【小倉正男の経済コラム】パウエル議長「金融政策を調整する時が来た」

■パウエル議長「金融政策を調整する時が来た」

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「金融政策を調整する時が来た」と発言した。(8月23日・ワイオミング州ジャクソンホール講演)

 端的に言えば、9月に利下げに踏み込むと明言したに近い発言である。インフレを叩いてコントロールする時期は大枠で終了し、景気回復に取り組むという金融政策の転換を宣言した。

 週末のNY株式は一時490ドルを超える大幅値上がりとなった。株式市場としては待ちに待った利下げが実現する。NY株式が賑わうのは当然である。

 では日本の株式市場もというと、そういうわけにはいかない模様だ。問題は為替である。

 米国は9月利下げということで、早速のところドル安円高となっている。

 1ドル144円台という円高に転じている。少し以前までは、政府、日銀などが1ドル160円という過剰な円安を懸念していた。しかし、今度は逆に過剰な円高を懸念する局面を迎えている。

■利下げの米国、利上げの日本

 パウエル議長の「金融政策を調整する時期が来た」という発言は、来るべきものが来たということにほかならない。しかし、政府、日銀などにはあらためて大きな衝撃だったに違いない。

 つい先日の7月末、日銀は政策決定会合で追加利上げ、国債買い入れ減額計画を決めた。政策金利を0・25%に引き上げた。

 日銀は利上げを急いだという見方が拭えない。その時点で政府は「円安」という懸念を抱えており、いわば政治に引きずられた感がある。金融政策ではなく、為替政策に駆り出されたようなものだ。

 日銀は7月末政策決定後の会見で、今後の金融政策運営について「経済・物価の見通しが実現していくとすれば引き続き政策金利を上げていく」(植田和男総裁)と発言している。

 「円安」を意識したのか、年内再利上げについて「ここから先のデータ次第」(植田総裁)と視野に入れるような発言に踏み込んでしまった。その後、株式市場の大幅な混迷から日銀はそうした発言の火消しに走らざるを得なかった。

■7月末利上げは「金融政策を調整する時が来た」と言えるものだったか

 結局のところ、パウエル議長が牽引するFRBの9月利下げを待って動けばよいのに7月末に動いてしまった。

 パウエル議長は「金融政策を調整する時が来た」と発言した。迷いなどが見られない言い方である。政府、日銀が平仄を合わせたような7月末利上げは「金融政策を調整する時が来た」と果たして言えるものだったか。

 パウエル発言でNY株式は大幅な上昇に転じている。しかし、東京株式はドル安円高を抱えている。円高が過剰な形で動き出せば、東京株式には厳しい状況になりかねない。政府は「新NISA」などを推奨して国民に購入させている。このあたりの政策の整合性については知らない振りというわけにはいかない。

 つい数年前は1ドル120円台というのが円の通常だった。だが、1ドル160円という円安をすでに見たわけであり、ドル安円高が日本の製造業などにどう影響するのか。案外、峻険な登り路になる可能性がないとはいえない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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