シナネンホールディングスは上値試す、26年3月期も収益拡大基調

 シナネンホールディングス<8132>(東証プライム)は、ビジョンに「脱炭素社会の実現に貢献する総合エネルギー・ライフクリエイト企業グループへの進化」を掲げ、成長戦略として国内事業基盤再整備およびリテールサービス戦略強化を軸に事業ポートフォリオ変革を推進している。25年3月期は主に電力事業の収益改善により大幅増益予想(3月31日付で売上高を下方、各利益を上方修正)とした。さらに26年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化の影響を受ける場面があったが、その後は急反発して年初来高値圏だ。利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。なお5月14日に25年3月期決算発表を予定している。

■総合エネルギー・ライフクリエイト企業グループ

 同社はグループミッションに「エネルギーと住まいと暮らしのサービスで地域すべてのお客様の快適な生活に貢献する」を掲げ、エネルギー関連のエネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)、および非エネルギー事業を展開している。

 24年3月期のセグメント別業績(外部顧客への売上高、全社費用等調整前営業利益)は、エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)の売上高が750億20百万円で営業利益が8億27百万円、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)の売上高が2525億44百万円で営業利益が▲25億69百万円、非エネルギー事業の売上高が204億88百万円で営業利益が8億94百万円、売上高の調整額(不動産賃貸収入)が2億29百万円、営業利益の調整額(不動産賃貸収入・セグメント間取引消去および全社費用)が1億35百万円だった。

 なお収益特性として、LPガスや灯油の販売は冬場が需要期となるため、収益は下期(特に第4四半期)に偏重する季節特性がある。また売上高は原油価格変動と相関関係が強い。

■エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)

 エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)はミライフ西日本、ミライフ、ミライフ東日本を中心に、家庭向け・小売事業者向けLPガスなど各種燃料の卸売・小売事業、リフォーム・ガス器具販売などの家庭向けエネルギー周辺事業、家庭向け電力販売事業、都市ガス供給事業、LPガス保安および配送事業などを展開している。エネルギー事業における顧客数の拡大や、住まいと暮らし事業における高付加価値サービスの拡充などにより高収益化を推進するとともに、新規事業創出により事業領域拡大を目指している。

■エネルギーソリューション事業(BtoB事業)

 エネルギーソリューション事業(BtoB事業)はシナネンを中心に、大口需要家向け石油製品・LPガスなど各種燃料卸売事業、ガソリンスタンド運営事業、法人向け電力と家庭向け環境配慮型電力の販売事業、太陽光発電システム販売およびメンテナンス事業、住宅設備機器販売事業、国内外での再生可能エネルギー電源開発事業などを展開している。石油中心から電力・再生可能エネルギーなど総合エネルギーサービスへのポートフォリオ転換を目指し、EV蓄電池事業の開発、国内外での再生可能エネルギー事業展開なども推進している。

■非エネルギー事業

 非エネルギー事業については、シナネンサイクルの自転車販売事業(小売店舗「ダイシャリン」および卸売事業)、シナネンモビリティPLUSのシェアサイクル「ダイチャリ」事業、シナネンエコワークの環境・廃棄物処理リサイクル事業(木質系チップ等)、シナネンゼオミックの抗菌事業(銀系無機抗菌剤ゼオライト製造・販売)、ミノスのITシステム事業(国内LPガス・電力小売事業者向け顧客管理システム)、シナネンアクシアの建物維持管理事業(ビル・病院・集合住宅等の維持・管理・清掃サービスなどメンテナンス事業、23年10月にグループ4社を統合して総合建物メンテナンス会社シナネンアクシアを設立)などを展開している。

 シェアサイクル「ダイチャリ」事業は、OpenStreetが提供するシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」を活用して、シナネンモビリティPLUSが首都圏1都3県および大阪府を中心に展開している。24年3月期末時点のステーション数は全国3500ヶ所超、設置自転車数は1.2万台超で、国内有数の規模となっている。さらに、高収益エリアでのステーション開拓などにより収益力向上を図るとともに、メンテナンスサービス拡大や新たなモビリティサービスの開発などにより、新たな収益源の創出を推進している。建物維持管理事業は、事業会社の統合によってワンストップサービスを実現し、安定収益の確保と利益率の向上を推進している。

■創業100周年の28年3月期にROE8%以上を目指す

 23年5月に策定した第3次中期経営計画(24年3月期~28年3月期)では、ビジョンに「脱炭素社会の実現に貢献する総合エネルギー・ライフクリエイト企業グループへの進化」を掲げている。脱炭素化に向けてエネルギー事業者としての責務を果たすとともに、グループ各社が展開してきた事業・サービスを地域ごとに融合し、時代の変化に対応しながら、顧客ニーズに合わせた高品質サービスを提供していくことでグループ全体の総合力向上を目指す方針だ。

 財務目標としては、創業100周年(1927年4月創業)となる最終年度28年3月期にROE8%以上、経常利益100億円の達成を目指す。株主還元については配当性向30%を目安に、1株当たり年間配当75円を下限とした安定配当を維持し、さらに中期的には配当性向40%への引き上げを目指す。

 また非財務目標として、脱炭素社会に対応した事業構造への転換、社員の市場価値の向上を掲げている。脱炭素社会に対応した事業構造への転換では、炭素生産性指標を「売上総利益/GHG排出量」と定め、17年3月期実績2.44に対して28年3月期の目標を2.60としている。より少ないGHG排出量でより多くの利益を創出し、脱炭素社会に対応した事業構造への転換を目指す。具体的な取組として全事業における売上総利益率の改善、サプライチェーン全体でのGHG排出量の削減、バイオエタノール・SAF等の燃料の供給、高効率給湯器等の販売、再生可能エネルギー事業の拡大、再生可能エネルギー電源の調達・供給割合の増加を推進する。社員の市場価値の向上は、会社の企業価値の向上という好循環につなげるため、教育投資や職場環境整備によりエンゲージメント指数の向上(23年3月期実績3.3点、28年3月期目標4.0点以上)などを推進する。

 ビジョンの実現に向けた基本戦略としては、成長戦略として事業ポートフォリオの変革、資本効率の改善、経営基盤強化戦略として風土改革・働き方改革のさらなる推進、人財育成の推進や人財適正配置の実現、業務効率化・標準化による生産性向上、グループ経営体制の強化を推進する。既存事業のオーガニック成長に加えて、M&Aも活用して脱炭素社会に寄与する新規事業(再生可能エネルギー、廃棄物資源化、環境負荷が低い新燃料製造・供給、住宅・建物の脱炭素化)で、さらなる成長・収益性向上を図る方針だ。

 事業ポートフォリオの変革では、特に国内事業基盤再整備およびリテールサービス戦略強化を成長戦略の軸に据え、成長性や収益性の低い事業の撤退・売却を推進する一方で、電気・環境ソリューション事業やライフクリエイト事業を中心に成長領域を特定して経営資源を集中投下し、新規事業の創出・利益化の実現を目指す。28年3月期までの事業ポートフォリオ変革投資額は500億円規模の計画(大型M&Aは別枠)としている。

 国内事業基盤再整備では、グループ事業の連携・融合により高品質サービスを提供する体制の構築を目指す。具体的にはグループ事業(特に建物維持管理事業とLPガス事業)を融合させた顧客基盤の構築とメリハリの効いた地域戦略の実行、LPガス・石油(軽油・灯油)の物流網を活かした広域同業他社との協業推進、グループのメンテナンス事業網の全国展開と高品質サービスの提供、既存事業の選択と集中などを推進する。リテールサービス戦略強化では、エネルギー会社からサービス会社へと意識を変革し、エリアに適したサービスの提供により、それぞれのエリアにおける生涯顧客の獲得を目指す。また新規事業の創出では、脱炭素・再生可能エネルギー事業を中心に、季節に依存しない事業への取組を強化し、新たな収益源の創出を目指す。

 なお事業ポートフォリオ変革に向けて、第3次中期経営計画期間中にセグメント区分を石油・ガス事業、ライフクリエイト事業(リフォームや給湯器等の住まいと暮らし事業、自転車事業、シェアサイクル事業、抗菌事業、システム事業、建物維持管理事業等)、電気・環境ソリューション事業(電力事業、バイオマス燃料事業、および再生可能エネルギーや廃棄物資源化等の新規事業)に変更予定である。そして28年3月期の売上総利益構成比の計画(イメージ)は、石油・ガス事業が53%、ライフクリエイト事業が33%、電気・環境ソリューション事業が14%(23年3月期実績は石油・ガス事業が69%、ライフクリエイト事業が29%、電気・環境ソリューション事業が2%)としている。

 この方針に基づき、24年12月には主力事業の統合および事業再編に向けた検討開始をリリースした。エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)を展開するミライフ西日本、ミライフ、ミライフ東日本、およびエネルギーソリューション事業(BtoB事業)を展開するシナネンの4社を26年4月1日付(予定)で統合し、顧客視点でサービスを提供する体制づくりを目指す。また、次世代を担うメンバーを中心とした「リテールサービス推進プロジェクト」を立ち上げるなど、ライフクリエイト事業の拡充に向けた取り組みも強化している。

■サステナビリティ経営

 サステナビリティ経営関連では、持続可能な社会の実現に向けて20年10月より森の豊かさを守る「シナネンあかりの森プロジェクト」に取り組んでいるほか、22年5月にサステナビリティ基本方針を策定してサステナビリティ推進委員会を設置した。22年6月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対する賛同を表明し、TCFDコンソーシアムに参画した。

 また風土改革と働き方改革の一環として、23年4月には副業制度、70歳までの再雇用制度、育児休業中の学習支援、自己都合退職者再雇用制度、治療と仕事の両立支援という5つの人事制度を新たに導入、24年4月には社内ベンチャー制度、ベビーシッター割引券配布制度、ウェルネス休暇制度、短時間勤務制度の拡充という4つの人事制度を新たに導入した。

 25年3月には同社およびグループ5社が、経済産業省と日本健康会議が選出する「健康経営優良法人2025(大規模法人部門)」に認定された。同社は3年連続、グループ5社は2年連続の認定となる。

■25年3月期は上方修正して大幅増益予想、26年3月期も収益拡大基調

 25年3月期の連結業績予想については、3月31日付で売上高を下方修正、各利益を上方修正して、売上高が24年3月期比9.6%減の3148億円、営業利益が36億円(24年3月期は7億11百万円の損失)、経常利益が43億円(同93百万円)、そして親会社株主帰属当期純利益が30億円(同10億39百万円の損失)としている。配当予想については据え置いて、24年3月期と同額の75円(期末一括)としている。予想配当性向は27.2%となる。

 前回予想(24年5月14日付公表の期初計画値、売上高3400億円、営業利益28億円、経常利益31億円、親会社株主帰属当期純利益18億円)に対して、売上高を252億円下方修正したが、利益面は営業利益を8億円、経常利益を12億円、親会社株主帰属当期純利益を12億円、それぞれ上方修正した。

 売上高については石油類の販売数量減少により計画を下回ったが、営業利益と経常利益については、電力事業において市場連動型プランへの移行と管理体制の見直しにより黒字回復が順調だったほか、石油事業において灯油取引の収益性が改善した。親会社株主帰属当期純利益については、営業利益と経常利益の上振れに加え、固定資産減損損失および子会社株式売却損の計上などを加味した。

 25年3月期は主に電力事業の収益改善により大幅増益予想とした。さらに26年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は上値試す

 株価は地合い悪化の影響を受ける場面があったが、その後は急反発して年初来高値圏だ。利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。4月14日の終値は6870円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS275円77銭で算出)は約25倍、前期推定配当利回り(会社予想の75円で算出)は約1.1%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS4900円02銭で算出)は約1.4倍、そして時価総額は約821億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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