【小倉正男の経済コラム】「確トラ」利下げと減税の“総取り”政策狙う

■「確トラ」、最初に行うのは利下げと減税

 「もしトラ」、「ほぼトラ」といわれていたが、いまや「確トラ」とまでいわれている。一方の民主党のほうはバイデン大統領が大統領選挙から撤退を表明。ハリス副大統領を大統領候補として支持するとしている。共和党の大統領候補トランプ前大統領はすぐさま「パリス副大統領のほうが倒しやすい」という認識を示している。

 選挙のことであり、先は何ともいえない。ただ「確トラ」ではないが、トランプ氏に勢いが加わっているのは間違いない。11月の大統領選挙でトランプ氏が大統領に返り咲いたら、何が起こるのか。おそらくトランプ氏が最初に手を付けるのは金利(利下げ)と減税とみられる。

 インフレが鈍化傾向に転じていることから、市場では9月に利下げが行われるという見方が強まっている。だがトランプ氏は、大統領選挙前の9月利下げには当初から反対している。利下げによる景気刺激効果は、現職のバイデン大統領に有利に働くという思惑からの反対だった。しかし、いまやバイデン大統領は候補を降り、「確トラ」の状況だ。だがそれでも9月利下げには反対の立場は変わらない。

■利下げと減税=トランプ氏は“良いこと総取り”を狙う

 トランプ氏としたら、11月に大統領に返り咲いたら、あらためて利下げと減税を押し出したい。利下げと減税で景気を好転させ、バイデン大統領時代の経済(景気)とは画然と違うことを印象付けたい。いわば、“良いこと総取り”政策にほかならない。「確トラ」への状況変化でトランプ氏はそう読んでいるとみられる。

 日本との関連でいえば、トランプ氏はドルが円に対して高い、すなわち「ドル高円安」について問題視してきている。ドル高は米国製造業には「アンフェア」と捉えている。米国が利下げを行えば、「ドル安円高」に働くファクターになる。

 トランプ氏が利下げと減税による“良いこと総取り”で景気を押し上げれば、短期的には人気をピークに持っていける。ただ、景気を一気に押し上げればインフレを再燃させることになりかねない。中長期では再び金利上昇を呼ぶことになる。減税も闇雲に急ぐとすれば、財政悪化懸念を生じさせる。“良いこと総取り”はおそらく永くは続けられない。

■トランプ氏の利下げ、減税を見極める必要

 トランプ氏は、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の任期については「任期を全うしてもらう」という立場とみられる。パウエル議長はトランプ大統領時代の2017年に任命された経過がある。FRBは政治とはもともと距離を置いており、独立性は担保されている。ただトランプ氏は「確トラ」を背景に睨みを最大限効かせるに違いない。FRBとしては、程度問題は分からないが「変数」が加わった感がある。

 ともあれ、日本にとっては過剰な円安も物価高に繋がって困るが、過剰な円高も輸出型製造業などを直撃する面があり避けたい。トランプ氏の「米国第一主義」は、関税引き上げなど自国産業を守る保護主義リスクが相当に高い。日本にとって大枠でマイナスになる可能性が否定できない。

 いまの日本政界などをみてトランプ氏に渡り合えるような人物がいるのか、といえば誰も存在しない。新大統領がトランプ氏になるのか、ハリス氏になるのか別にしても、米国が利下げに向かうのは間違いない。ただトランプ氏が大統領になれば、利下げ、減税とも過激、あるいは過剰なものを目指すことになりかねない。日本とすれば、「円安」是正について利上げなど拙速策は手控えざるを得ない。いまは見極めに集中するしかない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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