冨士ダイス、25年3月期予想下方修正も下期回復基調、高配当利回り・低PBRが魅力で反発期待

 冨士ダイス<6167>(東証プライム)は超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーで、成長戦略として経営基盤強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業確立に取り組んでいる。25年3月期は需要回復遅れで第2四半期累計が大幅減益となり、下期の回復も緩やかな見込みとして通期予想を下方修正した。ただし四半期別に見ると、第2四半期は第1四半期に比べて回復基調となっており、第3四半期以降も回復基調を期待したい。株価は反発力が鈍くモミ合い展開だが、高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカー

 超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。24年3月期末時点で、グループは同社および子会社7社(国内2社、海外5社)で構成され、海外はタイ、中国・上海、インドネシア、インド、マレーシアに展開している。なおインドについては、現地の経済環境などを鑑みて16年8月から事業を休眠しているが、今後は市場調査を行い、事業再開を予定している。24年3月には、中国の現地子会社である富士摸具貿易(上海)有限公司が広東省・東莞市に新たな営業拠点を開設し、営業を開始した。また24年4月にはマレーシアの現地子会社であるフジロイ・マレーシアが、営業活動の中心を従来のペナン事務所から首都クアラルンプール事務所へ移し、カバーエリアを拡大した。

 生産拠点は、国内が郡山製造所・郡山第2工場(福島県郡山市)、秦野工場・秦野第2工場(神奈川県秦野市)、名古屋工場(愛知県名古屋市)、岡山製造所(岡山県倉敷市)、熊本製造所(熊本県玉名郡)、子会社の新和ダイス(山梨県甲州市)、冨士シャフト(福島県二本松市)で、海外がタイとインドネシアとなっている。23年9月には岡山製造所に新たなCIP装置を導入して本格稼働した。岡山製造所の生産能力を増強するとともに、次世代自動車への対応強化を図る。23年11月には熊本製造所の冶金棟のリニューアルが完了した。DX化による省人化やレイアウトの最適化による生産性向上と粉末冶金技術(粉末・成形・焼結)の向上により、背生産能力の最大化を目指す。

■超硬合金とは

 超硬合金というのは、炭化タングステンに代表される硬質の金属炭化物と、コバルトなどの鉄系金属を粉末状にして混ぜ合わせ、型に入れて圧縮・成型し、粉末冶金法(融点より低い温度で焼いて固める方法)によって製造される金属材料である。ステンレスや鋼鉄を凌ぐ硬さを持ち、耐摩耗性に優れるという特性があり、高い精度が求められる金型や工具の材料として適しているため、輸送用機械、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電気・電子部品など幅広い産業分野で使用されている。

 製品としては精密加工が施されて、主に塑性(切屑の出ない)加工に用いられる高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金製耐摩耗工具となるほか、一部は中間製品である超硬合金チップとしても販売される。なお、超硬合金製耐摩耗工具の性能や寿命に関しては、顧客の設計思想や生産プロセスが色濃く反映されるため、超硬合金製耐摩耗工具の大部分は顧客ごとのカスタムメイドとなっている。

■幅広い産業分野に多品種少量の高付加価値製品を提供

 同社の製品分類は、超硬製工具類(線材やパイプの生産用工具として使用されるダイス・プラグ、鉄鋼向けの熱間圧延ロール、人工ダイヤモンドやcBNの生産用工具として使用される超高圧発生用工具など)、超硬製金型類(自動車部品製造用金型、飲料缶や食用缶などの製缶金型、車載電池用金型、ガラスレンズ生産用の光学素子成形用金型、半導体・電子部品用金型など)、その他の超硬製品(超硬合金チップなど)、超硬以外(鋼製品、セラミック製品など)としている。

 24年3月期の製品別売上高構成比は、超硬製工具類が28.7、超硬製金型類が23.5、その他超硬製品が24.0、超硬以外の製品が23.8だった。主力製品は超硬製工具類のダイス・プラグ、熱間圧延ロール、超高圧発生用工具、超硬製金型類の自動車部品製造用金型、製缶金型、車載電池用金型、超硬製品の超硬合金チップなどとなっている。地域別売上高構成比は日本が81.3%、アジアが15.5%、その他が3.3%だった。

 産業別売上高は輸送用機械が27.9億円、鉄鋼が28.3億円、非鉄金属・金属製品が23.4億円、生産・産業用機械が20.4億円、電機・電子部品が14.4億円、金型・工具向け素材が22.9億円だった。取引社数は約3000社に達し、国内の超硬耐摩耗工具市場で長期に亘ってトップシェア(同社推定30%以上)を維持している。

 同社は顧客ニーズを的確に捉えて、個別カスタマイズの多品種少量生産に対応する研究開発~生産~営業体制を構築し、高品質の製品を顧客に提供している。そして、超々微粒から中粒や超粗粒まで顧客ニーズに最適な粒子径や硬さの材種を提供できる新材料開発・粉末冶金技術・加工技術・品質対応力、設計~原料粉末調粉~焼結~機械加工~製品検査の一貫生産体制、豊富な製品ラインナップ、特定の業界・顧客に依存しない収益安定性などを特長・強みとしている。

 さらに同社は、競合が少ない超硬合金製耐摩耗工具で多品種少量の高付加価値製品を提供しているため、切削工具・素材メーカーが多い業界平均に比べて販売単価が高く、販売価格が安定的に推移していることなども特長としている。また財務面では、24年3月期末の自己資本比率79.0%と盤石の財務基盤を構築していることも特長だ。

 23年11月には日本機械工具工業会主催の「2023年度日本機械工具工業会大賞」においてガラス成形用高熱膨張新硬質材料「フジロイTR05」が「技術功績大賞」を受賞、廃棄物削減・再資源化率向上の取り組みが「環境特別賞」を受賞、モノづくり日本会議/日刊工業新聞主催の「2023年度超モノづくり部品大賞」において「フジロイTR05」が「奨励賞」を受賞、24年1月には日刊工業新聞社主催の「2023年第66回十大新製品賞」において「フジロイTR05」が「モノづくり賞」を受賞、24年9月には「フジロイTR05/TR30」の開発および超精密加工技術確立が評価されて公益社団法人精密工学会主催の「2024年度(第8回)精密工学会ものづくり賞」において「最優秀賞」を受賞した。

■中期経営計画(25年3月期~27年3月期)

 24年5月策定の中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、中期方針に「変化に対応できる企業体質への転換」を掲げ、成長戦略として経営基盤の強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業の確立に取り組むとしている。

 目標数値には最終年度27年3月期の売上高200億円、営業利益20億円、経常利益21億円、経常利益率10.5%、当期純利益15億円、ROE7.0%を掲げた。また、成長投資と株主還元の両方を追及する観点から配当方針を見直し、中期経営計画2026の期間における配当を、株主資本配当率(DOE)4%を目途とすることに加え、積極的かつ機動的な自己株式取得を行うことで利益還元を強化する方針とした。

 また24年5月には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」をリリースした。24年6月には「一般事業主行動計画」に基づく23年度実績を公表した。

■25年3月期は需要回復遅れで減益予想

 25年3月期の連結業績予想は11月14日付で下方修正して、売上高が24年3月期比1.9%増の170億円、営業利益が16.0%減の6億80百万円、経常利益が3.6%減の8億50百万円、親会社株主帰属当期純利益が16.8%減の5億90百万円とした。配当予想は据え置いて24年3月期比8円増配の40円(期末一括)としている。24年3月期の32円には記念配当10円が含まれているため、普通配当ベースでは18円増配の形となる。予想配当性向は134.8%となる。

 第2四半期累計は売上高が前年同期比0.8%増の82億77百万円、営業利益が34.0%減の2億91百万円、経常利益が21.3%減の3億94百万円、親会社株主帰属四半期(中間)純利益が34.2%減の2億50百万円だった。

 計画(5月15日付の期初計画値、売上高88億円、営業利益4億70百万円、経常利益5億30百万円、親会社株主帰属中間純利益3億80百万円)を下回り減益だった。自動車部品メーカーの在庫調整や中国市場の停滞が想定以上に継続して売上が伸び悩んだことに加え、原材料費高騰、IT投資や人財投資による販管費増加なども影響した。

 製品別売上高は、超硬製工具類が12.8%減の20億53百万円、超硬製金型類が8.4%増の20億53百万円、その他超硬製品が10.6%増の21億65百万円、超硬以外の製品が0.1%増の20億05百万円だった。

 超硬製工具類は、海外向け熱間圧延ロールが好調だったが、前期好調だった海外向け溝付きロールが顧客における在庫調整の影響で大幅に減少した。超硬製金型類は、製缶金型や次世代自動車部品向け金型が好調に推移した。その他超硬製品は、半導体製造装置向けが堅調だったほか、海外向け超硬素材が回復傾向となった。超硬以外の製品は、混練工具の販売が低調だったが、一部の鋼製自動車部品用工具・金型が堅調だった。

 なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が39億90百万円で営業利益が48百万円、第2四半期は売上高が42億87百万円で営業利益が2億43百万円だった。第2四半期は第1四半期に比べて回復基調となった。

 通期の連結業績予想は前回予想(5月15日付の期初計画値、売上高180億円、営業利益10億20百万円、経常利益11億50百万円、親会社株主帰属当期純利益8億30百万円)に対して、売上高を10億円、営業利益を3億40百万円、経常利益を3億円、親会社株主帰属当期純利益を2億40百万円それぞれ下方修正し、従来の増益予想から一転して減益予想とした。下期も需要回復が緩やかな見込みとしている。ただし四半期別に見ると、第2四半期は第1四半期に比べて回復基調となっており、第3四半期以降も回復基調を期待したい。

■株価は調整一巡

 株価は反発力が鈍くモミ合い展開だが、高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。11月27日の終値は768円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS29円38銭で算出)は約26倍、今期予想配当利回り(会社予想の40円で算出)は約5.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1039円32銭で算出)は約0.7倍、時価総額は約154億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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