【小倉正男の経済コラム】時価総額970兆円消滅、トランプ相互関税で世界経済は暗転 石破総理の打開案とは

■「世界暗黒の日」=970兆円の時価総額が一挙に消滅

 世界の激震が止まらない。4月3日NY株価(ダウ工業株30種平均)は1679ドル安の大暴落となった。それで一段落どころか、週末の翌4日には2231ドル安となり、ダウは3万8314ドルで引けている。史上3番目の大幅下落、ダウはついに4万ドルの大台を大幅に割り込んだ。連日の大暴落、しかも先行き不安定感は解消されていない。

 トランプ大統領の「相互関税」に対抗して、中国が報復関税に踏み切っている。トランプ大統領は中国に34%の相互関税を課したが、中国も同率の34%報復関税で対抗。世界は引き返しがつかない「関税戦争」に突入したことになる。トランプ大統領の「相互関税」で世界は暗転、「世界不況」=景気後退という暗黒に一気に覆われている。

 トランプ大統領は、相互関税の発効は「解放の日」と相変わらず身勝手な言動を続けている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると世界の時価総額は970兆円(6兆6000億ドル)規模で一挙に消滅している。ひとえにトランプ大統領の「関税戦争」に因る。日本の国家予算(一般会計)の8~9年分にあたる巨額が吹き飛んでいる。

 普通にいえば、トランプ大統領による「世界暗黒の日」、あるいは「世界不況の日」と名付けられるものだ。

■“杜撰さと言いがかり”の24%相互関税

 トランプ大統領が日本に課した相互関税は24%である。これは日本と米国の貿易での貿易収支赤字額を米国への日本製品輸入額で割り算する方式をベースにしている。「根拠不明」は毎度のことだが、この算定も合理的に理解するのは困難だ。

 この方式によると日本は米国に46%の高関税を課しているという算定になる。いわば、日本は46%の関税障壁で米国製品の輸入を阻んでいる。それがトランプ大統領の相互関税がはじき出した数字だ。そのうえで日本には24%の相互関税を課すとしている。

 米国政府筋は、「トランプ大統領の慈悲と優しさ」で24%の相互関税に“お負け”していると説明している。「トランプ大統領に感謝しなければならない」というわけである。これは身勝手な言いがかりに近い。(トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の大統領執務室での口論時に使われたロジックと同列だ。)

 石破茂総理が拠り所にしてきた米国への直接資本投資額1位などは全く関係ない。釣り上げた魚にエサは必要ないということか。グーグルなど米国テック大手企業が日本で稼いでいる巨額のデジタルサービス収支(収益)なども一切考慮なし。これでは“杜撰さと言いがかり”の相互関税というしかない。

■石破総理は「報復関税のようなことはするつもりはない」

 石破総理は腹案を持っているのかトランプ大統領との電話会談を模索している。

 「お互いに関税だ、報復関税だといって世界経済はどうなるのか」。「日本は米国に対して最大の投資国だ。米国における最大の雇用を作っている。投資もしていない、雇用も作っていない国とは違う。報復関税のように売り言葉に買い言葉のようなことはするつもりはない」。

 しかし、ここは世界経済もそうだが、日本経済が眼目だ。電話会談して、トランプ大統領の“慈悲と優しさ”にすがることができるとは思えない。理屈や説教などは通じない。報復関税を行う、行わない以前にトランプ大統領の相互関税そのものが世界経済を危うくしている。そこを打開できる解決案を提示できなければ電話会談には臨めないはずだ。

 電話会談は早急に行うことで調整している。「やるからには成功させるということだ」。石破総理はいつにない自信を示している。果たして、日米相互に利益になるような具体案を提示できるのか。

■トランプ大統領との電話会談=真価を問われる石破総理

 本来なら嘘でも米国の石油、ガスなど鉱物性燃料、穀物、食肉などに24%の報復関税を課すと宣言すべきところである。それを行えば日本国内のインフレにさらに火が付く。共倒れであり、誰にとっても得はない。しかし、それでもそのぐらいのことはやるぞという決意は持っているべきだ。あるいは何も言わないで胆力で米国債を大量に売却するぐらいは行う必要がある。

 トランプ大統領の「相互関税」は、日本でいえばトヨタ自動車、台湾TSMC、韓国サムスン電子など他国の代表企業クラスを米国内に取り込む。そのうえで米国は他国の国内雇用を米国に移行させて奪い取るという目論見である。各国は代表企業クラスを“供出”することを要求されている。

 近隣窮乏化の極致、米国の雇用は増えても各国は失業が増える。米国にとっては雇用の「輸入」、各国には失業の「輸出」を押し付ける策である。いわば不況を世界に背負わせる一種の帝国主義的な生産・雇用の「併合」「併呑」という本性が貫かれている。

 そのような欲深い目論見に高倉健さんの口調でとはいわないが「それでは報復関税やらせてもらいます」とタンカを切るぐらいの決意は秘めておいてほしい。あるいは「報復関税はしない。そんなことをして世界経済はどうなるのか」と説教嫌いのトランプ大統領に諄々とそれを説明する。難しい電話会談になることは間違いない。石破総理は真価を問われることになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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