アンジェス MGの山田 英社長に聞く

アンジェス MG 山田 英社長

アンジェス MG<4563>(東マ・100株単位)は、生命が長い時間をかけ獲得した遺伝子の力を借りて難病の画期的な治療薬開発に取り組んでいる。臓器の中でもっとも再生能力の高い肝臓で発見された肝細胞増殖因子(HGF)による『HGF遺伝子治療薬(重症虚血肢)』がまもなく承認申請される。2019年12月期に待望の黒字転換、10年後には売上500億円を目標としている。

 

■遺伝子治療薬が研究・開発から商業化のステージ迎える

――策定された長期ビジョンとその取組みを拝見しますと、いよいよ黒字化見通しということです。バイオベンチャーが黒字に転換する時は投資の一大チャンスということで投資家の注目度は高まると思います。

【山田社長】1999年に設立して15年経過ですが、2015年は節目で、『第2の創業期』に突入した年であると位置づけています。遺伝子治療薬の研究・開発からいよいよ商業化のステージを迎えました。

――長期ビジョンと黒字見通しについてお願いします。

【山田社長】長期ビジョンでは、10年後の2025年における当社のあるべき姿を明確に打ち出しました。(1)世界で認知される遺伝子治療・核酸医薬のスペシャリストとして遺伝子医薬のグローバルリーダー、(2)治療法のない病気の新薬を実用化する新市場の創出、(3)売上高500億円以上、という3つのビジョンです。第一段階として、HGF遺伝子治療薬(重症虚血肢)の国内販売、HGF遺伝子治療薬(重症虚血肢)のグローバル開発の進展に伴うマイルストーン収入、アトピー性皮膚炎の国内販売等により2019年の黒字化を目指しています。バイオベンチャーの宿命ともいえる研究開発費用が先行するため赤字が続きましたが黒字化の目処が立ちました。

――社長さんは医学博士ですが、遺伝子薬について教えてください。ビジネスモデルについてもお願いします。

【山田社長】遺伝子治療とは疾患の治療を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞をヒトの体内に投与することです。生命が長い時間をかけて獲得した遺伝子の力を借りて、難病や有効な治療法のない疾患に対して新しい治療法を提供できる可能性を持っています。画期的な遺伝子医薬を開発・実用化し、人々の健康と希望にあふれた暮らしの実現に貢献することは当社の企業理念でも謳っています。1990年に米国において世界初の遺伝子治療が実施され 、日本では1995年に北海道大学で初めて遺伝子治療が行われました。最近では2012年に先進国で初の遺伝子治療薬が欧州で承認され、大手も相次いで参入、遺伝子治療薬の本格的な実用化時代に入っています。当社は、遺伝子の働きを活用した遺伝子医薬、バイオ医薬に特化し難病・希少病、有効な治療法がない疾患分野などの開発を行い、製薬会社への販売権、開発販売権の導出により製薬企業から契約一時金、マイルストーン、販売時ロイヤリティを収入として得ることをビジネスモデルとしています。現在、当社グループの手がける主要プロジエクトが最終段階に突入しています。

――再生医療等はアベノミクスの目玉政策となっています。事業環境は追い風ですね。

【山田社長】その通りです。改正薬事法である『医薬品医療機器等法』が昨年11月に施行され、遺伝子治療を含む、「再生医療等製品」に対する早期承認制度が設けられました。これによって、国内では遺伝子治療薬の早期実用化が可能となりました。

■再生医療はアベノミクスの目玉政策、2019年に黒字転換、遺伝子治療・核酸医薬のスペシャリストとして遺伝子医薬のグローバルリーダー目指す

――それでは、具体的な開発プロジエクトについてお願いします。その前に、「HGF遺伝子治療薬」とはどのようなものですか。

【山田社長】HGFとは、Hepatocyte Growth Factorの頭文字で、肝細胞増殖因子のことです。1984年に日本で発見されました、「成長因子」です。臓器の中で最も再生能力が高い肝臓で発見されたため肝細胞増殖因子と呼ばれています。現在では肝臓のみならず血管、リンパ管、神経など生体の様々な臓器・組織の形成・再生において主要な役割を果たしていることがわかっています。当社では、HGFの血管新再生作用により、虚血部位の血流を回復させるHGF遺伝子治療薬(重症虚血肢)を開発中です。重症虚血肢は、糖尿病等の原因により末梢性血管疾患が重症化することで安静にしていても痛みを感じたり、壊疽(えそ)が起きてしまう状態で、下肢切断を余技なくされることもある重篤な病態です。国内においては、大阪大学医学部付属病院が主導となり先進医療B制度を活用した、「医師主導型臨床研究」を実施中で、今年6月に田辺三菱製薬と国内における末梢性血管疾患を対象とする独占的販売権許諾を締結しました。2016年後半に条件及び期限付承認制度の下で申請を目指しています。海外では国際共同第Ⅲ相臨床試験を実施中です。2014年10月に米国で1例目の患者を登録し投与を始めています。とくに、米国での市場規模は、バルーン療法やバイパス手術などの血管内治療が有効でない患者対象ということで約50億ドルとみられています。

――心臓カテーテル手術で血管内にステント(血管を拡げる役目の器具)が入っている場合でも有効ですか。カテーテル手術は一度で終わらないケースも多いようですが。

【山田社長】1度だけでなく数回のカテーテル手術を受けられる患者さんは多いですね。HGF遺伝子治療薬では心疾患を対象とした開発も次のプロジェクトとして計画はしています。バルーン(血管を膨らませる風船のようなもの)やカテーテルに薬剤を塗布することで血管再狭窄を予防することが可能です。当社では、生体内で免疫・炎症反応を担う、『転写因子NF-kB』の活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患の治療薬、「NF-kBデコイオリゴDNA」を活用した薬剤塗布型のバルーンカテーテルを開発中です。メディキットと提携しています。

――そのほかの進行中のプロジエクトはいかがですか。

【山田社長】リンパ浮腫を対象としたHGF遺伝子治療薬があります。リンパ浮腫とは、リンパ管の障害によりリンパ流が停滞し発生する浮腫で四肢に現れ、日常生活に必要な身体機能の低下によりQOL(生活の質)が著しく低下する疾患で根治療法がありません。国内での推定潜在患者数は原発性浮腫が約3000人、二次性リンパ浮腫が推定10万人以上とみられています。とくに、発生率が子宮癌術後で28.1%、乳癌術後で21~51%とのデータとなっています。現在、加齢によるリンパ浮腫も増えています。2013年から原発性リンパ浮腫を対象とした第Ⅰ・Ⅱ相試験を実施中です。

――このほか、開発の進んでいるものはいかがですか。

【山田社長】国内第Ⅲ相臨床試験開始のアトピー性皮膚炎治療薬、「NF-kBデコイオリゴDNA」(軟膏剤)があります。15年3月に第1例目の被験者への投与を開始しました。顔面に中等症以上の皮疹を有するアトピー性患者約200例を対象に約1年を予定、良好な結果が得られた場合は国内で承認申請します。米国では、「椎間板性腰痛症治療薬」の第Ⅰ・Ⅱ相試験を準備中です。これらのほかにも、子宮頸がん前癌状態の組織を退縮させ、子宮頸がんへの移行・円錐切除手術を回避する「CIN治療ワクチン」や、がん治療薬「アロベクチン」、高血圧DNAワクチンなどを開発中です。また、先天的に作ることのできない酵素を直接的に補充するムコ多糖症Ⅵ型治療薬「ナグラザイム」の国内における開発販売権を米国バイオマリン社から2006年12月に取得し、2008年4月より国内で販売しています。

――これらが順次寄与してくることで2019年に黒字化、2025年に売上500億円目標ということですが、足元の業績についてお聞かせください。

【山田社長】今期(2015年12月期)の第3四半期(1~9月)は、「ナグラザイム」の商品売上が2億5000万円と前年同期に比べ12.9%増え、提携企業からの契約一時金等による研究開発事業収益が前年同期比15.9%増の6900万円となったことで売上高は3億2000万円と前年同期に比べ13.6%の増収でした。第3四半期の研究開発費は25億8400万円(前年同期比51.2%増)。開発費の主なものは、HGF遺伝子治療薬の国際共同第Ⅲ相臨床試験にかかる費用及びNF-kBデコイオリゴDNAアトピー性皮膚炎治療薬の第Ⅲ臨床試験の費用が主なものです。この結果、第3四半期の営業赤字は30億2500万(前年同期は赤字20億4800万円)となりました。今12月期通期は、売上4億5000万円と従来予想通りですが、HGF遺伝子治療薬及びNF-kBデコイオリゴの原薬製造の完了時期が来期に変更となったこと、また外部委託機関への支払いの一部について来期以降へ変更が生じました。このため当期の研究開発費用が減少する見込みとなったため通期の営業赤字は当初の58億円が43億円へ赤字幅が縮小します。もちろん、こうした変更による臨床試験の進行に対する影響はまったくありません。

――ありがとうございました。

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