【小倉正男の経済コラム】米国9月利下げ開始機運 円安には干天に慈雨

■円安=前週は160円台から161円台に加速

 「円安」が継続している。前週は1ドル160円台から161円台にジワリと加速をみせている。週末の米国雇用統計では雇用者数、賃金の伸び率がやや鈍化、失業率が4・1%に上昇した。「9月利下げ開始の確率が高まった」という観測からナスダック、S&P500が過去最高値を更新した。長期金利(10年物国債金利)が低下し、1ドル160円台後半まで「円安」が緩和されている。

 だが、1ドル160円台~161円台は、これまでの趨勢では「超円安」ゾーンにほかならない。日本政府・財務省の市場介入が意識されたが、いまのところ市場介入は手控えられている。

 この金融当局の為替市場介入については、米国のイエレン財務長官は、4月末に日本を名指しこそしていないものの「介入は稀であることを願う」と発言。5月にも「介入は稀であるべきで、介入は決して日常的に用いられる手段でない」と釘を刺している。米国は「市場主義」を貫いている。

■市場介入しても円安には効果は限定的

 日本のほうは「社会主義」というか、「人為主義」だ。「(通貨が)過度な変動があった場合にはあらゆるオプションを排除せず適切な行動をとる」(鈴木財務大臣・神田財務官)と再三再四繰り返している。「市場介入は躊躇しない」というわけだが、市場に逆らってうまくいったという話は聞いたことがない。

 市場介入は、いわば市場は投機など過剰に動くものであり、人為で市場を正すという「反市場主義」という立場である。組織の中では正当なことであるに違いない。ただ、民間企業などの感覚からすれば、「ムリ・ムダ・ムラ」の範疇に入る。市場介入は円安に対して牽制効果しかない。しかもその牽制効果も長続きはしない。効果は限定的で「仕事をやっています」みたいな結果になりかねない。

 今回はまだ分からないが、いまのところ市場介入が行われていないのは良かったのではないかと思われる。結局のところ市場は見透かしているわけだから、市場のことは市場に任せるしかない。

■米国の9月利下げ開始は干天に慈雨

 米国の利下げ開始が9月になる確率が高まったことは日本にとっては悪いことではない。米国の利下げがずれ込んで、日本の追加利上げが単独で行われることは最も避けたい事態ではないかと思われる。仮に米国の利下げに連動して、日本の利上げが行われることになれば“相乗効果”が期待できる。おそらくこれが最も望ましいタイミングになる。

 日銀の植田和男総裁は、「7月追加利上げ」の可能性を示唆して円安を牽制している。しかし、これはそれこそ円安への牽制とみられる。一般には7月利上げは無理と理解されている。7月追加利上げについては、市場はほとんど無防備に近い。

 円安を是正するなら、日本の利上げより米国の利上げのほうが有効性は圧倒的だ。米国の利下げが9月に実施されることになれば、タナボタに近い話である。“相乗効果”というより、むしろ米国金利低下のほうが為替(円安)にも株価にも大きく影響する。七夕の季節にタナボタというのも暑気を高めかねないが、米国の労働需給緩和による9月利下げ機運は日本にとっては干天に慈雨、あるいは渡りに舟ということになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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