【アナリスト水田雅展の銘柄分析】朝日ラバーは16年3月期業績減額修正だが安値圏モミ合いから上放れて急伸

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 朝日ラバー<5162>(JQS)は、車載用LED照明光源カラーキャップやRFIDタグ用ゴム製品などを展開し、マイクロ流体デバイスの量産も本格化している。株価は11月中旬に動意づき安値圏モミ合いから上放れて急伸している。16年3月期業績予想の減額修正がアク抜け感に繋がったか、従業員持株ESOP信託導入が自社株買いの思惑に繋がった可能性がありそうだ。強基調に転換して出直りの動きが本格化しそうだ。

■車載用小型電球・LED照明の光源カラーキャップが主力

 自動車内装照明関連などの工業用ゴム製品、スポーツ用ゴム製品(卓球ラケット用ラバー)、医療・衛生用ゴム製品(点滴輸液バッグ用ゴム栓など)、機能製品のRFIDタグ用ゴム製品などを展開している。

 自動車内装関連の車載用小型電球の光源カラーキャップ「ASA COLOR LAMPCAP」や車載用LED照明の光源カラーキャップ「ASA COLOR LED」が主力製品である。車載用の「ASA COLOR LED」は高級車向けに加えて、小型車や軽自動車向けにも採用が拡大している。

■分子接着技術をベースに新製品開発

 シリコーンゴムや分子接着技術をベースにした製品開発力が強みだ。新製品では、分子接着技術を活用した機能製品のRFIDタグ用ゴム製品の増産を進め、医療分野の新製品プレフィルドシリンジ(薬液充填済み注射器)用ガスケットの量産も開始した。

■マイクロ流体デバイスの生産能力増強で新工場(第2白河工場)建設

 NEC<6701>のポータブルDNA解析装置向けマイクロ流体デバイスについては14年10月に量産を開始した。マイクロ流体デバイスは分子接着技術を活用した製品で、NEC向け以外の複数案件も商談が進行中のようだ。

 そして15年8月に新工場の建設、補助金収入による特別利益および特別損失の計上を発表した。マイクロ流体デバイスの17年3月期以降の受注状況を踏まえて生産能力を増強するため、またライフサイエンス分野や体外診断用途などの医療分野における新製品開発を行うため、福島県白河市の工業団地「工業の森・新白河」内に所有している当社白河工場の隣接地に、新工場(第2白河工場)を建設する。総投資額は約11億60百万円、15年9月着工予定、16年春竣工予定である。

 新工場建設および初期導入の生産設備投資は、マイクロ流体デバイスに関する事業として、福島県の平成27年度福島医療・福祉機器開発・事業化事業費補助金の補助対象事業として採択・交付決定された。交付金額は最大7億50百万円で設備稼働実績後に受領する。

 これによって補助金収入を特別利益に計上し、補助金のうち固定資産取得に該当する分について圧縮記帳処理を行い、固定資産圧縮損として特別損失を計上する。現時点では確定した交付金額および交付時期が未定だが、確定次第速やかに公表するとしている。

■見やすく疲れにくい自動車内装照明の開発開始

 15年9月には埼玉大学と連携して、色のバラつきが少なく視認性に優れ、疲労低減性のある自動車内装照明用LEDの蛍光体層の共同開発を開始すると発表した。LEDの光を波長変換する蛍光体を組み合わせ、人間工学に基づいて運転者にとって見やすく疲れにくい照明の開発を目指す。

 なお、この共同開発は経済産業省の「平成27年度 革新的ものづくり産業創出連携促進事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)」として申請し、補助金の採択を受けた。事業期間は15年度から3年間(予定)で、補助金額は3年間で9750万円(予定)としている。

■15年3月期の営業損益悪化は一過性要因も影響

 15年3月期の四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)14億85百万円、第2四半期(7月~9月)15億40百万円、第3四半期(10月~12月)15億21百万円、第4四半期(1月~3月)15億13百万円、営業利益は第1四半期55百万円、第2四半期1億01百万円、第3四半期50百万円の赤字、第4四半期8百万円だった。

 売上面は概ね順調に推移したが、プロダクトミックスの悪化や役員退職慰労引当金繰入額の計上で期後半の営業損益が悪化したようだ。また15年3月期のROEは14年3月期比4.4ポイント上昇して9.6%、自己資本比率は同1.3ポイント上昇して39.3%、配当性向は18.0%だった。

■16年3月期業績予想を減額修正だが大幅営業増益予想は変わらず

 11月10日発表の今期(16年3月期)第2四半期累計(4月~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比4.2%減の28億98百万円、営業利益が同51.7%減の75百万円、経常利益が同60.4%減の65百万円、純利益が同55.7%減の46百万円だった。減収減益だったが、8月7日の修正値(売上高を減額、利益を増額)をやや上回った。

 自動車用「ASA COLOR LED」やRFID用ゴム製品などが顧客の在庫調整の影響を受けたことを主因として減収減益だった。マイクロ流体デバイスの増産に向けたコスト増加が想定を下回り、前年同期に発生した一部製品の品質管理に係るコストも一巡したが、減収で売上総利益が同11.0%減少した。なお売上総利益率は23.7%で同1.8ポイント低下、販管費比率は21.1%で同0.8ポイント上昇した。

 セグメント別動向を見ると、工業用ゴム事業は売上高が同2.3%減の23億68百万円、営業利益(連結調整前)が同48.7%減の1億35百万円だった。第1四半期まで自動車メーカーの生産調整の影響を受けた自動車用「ASA COLOR LED」は第2四半期に海外向けが増加したが、RFID用ゴム製品は海外向けで新機種対応の受注調整が続いた。卓球ラケット用ラバーも顧客在庫調整が続いた。利益面では来期(17年3月期)に予定しているマイクロ流体デバイス関連の増産に向けたコスト負担も影響した。

 医療・衛生用ゴム事業は売上高が同11.9%減の5億29百万円、営業利益が同37.3%増の48百万円だった。プレフィルドシリンジ用ガスケットおよび採血用・薬液混注用ゴム栓を販売している一部顧客における生産調整の影響で減収だった。ただし利益面では、前年同期に発生した一部製品の品質管理に係るコストが一巡して大幅増益だった。

 なお四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)13億96百万円、第2四半期(7月~9月)15億02百万円、営業利益は第1四半期26百万円、第2四半期49百万円だった。

 通期の連結業績予想については11月9日に減額修正を発表した。前回予想(5月12日公表)に対して売上高は4億30百万円減額して前期比0.8%増の61億10百万円、営業利益は39百万円減額して同2.5倍の2億91百万円、経常利益は23百万円減額して同2.3倍の2億77百万円、純利益は2百万円減額して同42.9%減の1億88百万円とした。

 自動車用「ASA COLOR LED」の受注が計画を下回り、RFIDタグ用ゴム製品は新機種対応で受注調整が続いているため計画を下回る。ただし大幅営業増益予想であることに変わりはない。なお純利益は特別利益が一巡して減益予想だ。

 配当予想については前回予想(5月12日公表)を据え置いて、前期と同額の年間13円(第2四半期末3円、期末10円)としている。予想配当性向は31.5%となる。

 通期会社予想に対する第2四半期累計の進捗率は売上高が47.4%、営業利益が25.8%、経常利益が23.5%、純利益が24.5%である。利益の進捗率が低水準のため再減額に注意が必要となるが、期後半の増収効果、プロダクトミックス改善効果、コスト低減効果などで挽回を期待したい。

■中期経営計画で17年3月期営業利益8億円目標

 14年5月発表の第11次3ヵ年中期経営計画(V-1計画)では、20年3月期を見据えた長期ビジョンを「AR-2020VISION」として、前半3ヵ年(15年3月期~17年3月期)を第1ステージ「V-1計画」、後半3ヵ年(18年3月期~20年3月期)を第2ステージ「V-2計画」としている。

 中期経営方針は、既存事業の質・量の継続的成長(国内事業は質的成長、海外事業は量的成長)、新市場・新分野への事業展開、20年に向けた事業基盤の強化・整備としている。

 そして第1ステージ「V-1計画」の目標数値として、17年3月期の売上高80億円(自動車分野37億円、医療分野13億円、ライフサイエンス分野16億50百万円、その他13億50百万円)、営業利益8億円を掲げ、設備投資計画は3期間累計で24億50百万円としている。成長分野への積極投資で中期的に収益拡大基調が期待される。

■従業員持株ESOP信託を導入

 なお15年7月1日発表の従業員インセンティブプラン「従業員持株ESOP信託」の導入について、11月10日に詳細を発表した。

 朝日ラバー従業員持株会に加入する従業員のうち一定の要件を充足する者を受益者とする信託を設定し、当該信託は今後5年間にわたり当社持株会が取得すると見込まれる数の当社株式を予め定める期間中に取得する。その後、当該信託は当社株式を毎月一定日に当社持株会に売却する。

 そして取得株式の総額は77百万円、取得期間は15年11月19日~15年12月22日(予定)で、取得方法は取引所市場より取得(ToSTNeT含む)とした。

■株価は安値圏モミ合いから上放れて急伸

 株価の動きを見ると、11月中旬に動意づいて安値圏700円台でのモミ合いから上放れの展開となった。そして11月24日は1027円まで急伸する場面があった。16年3月期業績予想の減額修正がアク抜け感に繋がったか、従業員持株ESOP信託導入が自社株買いの思惑に繋がった可能性がありそうだ。

 11月24日の終値1015円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS41円34銭で算出)は24~25倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間13円で算出)は1.3%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS794円03銭で算出)は1.3倍近辺である。時価総額は約47億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線と26週移動平均線を一気に突破した。安値圏モミ合いから上放れ、抵抗線を突破して強基調に転換した形だ。出直りの動きが本格化しそうだ。

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