「背広売れ行き」が語る日本経済の興亡史、消えゆく街角の景気バロメーター

■工場稼働率と背広需要の相関関係

 内閣府が毎月発表している「景気ウオッチャー調査」は、約2000名の景気実感を集計・分析する経済指標として知られている。しかし、かつて景気実感を測る独特のモノサシとして注目を集めていたのが、神奈川県川崎市における背広の売れ行きである。この指標は、工業地帯の中心地である川崎市の特性を活かした、庶民の財布事情を映し出す鏡として機能していた。

■証券マンの購買行動が株価の天井示唆

 京浜工業地帯の中核を担う川崎市では、鉄鋼、化学、石油などの重工長大産業が集積している。工場の稼働率上昇に伴う残業時間の増加は従業員の収入増加をもたらし、それが背広の売り上げに直結していた。一方、証券業界では、証券マンによる高級ブランドスーツの大量購入が相場の天井を示すシグナルとして捉えられ、株式市場における売り材料として機能することもあった。

■「衣」が映し出す経済の実態

 「衣食足りて礼節を知る」という諺が示すように、「衣」は生活水準を示す重要な指標である。気候変動による需要の変化に加え、経済状況を映し出す先行指標としても注目される背広の売れ行きは、現代においても消費動向を把握する上で意味のある指標となっている。天候要因と経済要因が絡み合う背広市場は、今なお街角の景気実感を映し出す興味深いバロメーターとして存在している。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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