【アナリスト水田雅展の銘柄分析】TACは12月1日施行ストレスチェック義務化に対応したサービスを開始

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 TAC<4319>(東1)は「資格の学校」運営を主力としている。新領域への事業展開を強化し、15年12月施行の改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化)に対応したサービスも開始する。株価はモミ合い上放れの動きで19日は前日比10円(4.13%)高の252円まで上伸した。ストレスチェック義務化関連も材料視されたようだ。新領域への事業展開戦略や収益改善基調も評価して7月の年初来高値圏を目指す展開だろう。なお11月4日に第2四半期累計(4月~9月)の業績発表を予定している。

■財務・会計分野を中心に幅広い分野で「資格の学校」を運営

 財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営している。また法人研修事業、出版事業、人材事業も展開している。

■M&Aも積極活用して新領域への事業展開を強化

 財務・会計、経営・税務、法律など既存領域の市場が縮小傾向のため、中期成長に向けて、オンライン教育サービス(Webなどの通信系講座)や、M&Aも積極活用して教員、医療、介護、語学など新領域への事業展開も強化している。

 13年12月に増進会出版社(子会社のZ会が通信教育事業などを展開)と資本業務提携し、当社の教室運営ノウハウや資格系コンテンツ開発力と、増進会出版社の通信教育ノウハウや教養系コンテンツ開発力を融合させたソリューションの提供を目指している。なお14年8月には増進会出版社が第2位株主となって資本関係を強化した。

 14年6月には、レセプト点検・整理業務を中心に医療機関事務分野の人材サービスを展開するクボ医療(兵庫県加古郡)と、医療事務に関する労働者派遣事業・レセプト作成請負業務を展開する医療事務スタッフ関西(兵庫県神戸市)を子会社化した。

 14年11月に関西の4校舎で「医療事務講座」を開講し、14年12月には子会社TAC医療事務スタッフを設立した。クボ医療および医療事務スタッフ関西を子会社化し、自ら育成した医療機関系人材を幅広い医療機関に提供することが可能になったため、関東エリアでも医療事務スタッフ派遣事業や診療報酬請求事務請負事業を展開する。

 14年11月にはトーハン・コンサルティングとの業務提携と介護系資格取得支援事業の開始を発表し、15年1月にトーハン・コンサルティングが展開する介護系資格取得教室を、当社の主要校舎において「介護教室ケアマイスター TAC教室」の名称で開講した。

 15年1月には「相続アドバイザー講座」の開講を発表した。銀行業務検定のうち相続アドバイザー3級は14年3月から実施された新しい試験である。15年から相続税および贈与税の税制改正が行われたため、初回試験の受験者が約1万人に達する注目度が高い試験だ。

 15年3月には一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)公認で、日本初の大規模公開オンライン講座提供サイト「gacco(ガッコ)」に対して、無料の実務・資格講座を提供すると発表した。人気の高い簿記3級、行政書士、宅建士、基本情報技術者、ファイナンシャル・プランナーなどの入門講座を無料で開講する。

 15年4月には日本商工会議所と連携して「高等学校日商簿記学習支援プログラム」を開始した。18歳人口の減少に直面する多くの大学が就職や国家試験合格に直結する簿記教育の有用性を見直して、高校時代に日商簿記検定試験を取得した生徒を推薦やAO入試などで優遇する事例が増加している。

 こうした状況を背景に、日商簿記検定試験の高等学校向け教育支援の一環として、個人向け・法人向けに販売している当社の日商簿記教育コンテンツの基本講義部分を高等学校向けに無償で提供する。これによって日商簿記検定試験の一層の普及促進を図るとしている。

 15年7月にはTMMC(東京都)の株式12.5%を取得して資本業務提携した。当社グループが展開する医療医務人材サービスと、TMMCが展開する病院経営・業務改善コンサルテーションサービスおよびレセプトチェックサービスを融合し、両社が協力して病院・診療所・クリニック等への販路拡大を推進する。

 9月28日にはパイプドビッツと協業して「ストレスチェック義務化トータルソリューション」サービスを提供すると発表した。労働者のメンタルヘルス不調の未然防止やストレスの原因となる職場環境の改善等を目的として、従業員50人以上の全事業所にストレスチェック実施を義務付ける改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化、15年12月1日施行)に対応したサービスだ。

 なお10月1日には、8月18日に開示した桐原書店(東京都)の事業全部譲受の中止を発表した。桐原書店が出版する代表的な出版物についての出版権が期日までに移転されないことが確実になったため、事業譲受の目的の実現が不可能と判断した。16年3月期業績予想に織り込んでいないため、事業譲受中止の業績への影響はないとしている。

■四半期業績は季節変動の特徴

 当社の四半期業績は、資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7月~9月)と第3四半期(10月~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。

 また第4四半期(1月~3月)から第1四半期(4月~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。

 15年3月期の四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)54億04百万円、第2四半期(7月~9月)49億56百万円、第3四半期(10月~12月)43億91百万円、第4四半期(1月~3月)47億84百万円で、売上総利益率は第1四半期44.4%、第2四半期39.4%、第3四半期31.1%、第4四半期35.1%、営業利益は第1四半期5億75百万円、第2四半期2億12百万円、第3四半期4億28百万円の赤字、第4四半期2億19百万円の赤字だった。

 なお15年3月期の受講者数は、個人受講者が同7.0%減の13万147人、法人受講者が同3.0%増の6万4507人、合計が同3.9%減の19万4654人だった。また15年3月期の配当性向は8.9%、ROEは14年3月期比17.0ポイント低下して4.9%、自己資本比率は同1.7ポイント低下して20.6%だった。

■16年3月期は収益改善基調

 今期(16年3月期)の連結業績予想(5月14日公表)は売上高が前期比2.2%増の199億61百万円、営業利益が同4.5倍の6億30百万円、経常利益が同47.0%増の5億94百万円、そして純利益が同80.3%増の3億75百万円としている。配当予想は同1円増配の年間2円(第2四半期末1円、期末1円)で予想配当性向は9.9%となる。

 消費増税前駆け込み申込の反動減の影響一巡に加えて、日本商工会議所との連携による簿記受検者層の掘り起こし、医療事務コースの本格開講および医療系人材事業の推進、語学授業への注力、シナジー効果が見込めるM&A案件への積極的取り組み、業務効率化・標準化の推進による外注費・人件費抑制、講師料の見直し、スクール規模の最適化による賃借料削減などの施策を推進して営業損益が大幅に改善する見込みだ。

 第1四半期(4月~6月)は売上高が前年同期比3.5%増の55億92百万円、営業利益が同40.5%増の8億08百万円、経常利益が同41.9%増の8億06百万円、純利益が同40.9%増の4億96百万円だった。

 消費増税前駆け込み申込の反動減の影響が一巡し、財務・会計分野、金融・不動産分野、公務員・労務分野、情報・国際分野が増収となり、新規の医療・福祉分野も寄与した。増収効果に加えて、売上原価における賃借料と人件費の削減で売上総利益率が同2.4ポイン上昇し、販管費における賃借料削減も寄与して大幅増益だった。

 受講者数は、個人受講者が同8.9%増の4万9187人、法人受講者が同26.5%増の2万5471人、合計が同14.3%増の7万4658人だった。セグメント別営業利益(全社費用等調整前)は個人教育事業が同9.5%増の5億04百万円、法人研修事業が同15.2%増の4億05百万円、出版事業が同80.3%増の1億55百万円、人材事業が5百万円の赤字(前年同期は9百万円の赤字)だった。

 通期会社予想に対する第1四半期の進捗率は売上高が28.0%、営業利益が128.3%、経常利益が135.7%、純利益が132.3%である。第1四半期の利益構成比が高い収益構造であることを考慮しても高水準だ。

 増進会出版社との提携効果の本格寄与や、新講座など新規事業領域の収益化も期待される。景気回復に伴って財務・会計系の求人ニーズが高まっていることも追い風だ。通期業績会社予想に増額余地があり収益改善基調だろう。

■株価は調整一巡してモミ合い上放れ

 株価の動きを見ると、直近安値圏220円~240円近辺でのモミ合いから上放れの動きを強めている。10月19日には前日比10円(4.13%)高の252円まで上伸した。調整が一巡し、ストレスチェック義務化関連も材料視されたようだ。

 10月19日の終値252円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS20円27銭で算出)は12~13倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間2円で算出)は0.8%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS236円95銭で算出)は1.1倍近辺である。なお時価総額は約47億円である。

 日足チャートで見ると25日移動平均線を回復して上伸した。週足チャートで見ると26週移動平均線がサポートラインとなって下値を切り上げ、13週移動平均線を突破する動きだ。新領域への事業展開戦略や収益改善基調も評価して7月の年初来高値圏を目指す展開だろう。

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