4月に実施された東京証券取引所の市場再編ではプライム市場を選択し、プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書を開示(21年12月21日付)していたが、直近基準日(23年5月31日)時点で流通株式時価総額がプライム市場上場維持基準を充たしていない状況(スタンダード市場の上場維持基準はすべて適合している状況)だったため、同社株主が不安を持つことなく安心して同社株式を保有・売買できる環境を整えることが重要だと判断した。

 スタンダード市場上場会社となった以降も、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に資する取り組みを進め、将来、プライム市場への上場を目指すとしている。

 24年5月には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」をリリースした。中期経営計画目標値の着実な達成による資本収益性向上とM&A、人的資本投資などの成長投資によりROE20%以上を目指すほか、株主還元強化やIR活動推進により市場評価を高め、企業価値向上を図っていく方針としている。

■24年5月期減益予想だが、25年5月期収益拡大基調

 24年5月期連結業績予想(5月16日付で下方修正)については売上高が23年5月期比11.2%増の284億円、営業利益が29.4%減の14億円、経常利益が30.8%減の13億70百万円、親会社株主帰属当期純利益が33.3%減の9億10百万円としている。配当予想は23年5月期比4円減配の31円(期末一括)としている。予想配当性向は40.7%となる。

 第3四半期累計(23年5月期末より連結決算に移行したため前年比増減率は非記載)は売上高が209億02百万円、営業利益が12億52百万円、経常利益が12億32百万円、親会社株主帰属四半期純利益が8億64百万円だった。

 前年同期の非連結業績(売上高178億23百万円、営業利益13億38百万円、経常利益13億21百万円、四半期純利益9億13百万円)との比較で見ると、販管費増加(前年同期9億75百万円、当期10億67百万円)などの影響で減益の形だが、完成工事高(前年同期143億69百万円、当期167億98百万円)および完成工事総利益(前年同期15億53百万円、当期16億70百万円)は順調に進捗した。

 セグメント別に見ると、建設事業は売上高が167億98百万円、利益(全社費用等調整前営業利益)が16億27百万円、不動産事業は売上高が39億68百万円、利益が5億34百万円だった。建設事業の受注高は5件合計181億19百万円、受注残高は372億91百万円となった。

 全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が59億40百万円で営業利益が2億11百万円、第2四半期は売上高が76億51百万円で営業利益が4億59百万円、第3四半期は売上高が73億11百万円で営業利益が5億82百万円だった。

 通期は前回予想(23年7月14日付公表値)に対して売上高を42億円、営業利益を4億70百万円、経常利益を4億50百万円、親会社株主帰属当期純利益を3億20百万円それぞれ下方修正し、前回予想に比べて減益幅が拡大する見込みとした。

 完成工事高が前回予想比2億70百万円増加の216億70百万円の見込みとなったほか、不動産事業のうちの共同事業収入も販売戸数の順調な増加で前回予想比2億88百万円増の23億38百万円の見込みとなったが、不動産事業の事業用地売上の一部成約が次期にズレ込む見込みとなり、これに伴って各利益とも前回予想を下回る見込みとなった。また親会社株主帰属当期純利益については、連結子会社ファーストエボリューションの一部の固定資産に係る減損損失43百万円を計上することも影響する。

 なお6月7日に公表した24年3月期の受注実績(5月31日現在)は7件合計で208億82百万円(計画は8件合計で210億円)となった。24年5月期は不動産事業における事業用地売上の期ズレの影響で減益見込みだが、受注残高が高水準であり、25年5月期は造注による特命工事の増加による完成工事総利益率の向上を目指すとしている。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。

■株主優待制度は毎年11月末の株主対象

 株主優待制度(詳細は会社HP参照)については、毎年11月末現在の株主を対象として、保有株式数および保有期間に応じてクオカードを贈呈している。

■株価は調整一巡

 株価は年初来安値圏で軟調だが、高配当利回りなど指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。6月17日の終値は743円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS76円10銭で算出)は約10倍、前期推定配当利回り(会社予想の31円で算出)は約4.2%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS664円54銭で算出)は約1.1倍、そして時価総額は約99億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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