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【小倉正男の経済コラム】「一幕芝居」で馬脚を露呈 ウクライナ戦争和平交渉
- 2025/2/21 13:25
- 小倉正男の経済コラム
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■ゼレンスキー大統領、欧州諸国を除外して和平交渉
こんな酷い「一幕芝居」を見せられるとは呆れるしかない。トランプ大統領のウクライナ戦争終結交渉は、もっぱらロシアのプーチン大統領と行うというのだから論外の沙汰だ。プーチン大統領としたら、タナボタの事態になっている。
トランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙なき独裁者」と非難している。非難というより悪態といったほうがよいかもしれない。「そこそこ成功しているコメディアンが米国に3500億ドルを費やすように説得し、勝てない戦争、始める必要のなかった戦争に仕向けた」
これもトランプ大統領のブラフ(はったり・脅し)と見る向きもあるが、それにしてもプーチン大統領の言い分、ロシア発信情報を丸呑みしたような発言である。しかも3500億ドルという巨額もブラフというか、根拠は明確ではない。
戦争を始めたのはロシアであり、ウクライナではない。いくら何でも現実認識から正常さを欠いている。このあたりの認識が、ゼレンスキー大統領、欧州諸国を除外して和平交渉を行うという論拠となっている。ディールのブラフというよりも言いがかりをつけるといった類いにみえる。
■ウクライナに5000億ドルのレアアース所有権を要求
トランプ大統領は、ウクライナのレアアースに目を付けている。トランプ大統領は、米国のウクライナ戦争に対する軍事援助の見返りとして、ウクライナに5000億ドルの鉱物資源提供を要求している。あるいはそれでも不足なのか、ウクライナの鉱物資源の50%の所有権の供与を主張している。
5000億ドルというのは、ウクライナの鉱物資源の推定40~50%に相当するとみられる。ウクライナとしたら、踏んだり蹴ったりだ。戦争終結交渉ではプーチン大統領に肩入れし、ウクライナにはレアアースなど鉱物資源50%の所有権をよこせと要求している。これは法外な請求であり、ゼレンスキー大統領にしたら「国を売れ」と迫られているに等しい。
鉱物資源でいえば、ロシアはウクライナ・ドンバス地方(ドネツク州・ルガンスク州)の多くの地域を事実上占領している。ドンバスは世界的に知られた鉱物資源の一大産地だ。プーチン大統領はウクライナの鉱物資源をすでに押さえている。(ドンバス地方にロシア出身者が多いのは、鉱物資源の労働者として移住してきた歴史がある。プーチン大統領はロシア人保護をウクライナ侵攻の大義名分のひとつにしている。)
これではトランプ大統領とプーチン大統領でウクライナを勝手に分割しようとしているように映る。トランプ大統領の要求は、プーチン大統領と同等どころかあるいは上回っており、大義も何もなくなる。少なくとも、強欲ではどっちもどっち、甲乙つけがたい。
■前のめりになっているのは調停者?
ウクライナ戦争終結交渉を誰よりも急いでいるのは、トランプ大統領にほかならない。交渉の調停者なのか、交渉の当事者なのか、その両方を演じている。利益相反の極致というしかない。
現職の米国大統領がノーベル平和賞を獲得することができればレガシーになる。トランプ大統領はそれを狙っているという俗説が米国、欧州で広く語られている。
米国のケロッグ・ウクライナ担当特使が、トランプ大統領の意を体して「欧州諸国がウクライナ和平交渉のテーブルに着くことはない」と断定した時のことだ。記者の1人が「欧州はノーベル賞に影響力があるのですが・・・」と。質問というより、揶揄する発言をした。大受けのジョークとなった。
交渉は焦ったほうが負ける。ディールばかりしているトランプ大統領はそれを十分承知しているはずだ。ところが、本来は交渉の当事者ではない調停者がいちばん前のめりであるとしたら、交渉をまとめるのは無理である。ウクライナ戦争終結交渉で、まさか馬脚を露わすような「一幕芝居」の混乱を観せられるとは何とも言いようがない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)