【どう見るこの相場】厳格化する上場基準の中で復権する日本型経営の知恵、株主優待と重複上場の逆襲

■見直される株主優待制度と重複上場戦略の新展開

 ジャパニーズ・スタンダード(日本基準)とグローバル・スタンダード(国際基準)は、あの4隻の黒船来襲以来、日本の国論を二分してきた。主要経済官庁ではキャリア官僚が、民族派と国際派に分かれて官僚トップを目指す事務次官レースを競い合った。1990年代末から2000年代初めに掛けて、当時の橋本龍太郎首相が指示した金融システム改革、いわゆる日本版ビッグバンも、「フリー、フェア、グローバル」がキャッチコピーとなった。今年に入っては、これに米国のトランプ大統領が、「ディール(取引)」を強いるアメリカン・スタンダード(米国基準)が加わったから、トランプ大統領との首脳会談が不調に終わったウクライナのゼレンスキー大統領と同様に油断できない。

■上場廃止93社の時代に光る「裏道街道」としての地方取引所

 東証が2022年4月以来推進している市場改革も、目指すところはマーケットのグローバル化である。市場区分を5つから3つに集約して上場基準を厳格化し、海外投資家の投資マネーを呼び込めるだけの収益性、流動性、ガバナンス能力などを求めた。ジャパニーズ・スタンダードの政策保有株や親子上場、さらにはPBR1倍割れの解消もなども当然、求められることなった。

 このグローバル・スタンダードの厳格化は、一部上場会社にとっては、東証から「株式公開はゴールではなくスタート台」などと注文をつけられ、「箸の上げ下ろしにもいちゃもんを付ける」と受け取られた側面もあったようである。東証改革の進展とともにTOB(株式公開買い付け)、MBO(現経営陣による株式公開買い付け)が急増して市場撤退組が過去最多となった。昨年2024年の上場廃止会社は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場合計で前々年比33社増の93社となり、2024年末の上場会社数は、3842社と初めて減少した。このMBOには老舗のオーナー会社が多く顔を並べており、「上場メリットと上場コストを天びんに掛け」て非公開化を選択したことになる。

■三つ巴の基準争いで見せる「ジャパニーズ・スタンダード」のしぶとさ

 ジャパニーズ・スタンダードとグローバル・スタンダードにアメリカン・スタンダードが加わり三つ巴で競う基準争いのなか、マーケットで意外なしぶとさを発揮したのがジャパニーズ・スタンダードである。その代表は、株主優待制度である。株主優待制度は、2年ほど前までは海外市場には存在せず一部株主にメリットになるだけで不公平として廃止し、配当政策に一本化するケースが目立っていた。それが昨年来、株主優待制度の新設や優待枠の拡充などを発表してストップ高する銘柄も散見されるに及んで、優待制度が、株主への利益還元策として見直され、右に倣えとフォローする銘柄や廃止した優待制度を復活させる銘柄も出てきているのである。

 もう一つのしぶとさは、重複上場である。この重複上場は、2つの株価材料を潜在させている。一つは、東証で上場基準に不適合な会社が、上場基準のやや緩く個人投資家中心の名古屋証券取引所や福岡証券所に上場を申請し、仮に東証で上場廃止になっても他市場で売買が可能とする裏道街道の保険つなぎである。この卑近な例は、揚羽<9330>(東証グロース)である。同社は、東証の改善期間内に基準を未達となった場合に来年10月1日に上場廃止となると観測されている1社だが、今年2月14日に今9月期第1四半期決算とともに名証への重複申請と株主優待制度の変更を発表している。これに加えて名証、福証に重複上場することにより訴求力を高め新たな投資家層を開拓するとともに地域での知名度をアップさせてビジネスチャンスを拡大させることも目的としており、いわばマーケットサイドからの地方創生策につながる。

■「トランプ・ディール」懸念下での投資価値、重複上場株の割安性

 ということで今週の当コラムでは、「トランプ・ディール」による米国景気の減速懸念など全般相場がまだ不透明化しそうな全般相場を前に、意外としぶといジャパニーズ・スタンダード関連として重複上場銘柄を取り上げることにした。2023年以来、重複上場株は25社を数え多くが東証スタンダード銘柄となるが、東証の上場基準には達していないものの、投資バリュー的には割安な銘柄のオンパレードである。これに加えてふるさと納税関連株などのマーケットサイドの「元祖地方創生関連株」が再び焦点化する可能性もあり、「小粒でもピリリと辛い」特異性の発揮を期待したい。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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