【決算記事情報】科研製薬は25年3月期3Q累計大幅増収増益、通期予想据え置き
- 2025/2/18 15:52
- 決算発表記事情報
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科研製薬<4521>(東証プライム)の25年3月期第3四半期累計連結業績は大幅増収増益だった。新規多重特異性抗体NM26の知的財産譲渡および販売提携オプション契約に基づく契約一時金、および次世代の経口2型炎症性疾患治療薬として開発中のSTAT6阻害剤に関するライセンス契約に基づく契約一時金が寄与した。通期予想は据え置いた。
■医療用医薬品・医療機器メーカー
医薬品・医療機器、農業薬品などの薬業、および文京グリーンコート関連などの不動産賃貸事業を展開している。
主要医薬品・医療機器は爪白癬治療剤のクレナフィン、関節機能改善剤のアルツ、癒着防止吸収性バリアのセプラフィルム、褥瘡・皮膚潰瘍治療剤のフィブラスト、原発性腋窩多汗症治療剤のエクロック、歯周組織再生剤のリグロス、腰椎椎間板ヘルニア治療剤のヘルニコア、およびジェネリック医薬品である。
23年8月には壊死組織除去剤ネキソブリッド(イスラエルのメディウンド社から導入、海外製品名NexoBrid)の発売を開始した。24年3月にはエーザイ<4523>より医療用医薬品2製品(メリスロン、ミオナール)の日本国内での製造販売承認を承継する契約を締結した。25年3月末を目途に販売機能の移管を進め、その後に製造販売承認の承継を行っていく。
24年5月には静岡工場(静岡県藤枝市)内に農業薬品事業の中心である発酵農薬原体の製造工場を建設すると発表した。着工は25年11月、竣工は27年7月、稼働開始は27年11月の予定としている。
■M&A・アライアンス
M&A・アライアンス関連では、21年12月に国内バイオベンチャー企業のアーサム・セラピューティクス社を連結子会社化、23年1月に武田薬品工業の創薬プラットフォーム事業を継承した国内初の創薬ソリューションプロバイダーであるAxcelead DDPと画期的新薬の創出に向けて協業契約締結、23年3月にbitBiome(東京都新宿区)と感染症治療薬創薬に関する共同研究契約を締結、23年9月に再生医療関連事業のセルソース(東京都渋谷区)と細胞外分泌物を用いた整形外科疾患の治療または予防に関する日本初の医薬品の創出に向けたフィージビリティ・スタディ契約を締結、24年8月にスタートアップ企業であるクロスメッド(東京都板橋区)と整形外科疾患の治療に関するプログラム医療機器(SaMD)の創出に向けたフィージビリティ・スタディ契約を締結した。
24年12月には米国Aadi Bioscience社と、その完全子会社であるAadi Subsidiary(Aadi社)の株式譲渡(25年6月末までに実行予定)契約を締結した。Aadi社は希少疾病の「局所進行した切除不能/転移性の悪性血管周囲類上皮細胞腫瘍」の治療薬FYARROを販売している。
■開発パイプライン
25年3月期第3四半期末時点の主要な開発パイプラインの状況は、アタマジラミ症を適応症とするKAR(アーバー・ファーマシューティカルズ社から導入、海外製品名Sklice)が第3相段階、難治性脈管奇形を適応症とするKP-001が日本で第3相段階・米国で第3相実施に向けてFDAに相談中、原発性胆汁性胆管炎を適応症とするKC―8025(Seladelpar)(シーマベイ・セラピューティクス社からの導入品)が第3相段階、固形がんを適応症とするKP-483(がん免疫療法、自社創薬品)が第1相段階、末梢性神経障害性疼痛を適応症とするKP910(自社創薬品)が第1相段階、先天性副腎過形成症を適応症とするチルダセルフォント(スプルース・バイオサイエンシズ社からの導入品)が第1相段階である。
Seladelparは23年1月に、米国シーマベイ・セラピューティクス社(注:24年2月にギリアドサイエンス社に被買収)と日本における開発および商業化に関するライセンス契約を締結した。シーマベイ社に対して契約一時金45億円、開発および販売マイルストンの達成により最大170億円、並びに売上に対する一定のロイヤリティを支払う。
チルダセルフォントは23年1月に米国スプルース・バイオサイエンシズ社と日本における開発および商業化に関するライセンス契約を締結した。スプルース社に対して契約一時金15百万ドル、開発および販売マイルストンの達成により最大64百万ドル(1ドル=135円換算)並びに売上に対する一定のロイヤリティを支払う。
24年10月には、三洋化成工業<4471>が開発した新規の創傷治療材料シルクエラスチン創傷用シート(医療機器)の日本国内における独占的販売権に関するライセンス契約を締結した。本契約に基づき、三洋化成工業に対して契約一時金および売上に対する一定のロイヤリティを支払う。なおライセンス元の三洋化成工業が製造販売承認を申請中である。
24年11月にはスイスのニューマブ社と、炎症性腸疾患を対象疾患とする新規多重特異性抗体医薬ND081に関する共同研究契約を締結した。本契約に基づいて、ニューマブ社に対して契約一時金として約1300万スイスフランを支払う。さらに非臨床および臨床開発(PoC試験まで)の資金提供と引き換えに、特定の主要アジア地域における「ND081」の商業化権を取得するオプション権を獲得する。ニューマブ社は契約一時金を受け取り、非臨床および臨床開発の主要な実施主体となる。
海外導出では、爪白癬治療剤クレナフィンについて欧州(ドイツ、イタリア)でアルミラル社が爪白癬を適応症として承認申請中、中国でAIM社が爪白癬を適応症として第3相段階、原発性腋窩多汗症治療剤のエクロックについて韓国でドンファ社が原発性腋窩多汗症を適応症として承認申請中である。
なおスイスのニューマブ社とアトピー性皮膚炎を対象に共同開発している新規多重特異性抗体NM26については、米国J&J社の関連会社であるスイスのシーラグ社と24年5月に知的財産譲渡および販売提携オプション契約を締結したため開発パイプラインから除外した。この契約によりニューマブ社との共同開発契約において得たすべての知的財産をJ&J社に譲渡するとともに、ニューマブ社と21年1月に締結したライセンス・共同開発契約を解約し、J&J社から契約一時金2000万米ドルを受け取った。また、日本およびアジアでの開発の進捗および売上の目標達成に応じたマイルストン収入として最大で総額1億3850万米ドル、アジアでの売上に応じたロイヤリティ収入を受け取る権利を有するとともに、J&J社が日本で承認取得するすべての適応症について販売提携契約を交渉するオプション権を有する。一方、ニューマブ社とのライセンス・共同開発契約で定めた権利は解約後も存続し、ニューマブ社より契約一時金として6600万米ドルを取得した。またJ&J社による開発の進捗に応じたマイルストン収入として最大で総額1億1390万米ドルをニューマブ社より受け取る権利を有する。
24年12月には、次世代の経口2型炎症性疾患(アトピー性皮膚炎、喘息など)治療薬として前臨床段階にあるSTAT6阻害剤(開発記号:KP―723)を含むSTAT6プログラムについて、グローバルにおける開発・製造および商業化に関する独占的ライセンスをJ&J社に許諾するライセンス契約を締結した。日本国内においては科研製薬が本プログラムにおいて開発される製品の商業化に関する権利を保持している。また本契約に基づいて、25年3月期中に契約一時金として3000万米ドルを受領するとともに、今後の開発の進捗および売上目標達成に応じた総額12億1750万米ドル(最大)のマイルストン収入、全世界での売上に対するロイヤリティを受け取る権利を有する。なお本契約に伴い、J&J社のコーポレート・ベンチャー・キャピタル組織であるJJDCに対して第三者割当による自己株式処分を行った。本契約の実効性を高め、J&J社との関係構築を目的としてJJDCの出資を受け入れた。
■25年3月期3Q累計大幅増収増益、通期予想据え置き
25年3月期第3四半期累計連結業績は売上高が前年同期比39.0%増の759億90百万円で、営業利益が2.9倍の254億20百万円、経常利益が2.8倍の260億81百万円、親会社株主帰属四半期純利益が2.9倍の191億75百万円だった。新規多重特異性抗体NM26の知的財産譲渡および販売提携オプション契約に基づく契約一時金、および次世代の経口2型炎症性疾患治療薬として前臨床段階にあるSTAT6阻害剤に関するライセンス契約に基づく契約一時金が寄与した。なお研究開発費は24.2%増の105億57百万円だった。
単体ベースの主要医薬品・医療機器の売上高はクレナフィンが2.0%減135億51百万円、アルツが6.4%増の147億31百万円、セプラフィルムが0.5%増の55億05百万円、フィブラストが7.4%減の18億59百万円、エクロックが8.3%増の17億20百万円、リグロスが5.9%増の7億10百万円、ヘルニコアが8.8%増の3億17百万円、ジェネリック医薬品合計が7.8%増の66億84百万円だった。
セグメント別に見ると薬業(医薬品・医療機器、農業薬品)は売上高が40.3%増の741億46百万円、営業利益が3.1倍の243億95百万円だった。なお海外売上高は5.8倍の236億60百万円だった。不動産事業(文京グリーンコート関連賃貸料など)は売上高が1.2%増の18億43百万円、営業利益が1.0%増の10億25百万円だった。
通期の連結業績予想(24年8月7日付で上方修正)は据え置いて、売上高が24年3月期比22.8%増の885億円、営業利益が118.6%増の208億円、経常利益が113.0%増の212億円、親会社株主帰属当期純利益が76.9%増の142億円としている。また配当予想(24年8月7日付で第2四半期末40円上方修正、特別配当40円を実施)も据え置いて、24年3月期比40円増配の190円(第2四半期末115円=普通配当75円+特別配当40円、期末75円)としている。予想配当性向は50.7%となる。
研究開発費(導入費用は含まない)は開発パイプラインの進展により25.2%増の157億円の計画としている。単体ベースの主要医薬品・医療機器売上高計画はクレナフィンが0.5%増の172億円、アルツが5.3%増の190億円、セプラフィルムが2.8%減の68億円、フィブラストが1.0%減の26億円、エクロックが21.4%増の22億円、リグロスが0.2%増の9億円、ヘルニコアが4.6%増の4億円、ジェネリック医薬品が1.3%増の81億円としている。
■長期経営計画2031
22年5月に2023年3月期から10か年の長期経営計画2031を発表し、画期的新薬の迅速な創出・提供により健康寿命の延伸に貢献し続ける企業、皮膚科・整形外科領域を中心にグローバルに展開する創薬企業を目指している。
長期的課題を見据えた戦略として研究開発では上市確度の向上、パイプラインの拡充、新規ニーズおよび海外展開への対応、新規分野へのチャレンジ、海外展開では海外展開品の充実、海外自社開発体制の整備、生産・海外自社販売体制の整備、農業事業では北米や新市場での伸長、EU市場への参入・拡大、日本国内での使用促進を推進する。また経営基盤強化に向けて、プロフェッショナルとして新たな挑戦・変革を追求し続ける人材の育成、データとデジタル技術を活用して変革し続ける企業風土の醸成、患者さんファーストのための製品価値最大化を推進する。24年3月には「健康経営優良法人2024」に認定された。25年2月には、みどりの食料システム法に基づく「基盤確立事業実施計画」の認定を受けた。
業績目標としては32年3月期の売上高1000億円、営業利益285億円、ROE10%以上、海外売上高比率30%以上を掲げている。研究開発では10年間で8品目上市するためのパイプライン確保、毎年1品目以上の開発導入品あるいは販売提携品の確保を目指す。海外展開では医薬品の海外売上高比率25%以上を目指す。農薬事業は微生物由来の天然物質農薬ポリオキシンを中心に、売上高100億円を目指す方針としている。
なお、長期経営計画2031については、3月下旬から4月上旬にかけて、戦略投資金額・キャッシュアロケーション等の一部見直しを予定している。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)