【小倉正男の経済コラム】自民党惨敗 薄氷を踏むような石破政権

■2週間で表紙を変えたが・・・

 米国大統領選挙(11月5日)が迫っている。大統領選挙は予備選、党員集会などを含めると1年近くを使って行われる。国のトップを4年間託すわけだから、そのぐらいの期間をかけて念入りに選別のふるいにかけている。

 1年かけてチェックされれば、政策、人柄、良いところだけではなく、欠点、弱点、難点も露呈しないわけがない。確かに米国大統領は、米国のみならず世界の政治・経済・軍事などのすべてに決定的に影響する。1年近くを選挙に費やす意味合いはあるということになる。

 それにつけても日本の自民党総裁選とは何だったのか。2週間ほど政策らしいような議論が行われた。しかも総裁選が終わったら、総裁選で話したことと平気で真逆のことをやっている。「君子豹変」(易経)とは、良い方向に変わるというのが本来の使われ方である。最近では節操がないという使われ方もされている。

■「豹変ラッシュ」で化粧を施したが

 石破茂総理は、自民党総裁に就任したばかりの9月30日に10月9日に衆議院解散、10月27日に総選挙を実施すると表明した。国会の首相指名選、天皇の任命というスケジュールを経て首相になるのがルールだ。首相になる以前に解散・総選挙を表明したのは前代未聞だ。

 スケジュールを無視してまで急いだのは、新首相の人気が剥落しないうちに総選挙を行うという一点にあった。2週間で日本のトップを選ぶという制度の欠陥を利用して、中身はともかく表紙(顔)を変えて新鮮さを訴えるという自民党の過去の成功経験則による。国民を舐めてかかったといえるに違いない。

 総裁選では、総選挙早期実施を訴えたのは小泉進次郎議員だが、石破総理は「党利党略で総選挙を行うべきではない」というのがお決まりの立ち位置だった。総裁選では「世界情勢がどうなるのかわからないのに『すぐ解散します』という言い方はしない」と語っていた。少なくとも予算委員会などで論戦を行った後に解散・総選挙を行うのが筋としていた。

 ここから石破総理の「豹変ラッシュ」が始まる。日銀の再利上げなど金融政策では、「個人的には(再利上げを行う)環境にあるとは思っていない」と総選挙用発言を行った。高市早苗議員が唱えた「いま利上げはあほ」という立場に乗り換えたわけである。「ひび、あかぎれを白足袋で隠す」とは歌舞伎古典の名セリフだが、そのようなにわか化粧に努力したことになる。

■自民党、公明党は惨敗

 恥も外聞も捨てて、総裁選ライバルの政策に乗り換えたわけである。旧統一教会、裏金問題という究極のマイナスという下地があったことが圧力になっていたのは間違いない。だが、「君子豹変」も1度ぐらいなら驚いて済むが、「君子豹変ラッシュ」では節操がないといわれても仕方がない。

 そして総選挙4日前に非公認候補者を含む自民党各支部に政党交付金(政党活動費)2000万円支給が発覚するおまけまで付いた。

 これらにより自民党は決定的な大惨敗に見舞われた。今回の総選挙比例投票では、自民党が1458万票(21年総選挙比26・8%減)、前回総選挙比で533万票を減らしている。中道派若者層に大きくそっぽを向かれている。岩盤支持層の右派も一部が愛想を尽かしたとみられる。公明党も596万票(16・2%減)、115万票の大幅減となっている。

 立憲民主党は1156万票(0・6%増)ほとんど比例投票を伸ばすことができていない。増やしたのは7万票だ。自民党のオウンゴール待ち、大企業労組の支援で日常活動は何もやっていない。経済政策もみるべきものがない。党勢の先行きは案外厳しい。日本維新の会は510万票(36・6%減)と295万票減少。二度見するような惨敗だ。

■新年7月に東京都議選、参議院選

 躍進したのが国民民主党だ。617万票(2・38倍)を獲得、358万票を上乗せした。自民から離れ、立憲もどうかな、という若者層、中間層などがなだれ込んだ。

 国会の党首討論で玉木雄一郎代表が「政策活動費を総選挙に使うな。ゼロを明言せよ」と石破総理に切り込んだ。さらには年収103万円の壁を提起して「手取り増を促進する」が訴求力を持ったとみられる。

 れいわ新選組も380万票(71・7%増)と健闘した。自民党、民主党に対抗して各選挙区に候補者を立てた共産党は336万票(19・3%減)となった。れいわ新選組は共産党を上回ってしまった。

 結局のところ石破総理は「選挙の顔」としては役に立つという結果は得られなかった。新年は7月に東京都議選、参議院選が控えている。おそらく政権は薄氷を踏むような動きにならざるを得ない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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