- Home
- コラム, 小倉正男の経済コラム
- 【小倉正男の経済コラム】石破茂新総裁「石破ショック」という荒天の船出
【小倉正男の経済コラム】石破茂新総裁「石破ショック」という荒天の船出
- 2024/9/29 15:43
- コラム, 小倉正男の経済コラム
■「石破ショック」、一過性で終わるか
石破茂氏が自民党新総裁となった。第1回投票では、高市早苗氏が第1位になり、石破氏は後手に回ったが、最終的に決戦投票で石破氏が勝利した。
27日の第1回投票では高市早苗氏がトップに立ち、「女性である私が決戦投票に進んだのは歴史的瞬間」というスピーチを行った。マーケットはいち早く反応、為替は1ドル146円の円安に急激に振れ、株式も上昇した。高市氏の「いま利上げはあほ」という積極財政を好感しての動きである。マーケットは、第1回投票の勢いから高市氏が新総裁になると先読みしたわけである。
だが、石破氏の逆転勝利とともにマーケットは急転・様変わりした。為替は1ドル142円の円高となり、日経株価先物はマイナス2000円を大きく超える大幅低下となっている。債券価格は下落し、債券利回り(金利)は上昇する兆しをみせている。
「高市トレード」の反動なのか、週明けのマーケットは大変なことになりそうだ。石破新総裁、とりもなおさず石破新首相となるわけだが、マーケットから手荒いセレブレーションを受けることになるとみられる。
「石破ショック」、一過性のものなのか、一過性ではすまないのか。デジャブ(既視感)のない、かつてない荒天の船出ということになる。
■岸田首相は勝負強さで勝ち残る
石破新総裁は総裁選直後の会見で、岸田文雄首相の路線継承を強調している。
「岸田首相が一生懸命努力してきたデフレからの脱却を確実なものにしなければならない」
キングメーカーの最たる者は岸田首相であり、岸田首相は「生き残り」どころか、「勝ち残り」を果たした格好だ。影響力の極大化に成功したといえる。
政治家だから変わるのは必ずしも悪いことではない。石破新総裁は「『新しい資本主義』にさらに加速度をつけていきたい」とあらためて表明している。
総裁選の勝利者は、石破新総裁と岸田首相ということになる。岸田首相は勝負強さをみせたわけである。
■石破新総裁、後手に回る「初期消火」
「高市トレード」の反動は確かにあるのだが、マーケットの疑念にどのように答えていくのか。「石破ショック」、これを一過性のものにマネジメントできるか。
石破新総裁は「(石破ショックというのは)発言を切り取られてのもの」としているが、無用な軋轢・誤解などは極力説明して回避することが急務だ。
マーケットは、石破新総裁の法人税増税、金融所得課税など増税路線に過敏に反応している。「デフレ克服で賃上げ、設備投資」といってきているわけだが、法人税増税では水を差すことになる。経済界からは反発が必至だ。
さらに「貯蓄から投資へ」ということで新NISAを提唱してきているのに金融課税強化では相矛盾しかねない。石破新総裁も「貯蓄から投資という流れは変わらない」と発言している。金融課税は個人だけではなく法人にも及ぶわけだから、岸田首相の「デフレ脱却」路線継承とも相反することになりかねない。
石破新総裁は、日銀の「金利ある世界」への正常化を支持し、再利上げを加速させる立ち位置とみられている。これはある意味当然のことであるにしても、米国の利下げ状況などタイミングを少しでも間違えば円高・株安などマーケットの激震を呼ぶリスクがある。マーケットとしては、要は極論だがデフレへの逆戻りを懸念しているわけである。
このあたりは石破新総裁が国民に説明して、解かなければならない緊急課題である。危機管理でいえば、最重要な「初期消火」に当たるのだが、現状では十分になされているとはいえない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)