くすりの窓口は目先的な売り一巡、26年3月期も収益拡大基調
- 2025/4/8 09:45
- アナリスト銘柄分析

くすりの窓口<5592>(東証グロース)は、調剤薬局・ドラッグストア・医療機関・介護施設等のヘルスケアテック領域においてソリューションを提供している。25年3月期は大幅増収増益予想(2月14日付で各利益を2回目の上方修正)としている。ストック売上高、ストック粗利が順調に拡大する見込みだ。修正後の通期予想に対する第3四半期累計の進捗率が高水準であることを勘案すれば、通期会社予想にさらなる上振れ余地がありそうだ。そして26年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化の影響で最高値圏から急反落の形となったが、目先的な売りが一巡して出直りを期待したい。
■調剤薬局等のヘルスケアテック領域でソリューションを提供
同社は調剤薬局・ドラッグストア・医療機関・介護施設等のヘルスケアテック領域においてソリューションを提供している。光通信<9435>の子会社で様々な店舗のネット予約サービスを展開するEPARKの調剤薬局部門として事業開始(15年8月)し、その後は「医・薬・介護、個人ユーザー(患者)をつなぐプラットフォーム」として、調剤薬局・ドラッグストア・医療機関・介護施設・患者等の様々なニーズを捉えた独自事業を自社開発して業容を拡大している。
事業区分は、メディア事業(薬局検索予約ポータルサイト「EPARKくすりの窓口」運営や電子お薬手帳アプリ「EPARKお薬手帳」などの提供)、みんなのお薬箱事業(独自事業として開始した薬局不動在庫売買プラットフォーム、薬局の医薬品仕入価格交渉を代行する「仕入サポートサービス」、医薬品在庫管理・自動発注システム「eオーダーシステム」などの提供)、基幹システム事業(医療機関・調剤薬局・介護施設に必要な事務処理システムや情報システムなどの提供)としている。
事業収益は、薬局等から得られる初期導入費用等のショット売上、および月額利用料・手数料収入等のストック売上である。なお同社は各事業の業績に関する重要経営指標を、ストック売上高およびストック売上高に対するストック粗利としている。継続的な収益が見込まれるストックビジネスを戦略的に重視し、ストック収益の最大化を図るとともに、ストック収益の顧客基盤から得られるデータを蓄積・活用し、顧客ニーズを捉えた高付加価値サービスの開発につなげている。その結果、ストック売上の積み上げにより高収益構造となっていることが特長だ。
24年3月期の事業別売上高はメディア事業が30億63百万円、みんなのお薬箱事業が35億04百万円、基幹システム事業が21億55百万円だった。各事業のストック売上高とストック売上比率は、メディア事業が24億60百万円で80%、みんなのお薬箱事業が24億13百万円で69%、基幹システム事業が10億16百万円で47%だった。ストック粗利はメディア事業が7億41百万円、みんなのお薬箱事業が12億22百万円、基幹システム事業が3億74百万円だった。
■メディア事業
メディア事業は「医療と患者をつなぐプラットフォーム」をコンセプトとして、患者の利便性、薬局の効率性・生産性の向上を目的としたサービスを提供している。
主力サービスは、国内最大級の薬局・ドラッグストア検索予約ポータルサイト「EPARKくすりの窓口」と、患者のお薬情報等を確認でき、飲み忘れ防止のためのアラーム発信機能等も有する電子お薬手帳アプリ「EPARKお薬手帳」である。いずれのサイト・アプリからも処方箋ネット受付・受取予約サービスを利用できる。
事業収益は、処方箋ネット予約に係る手数料収入(患者からの初回予約時に当該患者に係る初回登録手数料が発生し、その後は初回よりも金額を抑えた手数料が当該患者に係る登録管理料として毎月継続)である。なおアプリ「EPARKお薬手帳」では直接的な収益が発生しないが、いつも利用する薬局をかかりつけ登録できる等の機能により、薬局を検索することなく処方薬の受取予約ができるため、ポータルサイト「EPARKくすりの窓口」の利用促進・リピートにつなげる役割を担っている。
また、検索上位に表示される「EPARKくすりの窓口リッチプラン」や、患者のリピート促進に特化した顧客管理システム「Pharmacy Support」等も展開し、24年5月にはLINE公式アカウント「くすりの窓口」を開設し、LINEミニアプリでの処方箋ネット受付サービスを開始した。さらに店舗内の基本受付業務をAIが自動化するシステムや、患者がネット予約した薬局店舗に薬の在庫がない場合等にグループ近隣店舗の在庫状況を一元管理できる「AI stock」機能など、様々なニーズに対応して継続的に既存サービスの機能強化や新サービスの開発を推進している。
25年3月期第3四半期末(24年12月末)時点の主要KPIとして、ポータルサイト「EPARKくすりの窓口」の施設保有(導入店舗)数は2万2285店舗、全国の薬局店舗数約6万店舗に占める同社シェア(同社調べ)は約37.1%、アプリ「EPARKお薬手帳」のダウンロード数は581.2万件となっている。
なお25年1月には、救急往診やオンライン診療の利用者の窓口となる医療プラットフォームを運営するファストドクターと業務提携した。ファストドクターのプラットフォームを利用してオンライン診療を受けた患者が、医師からオンラインで受け取った処方箋をポータルサイト「EPARKくすりの窓口」対応店舗へ送信することにより、診療から処方という一連のプロセスをオンラインで完結できるサービスを提供(事業開始25年4月予定)する。
25年2月には、ウィーズ(E―BONDホールディングスの子会社、みんなのお薬箱事業で24年11月に業務提携)の全国400店舗超の調剤薬局がポータルサイト「EPARKくすりの窓口」導入店舗となった。25年3月にはアプリ「EPARKお薬手帳」がNTTドコモの共通ポイントサービス「dポイント」との連携を開始した。また4月4日には、サンキュードラッグが北九州エリアを中心に展開している61店舗の調剤薬局・ドラッグストアがポータルサイト「EPARKくすりの窓口」導入店舗になったとリリースしている。
■みんなのお薬箱事業
みんなのお薬箱事業は「医薬品卸と薬局をつなぐプラットフォーム」をコンセプトとして、医薬品卸売事業者と薬局における医薬品流通の改善を支援するサービスを提供している。
主力サービスは、薬局・医療機関に代わって医薬品卸売事業者に対する医薬品仕入価格交渉を代行する「仕入サポートサービス」、薬局・医療機関における医薬品在庫管理・AIを活用した自動発注システム「eオーダーシステム」、および医薬品売買ニーズマッチングサイト・アプリ「みんなのお薬箱」である。
価格交渉代行「仕入サポートサービス」は、スケールメリットを享受することを目的としたスキームで、事業収益は薬局等と医薬品卸売事業者との間の医薬品売買における取引薬価・売買価格に応じて算定される手数料収入(ストック売上)となる。
在庫管理・自動発注「eオーダーシステム」は、薬局等における過剰在庫抑制・欠品防止や薬剤師の事務負担軽減などの効果を目指し、薬局等のレセプトコンピュータと連携させ、AIを活用して必要な医薬品の種類と量を判断して自動発注する。事業収益は初期導入費用(ショット売上)およびシステム利用料収入(ストック売上)となる。
医薬品売買ニーズマッチングサイト・アプリ「みんなのお薬箱」は、全国の薬局の不動在庫(デッドストック)の有効利用を目的として、処方されずに不動在庫となった医薬品を売りたい薬局と、不足している医薬品を買いたい薬局の売買を仲介するサービスである。事業収益は売買が成立した医薬品の薬価に応じた手数料収入(ストック売上)となる。
24年11月には価格交渉代行「仕入サポートサービス」に関して、調剤薬局大手のE―BONDホールディングスの子会社ウィーズと業務提携した。日本最大の加盟店舗数および流通量を目指し、最初の取組として「仕入サポートサービス」を開始した。
25年3月期第3四半期末(24年12月末)時点の主要KPIとして、価格交渉代行「仕入サポートサービス」とマッチングサイト・アプリ「みんなのお薬箱」の合計施設保有(導入店舗)数は1万7522店舗、全国の薬局と医療機関の合計約17万施設に占める同社シェア(同社調べ)は約10.2%となっている。なお24年3月期の流通総額は2329億80百万円だった。
■基幹システム事業
基幹システム事業は「医科、薬局、介護のデータ連携プラットフォーム」をコンセプトとして、医療機関・薬局・介護施設に必要な事務処理システムや情報システムなどを提供している。
主な商品は、調剤薬局向けとして子会社モイネットシステムのオールインワンレセコン「Pharmy」、ハイブリッジの電子薬歴システム「Hi―story」、同社(24年8月に同社がキューブイメージングを吸収合併)の調剤監査システム「Cube.i」など、医療機関向けとしてエーシーエスの医事会計・オーダリング・電子カルテシステム「HOSPITAC」、メディカルJSPのクリニック向け電子カルテシステム「Ex―Karte」、同社(24年11月に同社がホスピタルヘルスケアを吸収合併)の外来受診支援アプリ「スマートガイドシステム」など、介護施設向けとして同社の電子介護記録システム「コメットケア」などである。
事業収益は初期導入費用等のショット売上と保守料収入のストック売上である。なお当事業は他の事業に比べて、システムの新規導入に伴う初期導入費用等のショット売上の構成比が高くなるため、新規導入数の変動が業績変動の要因となる。
25年3月期第3四半期末(24年12月末)時点の主要KPIとして、施設保有(導入施設)数は合計7931施設(内訳は薬局が5223施設、介護が2228施設、医科が480施設)となっている。
■中期経営計画
同社は中期経営計画として、30年3月期のストック売上高200億円、営業利益50億円以上を目標値に掲げている。ショット売上は状況によって変動があるため、3事業(メディア事業、みんなのお薬箱事業、基幹システム事業)において、高付加価値サービス提供などにより各々の市場シェアを拡大してストック売上を積み上げるほか、各サービス間および各事業間のシナジーも創出して増収・増益を確実にする仕組を構築する。
重点戦略としては、顧客基盤拡大として30年3月期までに10万施設導入(24年3月期末時点で調剤薬局・介護施設・医療機関合計3万8795施設)を目指すほか、3事業で蓄積されたデータを活用し、新規事業(未病予防関連としての健康保険組合加盟数・特定保健指導実施数の拡大、治験関連企業との連携による治験者募集など)の育成にも注力する方針だ。なお治験関連領域は25年2月末時点で5社(24年7月トライアドジャパン、24年8月インクロム、24年11月メディメイト、EPLink、25年2月シミックヘルスケア・インスティテュート)と提携済みである。
■25年3月期大幅増収増益予想、26年3月期も収益拡大基調
25年3月期連結業績予想(24年12月18日付で上方修正、25年2月14日付で各利益を2回目の上方修正)は、売上高が24年3月期比20.4%増の105億円、営業利益が31.4%増の18億円、経常利益が33.7%増の17億73百万円、親会社株主帰属当期純利益が94.1%増の16億90百万円としている。配当予想(24年12月18日付で期末1円40銭上方修正、25年2月14日付で期末7円23銭上方修正)は22円63銭(期末一括)としている。初配当で予想配当性向は14.7%となる。
第3四半期累計は売上高が前年同期比34.5%増の84億20百万円、営業利益が41.3%増の15億56百万円、経常利益が39.6%増の15億37百万円、親会社株主帰属四半期純利益が116.7%増の15億62百万円だった。EBITDAは37.4%増の24億63百万円だった。
大幅増収増益だった。売上面はメディア事業と基幹システム事業の大幅伸長が牽引した。利益面は大幅増収効果によってストック粗利が大幅増加し、販管費の適切なコントロールも寄与した。なお純利益については、24年11月に同社がホスピタルヘルスケアを吸収合併して繰越欠損金を引き継ぐことになり、法人税等調整額5億49百万円を計上(益)したことも寄与した。
事業別売上高はメディア事業が52.5%増の33億12百万円、みんなのお薬箱事業が14.3%減の23億23百万円、基幹システム事業が96.6%増の27億03百万円で、このうち同社が重要指標としているストック売上高はメディア事業が24.8%増の22億24百万円、みんなのお薬箱事業が11.4%増の19億60百万円、基幹システム事業が69.8%増の11億24百万円、ストック売上比率はメディア事業が67%、みんなのお薬箱事業が84%、基幹システム事業が42%、ストック粗利はメディア事業が69.0%増の8億79百万円、みんなのお薬箱事業が9.7%増の9億58百万円、基幹システム事業が109.1%増の4億60百万円だった。
メディア事業は大幅増収増益だった。24年度の調剤報酬改定により、連携強化加算の要件を満たすためにオンライン服薬指導が備わった「EPARKくすりの窓口リッチプラン」の新規獲得が牽引し、処方箋ネット受付数増加や単価上昇も寄与した。四半期別に見ると、第1四半期はストック売上高7億03百万円でストック粗利2億64百万円、第2四半期はストック売上高7億08百万円でストック粗利2億61百万円、第3四半期はストック売上高8億13百万円でストック粗利3億54百万円だった。予約数は第1四半期が138.7万件、第2四半期が142.6万件、第3四半期が163.6万件だった。
みんなのお薬箱事業は、一部の医薬品卸売事業者との調整の影響(仕入サポートサービスを行う持分法適用関連会社グローバル・エイチの親会社であるI&Hの株主が変更したことに伴う影響)により、仕入サポートサービスの新規顧客獲得が停滞してショット売上が減少し、全体としても減収だった。ただしストック売上が堅調に推移し、ストック粗利は増益だった。四半期別に見ると、第1四半期はストック売上高6億60百万円でストック粗利3億34百万円、第2四半期はストック売上高6億41百万円でストック粗利3億01百万円、第3四半期はストック売上高6億59百万円でストック粗利3億23百万円だった。なお今後の新規顧客獲得営業の見込みとしては、24年11月に新パートナーとしてウィーズと業務提携し、正常化に向けた活動を展開しており、26年3月期からは正常化する見込みとしている。
基幹システム事業は大幅増収増益だった。M&A(24年3月期第4四半期に3社を新規連結)効果のほか、調剤薬局向けの補助金対象となる電子処方箋管理サービスの新機能に対する需要が好調に推移し、ストック売上、ショット売上とも大幅に伸長した。四半期別に見ると、第1四半期はストック売上高3億63百万円でストック粗利1億56百万円、第2四半期はストック売上高3億77百万円でストック粗利1億62百万円、第3四半期はストック売上高3億84百万円でストック粗利1億42百万円だった。第3四半期のストック粗利は、ソフトウェア資産をストック原価に計上したため第2四半期比で減益となった。
全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が26億03百万円で営業利益が3億82百万円、第2四半期は売上高が28億41百万円で営業利益が5億67百万円、第3四半期は売上高が29億76百万円で営業利益が6億06百万円だった。全社ベースのストック売上高とストック粗利は、第1四半期がストック売上高17億34百万円(ストック売上比率67%)でストック粗利6億90百万円、第2四半期がストック売上高17億28百万円(同61%)でストック粗利6億53百万円、第3四半期がストック売上高18億60百万円(同63%)でストック粗利7億53百万円だった。
通期連結業績予想は前回予想(24年12月18日付の上方修正値)に対して、売上高を据え置いたが、営業利益を1億39百万円、経常利益を1億39百万円、親会社株主帰属当期純利益を5億71百万円、それぞれ上方修正した。売上高は概ね前回予想水準で推移し、営業利益と経常利益については第4四半期の経費が想定を下回る見込みとなった。親会社株主帰属当期純利益については第3四半期に法人税等調整額5億49百万円を計上(益)したことも寄与する。
修正後の通期予想に対する第3四半期累計の進捗率は売上高が80%、営業利益が86%、経常利益が87%、親会社株主帰属当期純利益が92%と高水準であることを勘案すれば、通期会社予想にさらなる上振れ余地がありそうだ。そして26年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は目先的な売り一巡
株価は地合い悪化の影響で最高値圏から急反落の形となったが、目先的な売りが一巡して出直りを期待したい。4月7日の終値は1750円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS153円90銭で算出)は約11倍、前期推定配当利回り(会社予想の22円63銭で算出)は約1.3%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS579円97銭で算出)は約3.0倍、そして時価総額は約196億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)